六十三話 放課後の打ち上げ会
かくして試験は無事に終了した。
「それじゃ、みんな……おつかれさまー!」
「お疲れ様ですー!」
私の音頭に合わせ、おなじみのメンバーがグラスを掲げて乾杯すする。
学園があるのは大きな島の一角だ。ちょうど向かい側には広大な街が広がっている。
この島は本国から船で一時間ほどの場所にある。
そのため、ちょっとした休暇を過ごすのにはうってつけの場所なのだ。街にはお洒落なカフェや雑貨屋さんがたくさんあって、いつも観光客や学生たちで賑わっている。
今日はみんなで魔法学の試験に合格できたお祝いに、とあるカフェに来ていた。内装はおしゃれで、メニューも豊富。そのうえお値段も良心的ということもあって、いつ来ても満席だ。
「みんなしっかり合格でしたね」
「ふっ、当然の結果だな」
のほほんと笑うリリィに、得意げなクリス。
それぞれオレンジジュースと紅茶という、『らしい』メニューを頼んでいた。
「皆で練習した甲斐がありましたね」
ヨハネは熱い緑茶をすする。
なかなか渋めのチョイスだ。みんな思い思いのメニューを注文して、クッキーなんかをつまんでいる。
「オラクルはどう? 美味しい?」
「むぐもぐ。もちろんです、姐さん!」
「そう、よかったわねえ」
オラクルは私の足元で、お皿に載ったフライドチキンを骨ごとぱくついている。さすがは肉食系だ。
私はアイスココアを飲みながら……隣にちらっと視線を向ける。
「で……なんであなたがいるの?」
「甘味を食べに行くと言うからついてきた」
平然と巨大パフェをぱくつくヴァルだった。
なんだか最近は一緒に行動するメンツが賑やかだ。いいことなんだけど……一部、人外のクセが強い。
(それを言ったら私なんか大魔王みたいなものだけど……)
そんなふうにため息をこぼしている間にも、リリィたちはにこやかに歓談を続ける。
「実技試験は終わりましたけど……来週からはとうとう学期末のペーパーテストですね。みなさんも勉強は順調ですか?」
「まあ、そこそこだな」
「さすがクリスくんです! 私はどうも緊張しちゃって……」
「いや、コルネットさんも問題ないでしょう。座学は学年でもトップクラスなんですから」
「ううー……でも私、プレッシャーに弱くて」
「鍛錬あるのみだぞ、コルネットくん」
しょげるリリィを励ますヨハネとクリス。
そんな会話を聞いて、私はぼんやりと考える。
「そっか、試験はたしかに気がかりだけど……これが終わったら夏休みねえ」
うちの学園のカリキュラムは日本の学校とあまり変わらない。
一学期から三学期に別れていて、その間に季節ごとの長期休暇がある。
つまり、あと半月もすればバカンスの始まりだ。
そう考えると無性にウキウキしてしまう。
(最初は悲観したけれど……夏まで生き延びるなんて! 頑張ったわね、私!)
おまけに夏休みは授業もないし……めちゃくちゃなステータスがバレないように努力する必要もない!
(死亡フラグはどうだったかしら……たしか、夏といえばアレがあったけど)
ゲームでのイベントの流れを思い出す。
一年目の夏はなかなか波乱万丈なイベントがあったが……たしか、誰の死亡フラグにも繋がらなかったはず。
(ますます夏休み万歳じゃない!)
私はウキウキ気分で歓談の輪に入る。
「夏休みはみんなどうするの? 予定はもう立てた?」
「ああ、俺は実家に帰るとするよ」
クリスは軽く肩をすくめてみせる。
「社交界の付き合いもあるしな。あちこちのパーティに顔を出さなければならないんだ」
「さすがは国内有数の貴族様ねえ」
「なに。これも社会勉強だ」
エドワーズ家の跡取り様ともなれば、どこへ行っても大歓迎されるだろう。大変そうだけど、クリスは平然としている。
しかしヨハネが難しい顔をする。
「ですが、パーティともなれば女性も大勢いるはずでしょう。大丈夫なのですか?」
「……平気さ」
クリスは薄く笑って、リリィに右手を差し伸べる。
「そうだな……コルネット君。俺の手を取ってくれないか」
「えっ。いいんですか? 女性が苦手なんじゃ……」
「クリス、あなた……」
「いいんだ。ほら」
焦る私にウィンクを向けてから、クリスはためらいがちなリリィの手を握る。
すると当然、彼の頭にはあの耳が生えてきた。
当然、ヨハネとリリィは目を丸くする。周囲の同級生もそれを目にしたのか、にわかにざわめきが広がった。
一方、クリスはどこか吹っ切れたように笑い、自分の犬耳をつまんでみせる。
「俺が女性を避けていたのは、こういう体質のせいなんだ。これまで失礼な態度を取ってしまって、すまなかったな。コルネットくん」
「い、いえ……ビックリしましたけど……似合っていると思います!」
「ちょっ……!」
リリィが彼のド地雷を全力で踏み抜いた。
慌てる私だが、クリスは照れたように笑うだけだ。
「はは、ありがとう。そう言われたのは初めてだが……なんだか面映ゆいな」
「く、クリス……急にどうしちゃったの?」
私はおずおずと尋ねるしかない。
続きは明日更新します。
思いついてしまったので新作を書き始めました。婚約破棄された令嬢を拾ったので、イケナイこと(夜中のラーメンや温泉旅行等)を教え込む話です。お暇潰しになりましたら幸いです。




