五十五話 もふもふ!もふもふ!!
私は腕を組んで考え込む。
あんまり仰々しすぎる魔物は、上層にいると不自然だし……。
そこでふと、思いつくものがあった。
「あっ、そうだ。フェンリルはどう?」
クリスといえばフェンリルとの因縁だ。
そもそも彼の今現在の目標が『フェンリルと戦う』ことだし、それが思いも寄らない場所で出くわしたのなら、ドラマチックでいいと思う。
【フェンリルっすかー。それじゃ、ちょっとお待ちくださいね】
オラクルは鷹揚にうなずいて立ち上がった。
全長百メートルを下らない巨人なので、ただそれだけで圧倒的な光景になる。
両手を広げて、厳かな声で呪文を紡ぐ。
【我が肉体よ! 万象を越えて転変せよ!】
かくして彼の体はまばゆい光に包まれる。
おもわず目を閉じてしまい、おそるおそる開いた後には――。
「わんっ!」
白い巨人の姿は消え、そこにはかわりに丸っこい毛の塊がいた。
体高、およそ一メートル。毛の色は雪のような純白。
ふっかふかの毛に埋もれるようにして、つぶらな瞳と小さな鼻がちょこんと配置されている。頭の上にはこれまた小さな三角のお耳。
限界まで毛を伸ばし、まーるくトリミングしたポメラニアンといったところだろうか。シルエットは完全なるボールだ。
「かっ……」
「わふっ?」
私はおもわず言葉を失う。
毛の塊が、不思議そうに小首をかしげたところで――。
「かわいいいいいいいいいい!」
「きゃうんっ!?」
我慢がならずに飛びついてしまった。
ぎゅうっと抱きついて全身でもふもふを堪能する。
獣臭さはみじんもなく、お日様の香りでいっぱいだ。干したての羽毛布団だってこうはいかないだろう。
「あの巨人がこんなに可愛いワンちゃんになるなんて……! 魔法ってすごいのね!」
「くっ、苦しいっす、姐さん……」
ワンちゃん――オラクルはちょっぴり顔をしかめるが、にっこりと笑う。
「でも、姐さんに喜んでいただけたのなら光栄っす!」
「声も可愛くなってるし~~~!」
前のがエコーのかかった若○ボイスなら、今のは鈴を転がすような釘○ボイス。
その上もふもふとか……最強過ぎるポテンシャルだ。
オラクルをなで回しながら、私は右手を差し出してみる。
「お手とかできる? はい、お手」
「こうっすか?」
「いやーーーー! 肉球ぷにぷにーーーー!」
オラクルは短い前足を懸命に持ち上げて、私の手に乗せる。
なにからなにまで可愛かった。おもわず無心で肉球をぷにぷにしていると――。
「……おい」
「はい?」
そこで不機嫌そうな声が降りかかる。
振り返れば、ヴァルが険しい顔で立っていた。彼は無言で私の頭に、ぽんっと手を乗せる。
「見ろ。それくらいは我にもできるぞ」
「はあ……」
……なにを張り合っているの、あなたは。
だが、おかげでちょっと冷静さが戻った。
オラクルの頭をぽふぽふしながら、改めて頭を下げる。ぽふぽふ。
「うんうん。完璧だわ。これでどこからどう見てもフェンリルね」
「そうか……? ずいぶん気の抜けた造形だと思うが」
ヴァルが不服そうに首をかしげると、オラクルはそちらをにらむ。
「仕方ないだろ。俺、フェンリルなんて初めて化けたんだから。そのせいか、この姿だといつもほどの力は出せないっすね」
「むしろそっちの方がいいわよ。上層なんだし、あんまり強いとかえって不自然だからね」
こうして準備は整った。私はオラクルをもふもふしつつ、改めて頭を下げる。
「さあ! 明日はよろしく頼むわよ、オラクル!」
「もちろんっす! 不肖、魔王アルター=オラクル! 全力で姐さんのお役に立ちます!」
「まあ……ほどほどに頑張れよ」
ヴァルは雑に相槌を打って、先に百一階の寝床へ戻っていった。
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