五話 授業で先生にほめられる
学園の敷地はとてつもなく広い。
のべ千人を超える生徒を収容する寮だけでなく、百を超える教室や教育施設がそろっている。
プールに学食、植物園なども取りそろえており、ちょっとした街のようだ。
そしてその周囲三百六十度を、透き通るような海に囲まれていた。
我が国――エルドラ王国の北西に位置する島である。
もとは荒れ果てた無人島だったというか、創立者がたったひとりで開拓したといわれている。
本日そんな学び舎では、特別な授業が行われていた。
場所は、巨大な扇型の講義堂だ。
孤の部分はすり鉢状になっていて、机と椅子が何段にもわたって続いている。
席を隙間なく埋めるのは、この春に入学したばかりの新入生、百名あまりだ。
彼らは熱心に、目の前の教卓に立つアロイス先生を見つめていた。
三十代手前の男性だ。美丈夫といって差し支えない顔立ちだが、いつも眉根を寄せていて近寄りがたい印象を与える。
授業も無駄が一切ないため、どこか緊迫感が満ちていた。
当然、私語をする生徒もいない。
そんな静かな講義堂の片隅で、私はノートを広げていた。
とはいえ真面目に授業を聞いているわけではない。
(うーん……やっぱり私、死にすぎでしょ)
まずはこの状況を整理しようと考えたのだ。
私の未来に待ち受ける数々の死亡フラグ。
それらを思い出せるだけ書き連ねてみた。
その結果、バラエティ豊かな死因が並ぶこととなった。
ダンジョンのモンスターに頭から食われる。
さらわれて改造され、化け物に変えられる。
学園を狙ったテロ事件に巻き込まれ、雑に死ぬ。
……などなど。
自業自得といったものもあれば、天災的な不幸に見舞われるパターンもある。
身から出た錆なら対処はしやすい。
だが、天災の場合は注意する以外になすすべはない。
(最初のリミットはあと六日だし……こんなのどうしろっていうのよぉ!!)
頭を抱えていた、そんな折だ。
「そこ、ベルフェドミナ」
「はい?」
ふと顔を上げれば、教室中の注目が私に集まっていた。
ぎょっとすると、アロイス先生と視線がかち合う。
じろりと細められた目からは、ありありとした怒りが感じられた。
「ずいぶんと上の空だったようだが、私の授業はそんなに退屈かね」
「い、いえ……そんなことはございません」
「ふん。では、今私が言った、ステータス七要素を挙げてみるといい」
「え、えーっと」
もちろん授業なんか聞いちゃいなかった。
でも、答えるだけなら簡単だ。伊達に前世でこのゲームを遊び倒したわけじゃない。
「ろ、ロザリア様、答えは……」
「大丈夫よ」
隣のヨハネが助け舟を出そうとするのを遮って、私は堂々と立って答える。
「体力、精神力、筋力、耐久力、魔力、俊敏、幸運……でいいですかね?」
「ほう……? 正解だ」
すこし虚をつかれたように目を丸くしてから、アロイス先生は板書を始める。
体力はHP。
精神力はMP。
筋力はATK。
耐久力はDEF。
魔力はINT。
俊敏はSPD。
幸運はLUK。
要するに、RPGでよくあるステータスだ。
どうやら世界観も元のゲームと同じらしい。
やれやれ、と腰を落とす前に、また先生がびしっと私を指し示す。
「では、次の問題だ。このステータスを伸ばす方法は?」
「えっと、レベルを上げることですね」
「そのレベルを上げるのに必要なこととは?」
「一番効率がいいのは……ダンジョンで経験を積むこと?」
「素晴らしい」
先生は仏頂面でうなずいたあと、また黒板へチョークを滑らせていった。
「レベルとは個人の熟練度を示すものだ。これは鍛錬を積むことで上がり、ステータスもそれにともなって引き上げられる」
黒板に書かれるのは、レベルと、七つのステータス。
「そして、もっとも効率のいいレベルの上げ方は、今彼女が言ったようにダンジョンにもぐることだ。その理由も説明できるかね?」
「ダンジョン内には、世界のどこより濃いマナが充満しているからです」
この世界には、マナと呼ばれる力が満ちている。
生き物の動力源や、魔法の素になるエネルギーだ。
そして、魔物が数多く住んでいるダンジョンには、そのマナが普通の場所の何十倍も満ちている。
マナが多い場所、それすなわちパワースポットのようなものだ。
そこでは人の成長が何杯にも早くなる。
そういうわけで、外で千回素振りをするより、ダンジョンで弱小モンスターの代表スライムを一匹倒した方が効率がいいのである。
キリが悪いので、今日はあと一回更新します。
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