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六十話 彼の悩みは彼のもの

 やがてクリスは肩を震わせながら、言葉をつむぐ。


「きみはフェンリルの討伐推定レベルを知っているのか? 実に、レベル七十だ。おまけにどんなに腕のいい《魔物使い(モンスターテイマー)》だろうと、仲間にできた例はほとんどない。そんな魔物を、いったいどうやって懐柔(かいじゆう)したんだ」

「それはまあ、いろいろありまして……」


 実はこの子は、このダンジョンのラスボスであること。

 ワンパンで倒したことが縁になって、友達になったこと。


 そんな荒唐無稽(こうとうむけい)な話を正直に話すわけにもいかず、私は誤魔化すしかない。オラクルもそっぽを向いて黙り込むし。


 クリスは真剣な眼差しで私を見つめる。

 しかし、やがてふっと相好を崩してみせた。


「俺のことを気遣ってくれたのはありがたい。だが、これは俺の問題だ」

「……ええ。その通りだわ。ごめんなさい」

「だが……」


 クリスはにやりと笑って私とオラクルを見やるのだ。


「俺が目標とするフェンリルに、きみはレベル3で届いたのか……レベルじゃなくて、世界が違うよ。なんだか、俺の悩みなんか小さな物に思えてしまうな」

「そうかしら? でも……気が楽になったなら、よかったわ」


 私はそれに苦笑を返す。

 うん。人の心をどうこうしようなんて、やっぱり間違っていたのよね。


 たとえ未来で苦悩すると分かっていても……その苦悩も成長も含めて、彼の人生だ。

 私にそれを変える権利なんて、あるはずがない。


 なにしろ私は神ではなく、ただの人なのだから。


 ただまあ、そうなってくると膨大な死亡フラグがクリスに待ち構えることになるのだけど……。


(私が全部ぶっ飛ばせば済むことだわ)


 私はそんな決意を改めて固める。

 一方で、クリスはどこか吹っ切れたように笑いつつも……そっと周囲を見回す。


 私たちが閉じ込められている隙間はなんとか動ける程度のスペースしかない。どこを見ても巨大な岩が行く手を阻む。


「それにしても……どうやってここを出る? そのフェンリルに働いてもらうとするか?」

「おいこら人間。気安く俺を使おうとするんじゃないぞ、俺は姐さんの命令しか聞かないからな」

「こらこら。喧嘩しないの、ふたりとも」


 クリスとオラクルの間に入ってふたりをなだめる。


「こうなったのは私のせいよ。けじめをつけるわ」

「けじめ……?」

「ええ。あなただけが秘密を知られてるなんて、フェアじゃないしね」


 私はよいしょっと腰を上げる。

 そうして頭上をふさぐ岩盤に両手をついた。

 何トンあるかもわからない巨大な岩。それを――。


「よっ」


 私は軽く持ち上げてみせた。

 ぽかんと口を開けたまま固まるクリスだ。オラクルは『まあ、そのくらい楽勝でしょうよ』というしれっとした顔である。


 私はクリスに向けて、不敵に笑う。


「私、めちゃくちゃ強いの」

「…………さすがにこれは、予想外だな」


 クリスは唖然(あぜん)としたまま吐息をこぼす。

 まあ、その反応も当然でしょうね。


「さあほら、ぼーっとしてないで……あら、真っ暗ね」


 岩を持ち上げたままあたりを見回せば、そこは色濃い闇が支配していた。

 どうやらわずかにあったヒカリゴケの部分が崩れ落ち、まわりの光源が皆無になってしまったらしい。


「これじゃあどっちの方角に行けばいいかわからないわ……どうしましょう」

「……問題ない」


 クリスがそっと立ち上がり、あたりを見回す。

 くんくんと鼻を鳴らし、ある方角をじっとにらむ。


「俺は鼻がいいんだ。かすかに風の匂いがする」

「あっ! それなら俺もわかるっすよ! 姐さん!」


 オラクルが石の(ふち)に前足をかけて、私とクリスの間に立つ。

 褒めて褒めてオーラがすごい。ご要望にお応えして、私はその頭をぽふぽふと撫でる。

 岩盤は発泡スチロールのように軽く、片手でも余裕で持ち上げられた。


「偉いわねえ、オラクル。そうだ。今日のお礼になにかご馳走(ちそう)するわ、なにがいい?」

「わーい! 姐さんがくれるものなら、なんでもうれしいっす!」

「むっ……」


 にこにこ笑顔のオラクル。

 それを見て、なぜかクリスが眉をひそめてみせる。

 そっと身をかがめ、私の方に頭を寄せてきて――。


「えっ、なに?」

「俺には、ないのか」

「えっ」


 きょとんと目を丸くする私。

 数秒考えて、さらに数秒考え込んでから……おずおずと、その頭をぽふぽふしてみる。

 うん。見た目通り……いや、見た目以上に触り心地のいいふわふわの髪だ。


「こ、これでいいの?」

「ああ。問題ない」


 犬耳が生えたものの、彼は満足そうにうなずいてみせた。

 オラクルが渋い顔でそれをにらむ。うん。両手が自由になったら、あなたもまたちゃんともふもふしてあげるからね。


(いや、ふたりともワンコキャラが板についてるけど。それでいいの?)


 そんな疑問をひっそりと覚えたものの……。


(まあいっか。ひとまず一件落着、よね)


 実のところは何の問題も解決していないのだけど。

 私はどこか清々しい気持ちで、クリスをよしよしするのであった。 

続きは明日更新します。本章はこれで終了です。

明日からは『夏といえば◯◯◯◯◯◯よね!』編が始まります。◯の中身を当ててみてください。

ブクマや評価、ありがとうございます。御暇つぶしになれば幸いです。

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[良い点] 夏といえば...引きこもる!!(暑いの苦手) [気になる点] わんこキャラ多くない?今のところ攻略対象全員わんこ描写あるよ...
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