五十八話 計画がズレ始めて……?
私はこのゲームを数百時間遊び尽くした。
ゆえに二階のマップも、おおまかに頭に入っている。
オラクルにクリスを引きつけるように頼んだのは、二階の奥の方にある袋小路だ。
特にアイテムの類いも落ちていない、シンプルな行き止まり。ゆえに生徒の姿は見当たらなかった。
幸い、ヒカリゴケがちょっぴりあるおかげで、数メートルくらいは見渡せる。
「くっくっく……なかなかやるではないか」
「観念しろ」
オラクルと対峙し、クリスは彼をにらみつける。
その目に宿るのは戦士……ではなく、猛獣のごとき殺気だ。
私はその隣にそっと並ぶ。
「ダメよ、クリス。あんなモンスター、私たちじゃとてもじゃないけど太刀打ちできないわよ」
「大丈夫だ。俺ならやれる」
クリスは私を見ることもなく、きっぱりと言ってのけた。
敵の力量も見ず、退くことも考えない。
そのギラついた殺気に、私はごくりと喉を鳴らす。
(そういえば……クリスも死亡フラグが多いんだっけ)
私はゲームの記憶を思い起こす。
クリスはこの通り、フェンリルの呪いに対する執念が強い。
ゆえに猪突猛進気味で……死亡ルートがやたらと多い。
仲間と言い争いになってソロプレイをして惨死したり、フェンリルの力に飲まれ、死ぬまで戦う獣と成り果てたり――。
(やっぱり早い目に……因縁を断ち切らなきゃ)
私が決意を固めた、そのときだ。
クリスはにたりと笑う。
「こんなこともあろうかと、用意しておいてよかったな」
「へ」
そう言って、彼は腰の剣を抜き放つ。
真紅に輝く細身の剣だ。柄はまるで蛇のようにうねっており、どこか見る者の心をかき乱すおぞましさがあった。
それを見て私はぎょっとする。
「ちょっ……! それって、まさか……」
「なんだ、知っているのか。さすがはお目が高いな」
「知ってるもなにも! 《百獣喰らい》でしょ!」
その名の通り。獣タイプのモンスターに二倍のダメージを与える特効武器だ。
「それってかなり高い装備品じゃなくって!? 数万ギルは下らないはずでしょ!?」
「ああ。だが、俺のポケットマネーで買えたぞ」
そういやこの人、国内有数の貴族様だったわ!?
(ま、まずい……! これじゃオラクルと互角に戦っちゃうかも……!)
オラクルもその刃を見て嫌な予感を覚えたのか、低く唸りつつ毛を逆立てる。
あの姿だといつもより弱体化していると言っていたし……わりかしピンチなのでは?
「さあ、行くぞフェンリル!」
「ま、待って!?」
「きゃうーんっ!?」
クリスが駆け出し、オラクルが悲鳴を上げる。
素早い斬撃をなんとかかわすが、毛がわずかに切り落とされる。
おかげでお尻の一部がハゲてしまった。
毛が舞い散る中、クリスはなおも剣を振り回す。剣先の残像が光の帯となって刻まれるほど、その剣捌きには一切の無駄がない。
(お、オラクル! もうなんでもいいから私を狙いなさい! 早く!)
私の思いが届いたのか、オラクルは逃げ惑いながら私へと飛びかかり――。
「きゃうきゃうーっ!」
ドゴォッ!
「えっ」
オラクルは私の真横をすり抜けて、壁に深々とめり込んだ。
あれだけドタバタと剣から逃げ回りだったせいか、狙いが逸れたのだ。
だがしかし、彼を気遣う暇もない。
「クリス! 伏せて!」
「なっ……!?」
オラクルがぶつかった壁から細かなヒビが天井まで広がって――大きな岩盤が、私たちめがけて降ってきた。
続きは明日更新します。
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