六十六話 謎の宗教集団
「まったくもう……でもいいわよ。みーんなまとめて招待してあげるわ」
「わあい! ありがとうございます!」
私が肩をすくめてみせれば、リリィは歓声をあげる。
お客様が三人と一匹……個性豊かな大所帯だが、私が目を光らせておけば問題はないだろう。むしろ賑やかでいいかもしれない。
リリィはわくわくとその場の面々を見やる。
「そうと決まれば夏の予定を立てなければいけませんねえ」
「とりあえずは海遊びだろうか。近隣には他になにがあるんだ?」
「ベルフェドミナ家がオーナーを務める牧場などがございます。馬を借りてあたりを散策してもいいかと」
「牧場か……つまりケーキが食えるな?」
「あんた、ほんっとそれしかないっすね」
目をキランと光らせるヴァルのことを、オラクルがじと目で見やる。そのまま五人はわいわいと夏への計画を話し合う。
そんな彼らを見ていると、なんだか不思議な気持ちになってきた。
(ひょっとしたら、今回の人生で初の楽しい夏になるかも……)
これまでの私の夏といえば、お父様についてパーティに顔を出したり、贅沢三昧をしたり、ヨハネを意味もなくいびったり。
そんなつまらない日々を過ごしていた。
もちろん友達なんかも皆無だったし、楽しかった思い出なんてほとんどない。
それが――。
「夏休みまであと半月だ。周到に準備しないといけないな」
「試験次第で補習もありますし、試験勉強も大切ですよ」
「あっ、ロザリアさん。私、水着を持っていないんです。だからもしよかったら今度……」
「もちろんいいわよ。似合うのを選んであげるわ」
「わあい、ありがとうございます!」
今は、こんなにたくさんの仲間に囲まれている。
まず間違いなく、今年の夏休みはキラキラしたものになるだろう。
夏の気配に胸を高鳴らせていた私だが……。
(あら……なにか忘れているような)
ここは前世で遊んだ乙女ゲーム『ダンジョン恋物語』……によく似た世界。
私はこのゲームを馬鹿みたいにやりこんだから、攻略ウィキがほぼ丸々頭の中にある。
一年目の夏に、どんなイベントが起こったかもすべて覚えている。
だから……顔からさーっと血の気が引くのが、自分でもわかった。
(夏にリリィがこの島を離れたら……あの事件を防ぐのが、誰もいなくなるんじゃないの!?)
そんな予感を覚えた、その瞬間。
「我らが神はこうおっしゃった! 世界の終末は近い、と!!」
突然、そんな大音声が店の外から聞こえてきた。
私たちだけでなく、店内の客たちはみなきょとんとして顔を見合わせる。
(これって、まさか……!)
慌ててすぐそばの窓から顔を出し、表通りをのぞきこむ。
するとそこには奇妙な集団が集まっていた。
全員が白を基調とした神官めいた衣服を身にまとい、フードを目深にかぶって顔のほとんどを隠している。そのため種族や性別、年齢さえもわからない。
ただひとり、銀に輝くペンダントを胸にさげた者だけは違った。通りに向けて声を張り上げているので、壮年の男性だとわかる。
彼が語り上げるのは、典型的な終末論だ。
もうすぐ世界が滅びるだの、生き残りたければ彼らの神に祈るしかないだの。
集団の物々しさとあいまって、異様な緊迫感が醸し出されていた。
通行人はみんな顔をしかめて足早に通り過ぎる。
私のそばからひょいっと顔をのぞかせて、クリスが眉をほんの少し寄せた。
「ああ、最近あちこちにいる輩か。まったくご苦労なことだな」
「ご存知なんですか、クリスくん」
「まあな」
クリスが鷹揚にうなずくと、ヴァルを除くみんなが窓辺に集まった。
私も彼らについてはよーく知っているんだけど……解説はクリスに任せることにする。
「やつらは新興宗教の信者たちだ。特殊な神を信仰しているらしく、ああして極端な教義を説いて回っている」
「ああ、僕も耳にしたことがあります。たしか彼らの神は……」
ヨハネはすこし考え込んで、ぽんと手を打つ。
「そうです。学園ダンジョンに封じられているとされる、邪竜ヴァルドーラでしたっけ」
「…………は?」
我関せずといった顔でパフェをつついていたヴァルが、スプーンを持つ手をぴたりと止めた。
ここからちょっと二日か、三日に一度の更新になるかと思います。申し訳ございません。
のんびりお付き合いいただければ幸いです。お暇つぶしになりますように。




