六十一話 いざ、魔法試験!
魔法を行使するのに必要なもの。
それは、その魔法に必要なだけの魔力値と、正しい呪文だ。
このふたつが合わさったとき、初めて奇跡を生み出せる。
そして――私はいざ魔法を使う。
「大地に満ちる聖霊よ。我がもとに集い、紅蓮の奇跡を成せ」
肩の力を抜いて、目を閉じる。
何度も練習した呪文を唱え……炎のイメージを心に描く。そうしてそれを、たしかな言葉に変えて舌に乗せる。
「《火円》!」
カッと目を見開いたその瞬間。
私がかざした手のひらから、燃え栄える業火が放たれた。
炎は試験用の的を飲み込んで、あたりの芝生ごと炭へと変える。
あとに残るのは、数百メートル四方の焦土だ。
おかげで後方のギャラリーがしんと静まりかえる。
見守っていたクラスメートたち、そしてアロイス先生。全員が全員、ぽかんと目を丸くして一言たりとも発さない。
やがて一陣の風が吹いて――ハッとしたアロイス先生が高らかに宣言する。
「ろ、ロザリア・ベルフェドミナ……合格!」
「ありがとうございます!」
私はぺこりと頭を下げた。
かくして私は無事に試験を終えたが、超火力のせいで試験場がダメになった。
おかげでしばし小休止。まだ試験が終わっていなかった生徒たちがグラウンドに散開して、魔法の練習を始める。
そんななか、私は木陰に腰を落とすのだ。
試験の疲れがどっと肩にのしかかる。
「ふう……でも、なんとか無事に終わっ――」
「ロザリアさーーーん!」
「うひゃわっ!?」
がばっと背中に飛びつかれて、おもわず変な悲鳴を上げてしまう。
振り返ってみれば、リリィがにこやかな笑顔で私に抱きついていた。豊かな胸部がぐいぐい押し付けられて、甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
おっと、私ってばいつの間にギャルゲーの主人公に?
なーんて現実逃避もそこそこに、私はリリィに苦笑を返す。
「ちょっ、リリィ……あなたは試験がまだ済んでいないでしょ。練習しなくていいの?」
「大丈夫ですよ!昨日しっかりロザリアさんが練習に付き合ってくれましたから」
ぐっと親指を立ててみせて、リリィは笑う。
そうしてますます私に抱きついて目を輝かせるのだ。
「やっぱりロザリアさんはすごいです!あんな大っきな炎、見たことありません!」
「あはは……ありがと」
「しかし凄まじい炎だったな……初級魔法の《火円》とは思えないほどだ」
軽い足取りでクリスも近付いてくる。
私が焼き払った芝生を眺めながら、あごを撫でる。
そうして唱えるのは先ほど私が使った魔法だ。
発動すると、手のひら大の火球が生まれる。
「《火円》といえばこの程度の大きさが一般的だ。それなのに君の炎ときたら……四、いや。五階梯魔法に匹敵するレベルだ」
階梯とは、魔法の難易度を示す。
たとえば《火円》は一階梯。初級中の初級だ。
階梯がひとつ上がるごとに難易度は指数関数的に跳ね上がり、三階梯あたりから上級魔法とされて、五階梯魔法をたったひとつでも使うことができれば羨望の眼差しで見られることは必至だ。
クリスはじーっと私を見て、感慨深げに吐息をこぼす。
「まったく君の力は底知れないな……」
「当然でしょう。なにしろロザリア様ですから」
そこでヨハネが口を挟む。
恭しく私の前に膝をつき、ティーカップを差し出してくる。
「お疲れ様でした、ロザリア様。こちら、疲れによく効くハーブティです」
「あ、ありがとう」
「きちんと冷やしておきましたし、ロザリア様のお好みに合うよう砂糖は多めです」
「あなたもとことん世話好きねえ……」
ありがたく頂いて、甘い紅茶をちびちび飲む。
「授業中では毎度不発に終わっていましたが、いざ試験になればあの威力。主人の才覚に、僕も鼻が高いですよ」
「いやあ……あんなのまぐれに決まって――」
「姐さーん!」
「ばふっ!?」
そこで白い丸々した毛玉が飛びついてきた。おかけで私は芝生に倒れこんでしまう。
その真上に乗っかるのはオラクルだ。
私に頰を寄せて甘えるふりをしつつ、こっそりと耳打ちする。
(俺のかけたデバフ魔法、お役に立ちました?)
(もちろんよ! ほんっとーにありがとね……!)
続きは明日更新します。
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