五十六話 フェンリル計画、始動!
次の日の放課後。
私たちは再び噴水前広場に集結していた。
「よしっ! みんな、準備はいいわね!」
「もちろんです、ロザリアさん!」
私の呼びかけに、リリィが元気よく挙手してくれた。
ヨハネとクリスも軽くうなずいてみせる。
今日も今日とてダンジョン探索だ。
みんな昨日と装備は変わらず、クリスは私が渡した帽子を被っている。
おかげで通りかかった新入生の女子たちが呆気に取られて目を丸くする。
「ねえねえ、あれってクリス君よね! かわいい~!」
「しかもロザリアさんからのプレゼントらしいわよ……!」
「えっ、ふたりって付き合ってるのかな……」
「わかんないけど……ロザリアさん相手だと、勝ち目がないわよね……」
「わかる……」
なんて噂が私の耳に入ってくる。わかるの? ねえ?
だがしかし、そんなことを気にしてなどいられなかった。
今日は勝負を仕掛ける日だからだ。
「それじゃ、今日の目標は二階へ到達すること。みんなもそれでいいわね?」
「問題ないだろう。一階は危なげなく探索できたからな」
クリスがひとつうなずけば、帽子の耳がふわりと揺れた。
彼は私を見つめて眉を寄せる。
「しかし……昨日はとうとう、きみが戦うところは見られなかったな」
「そうですね。ご勇姿を拝見できず残念です。ロザリア様に危険がないのはいいですが……」
「あはは、でも大丈夫よ。今日こそ頑張っちゃうからね」
そう言って私は虚空にパンチを二度、三度。
自慢じゃないがやる気満々だ。それを見て三人とも相好を崩す。
だが私のやる気はダンジョン探索への意欲……ではない。クリスを吹っ切れさせる一大プロジェクトに対するものだ。
(ふふふ……頼んだわよ、オラクル!)
昨日新たにできた、もふもふの舎弟くんとは、綿密な打ち合わせが完了している。
計画が上手くいく保証はない。
むしろ穴だらけだが……やらずに後悔するよりは、やって猛省した方がずっといい。
「さあ、みんな! 私についてらっしゃいな!」
かくして私は三人を引き連れ、またもダンジョンへと足を踏み入れたのだった。
昨日同様、一階は新入生であふれている。
そんな中を私たちはまっすぐ、二階へ下りる階段を目指して進んでいった。
昨日の探索ついでに、二階へ下りるルートを見つけておいたのだ。
「やはり今日も敵が出てこないな……」
クリスは訝しげに周囲を確認する。
そんな彼、私は固い声で告げるのだ。
「でも、油断しないことよ。二階からはスライム以外のモンスターだって出てくるんだから」
「もちろんだとも。こんな序盤で無駄な怪我を負いたくはないからな」
クリスは不敵に笑って、足下の大きな岩をひょいっとかわす。
昨日転びかけて学んだらしい。一階とは言っても気は抜かないのは、真面目な彼らしいと言えば彼らしい。
あっという間に、二階への階段へたどり着く。
下からは冷えた空気が漂い、低く唸るような声も聞こえてくる。
一階とは、明らかに雰囲気が違っていた。
私たちはそろって顔を見合わせてから、慎重にその階段を下りていった。
たどり着いた先は、一階と同じような岩肌の迷路だ。
だが岩の色が上とはわずかに違っていてヒカリゴケも少ない。
足下がおぼつかないほどに暗かった。
「《魔灯》」
ヨハネが呪文を唱えると、私たちの頭上に光の球が浮かび上がる。
優しい光があたりをまばゆく照らし出した。私たち以外に人の姿は見当たらない。
「これで大丈夫でしょう。それでは先に――」
そこで、世にも恐ろしい咆哮が轟いた。
「がおーーっ!」
「……っっ!?」
後ろのふたりを庇うようにして、クリスが一歩前に出る。
かくして物陰から現れたのは、もちろんオラクルだ。
魔法の灯りによって彼のもふもふボディが照らし出される。
「かっ……」
リリィが息を呑んで口元を押さえる。
「かわいいいいいいいいい!!」
そして、昨夜の私みたいな黄色い声を上げた。
うん。わかる。しかもあの子、触り心地も抜群なのよ。
そんなことはもちろん言わないけどね。
続きは明日更新します。
ブクマに評価、まことにありがとうございます。これを糧に頑張ります。三章は今週中に終わるかと思います。そのあとは四章が間を空けずに始まる予定です。




