六十五話 女性として心配しなさいよ!!
だが、これでひとまず夏の予定は決まった。
リリィとヨハネを連れて実家に――。
「姐さん、姐さぁん」
「うん? なあに?」
オラクルが立ち上がり、私の膝に前足をちょこんっと乗せる。
つぶらな瞳をきらきら輝かせて、こてんっと首をかしげてみせる。
「俺も姐さんの故郷に行ってみたいっす。でも……魔物はダメっすか?」
「そんなことないわよ。あなたはいい子だし、大丈夫よ。美味しいお肉を食べさせてあげるわ」
「わーい! 姐さん大好きっすー!」
小さな尻尾を振って全身で喜びを表すオラクルだった。
うん。かわいい。
ただどうもあざといっていうか、わざとらしいっていうか、『あなたそれ、私のウケを狙って演じてるわよね?』っていう予感がビンビンにするんだけど。
「可愛いから何にも問題ないわ! よしよし、オラクルはいい子ねー! この夏は思いっきり遊びましょ!」
「はいっすー!」
たとえこの可愛さが演技であったとしても、もふもふに嘘はない。オラクルを撫で回していると、リリィが不満げな声を上げる。
「オラクルちゃんだけズルいです! 私もなでなでしてください!」
「はいはい。夏休みになったらね」
「やったー! 約束ですよ!」
リリィは満々の笑みではしゃぐ。
その笑顔を見ていると、夏休みがより一層楽しみになってきた。私もつられて笑みを返して、ぱんっと手を叩く。
「それじゃ、リリィとオラクルは私たちと――」
「俺も行く!」
「我も行く!」
「えっ」
そこで勢いよく、二本の手が上がった。
クリスとヴァルだ。
ふたりは真剣そのもので私をじっと見つめていた。
「いやあの……ヴァル、なんで?」
「暇だからだ」
「あっ、そう」
あっさり言ってのけるヴァルに、私は肩をすくめるしかない。
邪竜を実家に連れて帰るとか、シュールにもほどがあるけど。まあ、甘いものを与えておけば大人しくしているでしょう。問題ない。
「それならヴァルはいいとして……」
ちらっと見やるのはクリスの方。
「クリスはダメでしょ。あちこちのパーティに出るんじゃないの」
「そんなものは父上や姉上に丸投げすればいい」
「社会勉強はどうしたのよ!」
さっきの爽やかな決意をもう反故にするというのか。
それに国内有数の貴族、エドワーズ家の跡継ぎを連れ帰ったともなればお父様は泡を吹いて倒れるかもしれない。
だが、クリスは真剣な目で私を見つめてくる。
「ロザリアくん。君は自分のことがよくわかっていないようだ。君のような魅力的な女性が海辺に出てみろ。声をかけてくる男が何人もいるだろう。そんなのはとうてい見過ごせない」
「えっ、そ、そうかしら……」
真っ向からの口説き文句に、おもわずドギマギしてしまう。
しかし、クリスが顔を歪め、苦しげに続けることには。
「そうなれば……まず間違いなく、きみはその男たちを海の藻屑に変えてしまうだろう! きみを犯罪者にするわけにはいかない! 俺がそばで見張らないと……!」
「女性として心配しなさいよ!!」
バゴォッ!
おもわずツッコミがてらにテーブルを殴ってしまい、天板が真っ二つに割れた。幸い、みんなその直前に自分の飲み物なんかを避難させたので物理的な被害はテーブルだけだ。
ざわめく周囲の視線が痛い。
ヴァルが修復魔法をテーブルにかけながら、ため息混じりにぼやく。
「おまえの身を案じるくらいなら、明日の天気を心配した方がはるかに有意義だ」
「申し訳ございません、ロザリア様。僕も主人に嘘はつけません」
「姐さんをナンパするとか、さすがの俺も遠慮したいっす」
「海でチンピラさんたちを千切っては投げ、千切っては投げするロザリアさん……水着姿以上に見てみたい光景です!」
「くっ……どいつもこいつも正しい評価を下すんじゃないわよ……!」
しかも、否定できないのが辛いところだった。
続きは明日更新します。
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