六十二話 デバフ魔法よ、ありがとう!
オラクルには試験の前に、魔力を低下させるデバフ魔法を重ねがけしてもらっていたのだ。
おかげで私の魔力は通常時の千分の一くらいにまで抑えられた。
私はふっ……と自嘲ぎみに笑う。
(あれがなかったら、たぶんこの一帯を焦土に変えちゃっていたものね……)
(姐さん……)
魔法学の実技授業が始まったのが、今からちょうど二週間前。
クリスの件がちょっと一段落して、オラクルと友達になってすぐのころだった。
呪文の発声から、魔力を操るイメージトレーニングまではよかった。
だが、魔法の実戦訓練となると……私はあえて苦手なふりをして、呪文をとちりまくった。
なにしろ私の魔力は999999。初級魔法とはいえ、どんな威力となるかもわからなかった。下手をすれば『今のはメ◯ゾーマではない。メ◯だ』並みのラスボスオーラを振りまいてしまうだろう。
なので、私はダンジョンの百階に向かった。
オラクルのテリトリーたる亜空間で、試し打ちをさせてもらったのだ。
もちろん家主(?)には許可を取った。あそこはだだっ広い荒野が無限に広がっているので、どんな超火力をぶちかましても被害はない。そう思っていたのだけれど……。
「《火円》!」
私が放った初級魔法は、亜空間の全域を火の海に変えた。
燃え盛る炎を前にして、オラクルは私の足元で「きゅーん」と困ったように鳴いた。
『姐さん、悪いことは言わないので……魔法は人前で使わない方がいいと思うっす』
『奇遇ね。ちょうど私もそう思っていたところよ』
『我でも今のをくらったら死ぬぞ』
見物に来ていたヴァルがちょっと引き気味にぼやいたのが、忘れられない。
しかし問題は魔法学の試験だ。別に魔法が苦手だとしても、落第するわけじゃないから使えないふりを続けたっていいんだけど……。
(そうなったら、絶対にみんなが付きっ切りで教えてくれようとするし……)
(ああ、こっちの人間は特にそうでしょうね)
ティーポットを片付けるヨハネをチラ見して、オラクルはぼやく。
魔法の特訓中に間違って魔法を使ってしまえば、みんなが危ない目にあう。それだけはなんとしてでも避けなくてはいけなかった。
そこでデバフ魔法の出番だった。
あれだけゲーム中は忌々しかったはずの、ステータスを低下させる妨害魔法。それをかけてもらって、私はなんとか試験を突破したというわけだ。
それでもちょっと常識はずれの火力が出ちゃったけど……火の海よりは断然マシである。
(約束通り、あとで満足するまでブラッシングしてあげるわ。でも……お礼がそんなのでいいの?)
(もちろんです! 姐さんのブラッシングは匠の技っすから!)
オラクルはにこにこ笑って言ってのける。
先日からずっと彼はこの白い犬の姿だ。巨人の姿より、ずっとお気に入りになったらしい。それはそれでラスボスとしてどうなのかと思うのだけど。
(でも呪術の効果はもう切れてるんで、ご注意くだ――)
そこで私の上に乗っていたオラクルが宙に浮いた。
「いつまでロザリアくんにくっついているんだ、この駄犬は」
オラクルを掴み上げながら、クリスは舌打ちする。
苦手なピーマンを前にした子供のようなしかめっ面だ。オラクルに鼻先を近づけて、鋭い眼差しでにらみつける。
「忌々しい魔物め。早くダンジョンに帰れ」
「残念だったな! 俺は姐さんのお付きだ! 学校にもそう申請したんだから四六時中一緒にいてもいいんだぞ!」
魔物を仲間にした場合、学園の審査を受ければ地上に連れてくることができる。
私もオラクルをアロイス先生に見せて、ちゃんと許可証を出してもらっていた。
おかげで彼はほとんどずっと私のそばにいる。ダンジョンに戻っても暇だから、らしい。ラスボス不在のダンジョンとかどうなのかしら。
それにしてもクリスとオラクル。顔を合わせるといっつも喧嘩しているし、まさに犬猿の仲だ。いや、犬と犬だし犬犬の仲?
にらみ合うふたりを見て、リリィはのほほんと笑う。
「クリスくんもオラクルちゃんも、仲良しですねえ」
「喧嘩するほど、ってやつかしら……」
そんなこんなで、試験も無事に再開。
私を含む四人は、見事初級魔法の試験を突破したのだった。
続きは明日更新します。
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