五十七話 フェンリル(偽)VSクリス
「リリィさん……いくら可愛かろうが、あれはモンスターですよ」
「で、でも、ヨハネくん……あ、あんなに、もふもふじゃないですか……! もふもふなんですよ!?」
リリィの目にハートマークが浮かび、手をわきわきさせる。
あまりの可愛さに正気を失いかけているらしい。
放っておけば迷わずオラクルに飛びついたことだろう。
だから私はそれとなく注意する。
「油断しないで。ふたりは援護を頼むわよ」
「はっ……も、もちろんです」
リリィは正気を取り戻したようにハッとするが、へにゃりと眉を下げてみせる。
「でも、あんまり乱暴しないであげてくださいね? まだたぶん子供ですよ……」
「それは相手の出方次第だな」
クリスが目の前のオラクルを見据えたまま、低い声でつぶやく。
その一方で、背後のヨハネは小首をかしげるのだ。
「この階層に、あのようなモンスターの目撃例などありましたかね……」
「イレギュラーはいついかなる時でも起きるものよ」
私はそれらしいことを言いつつ、オラクルに目線を投げる。
OK。そのまま進めてちょうだいな。
彼はつぶらな瞳で私とクリスを見やり、そうしてすぅっと息を吸い込んだ。
「よく来たな、人間どもよ」
「なっ、こいつ……しゃべって……!?」
クリスが悲鳴のような声を上げる。
人語を解するモンスターはかなり少ない。
そして、その多くがとてつもない強さを有している。
こんな二階で出るはずがない強敵の出現に三人が震撼する中、オラクルはあいかわらずの可愛い声で名乗りを上げる。
「我が名はまお……いや、フェンリル族のオラクルなり!」
「フェンリル、だって……!?」
クリスの顔色がさっと変わった。
それも当然だろう。
フェンリルは彼の因縁そのものだ。みるみるうちにその綺麗な顔には憎悪とも怒りともつかない色が浮かびはじめる。
(よしっ! 狙い通りだわ!)
つかみはバッチリ。正直、こんなフェンリルがいるかと一蹴される可能性も考えてはいたけれど……クリスは冷静さを失っているようだった。
「ついてくるがいい! 人間! 我の足に追いつけば、勝負をしてやろう!」
「ま、待て!」
オラクルは素早く洞窟の奥へと逃げていく。
それを追いかけるクリス。うしろのふたりも、それを追おうとするのだが。
「待って!」
私はそれを引き留める。
「言葉をしゃべるなんて、相当強いモンスターのはずだわ。なんでそんなのがここにいるかは分からないけど……下手に手出しするのは危険よ」
「で、でも、それじゃあクリスくんが……」
「私が連れ戻すわ。ふたりは一階に戻って待っててちょうだい!」
そう言って私はふたりに避難を命じ、クリスたちを追いかける。
(よしよし。ここまでは完璧だわ!)
ふたりを引き離せば、クリスもフェンリルの力を使いやすくなるだろう。
それゆえの分断だ。……なんかやってることが悪役くさいわね。
ふと浮かんだ自虐を振り払い、私は洞窟をひた走る。
続きは明日更新します。
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