五十四話 ラスボスと秘密の計画を立てる
私はびっくりして言葉を失ってしまう。
しかしラスボス――アルター=オラクルはおかまいなしだ。揉み手でにこやかに語りかけてくる。
【どうもどうもお久しぶりっす、姐さん! 本日はどのようなご用件でしょうか】
「えっ、あの、ちょっと待ってほしいんだけど」
片手の平をかざして、私は彼(?)の言葉を遮った。
「なに……そのしゃべり方」
【へあ? 姐さんに失礼がないようにと思いまして】
「あとその、姐さんってなに!?」
【姐さんは姐さんですよ】
彼はにこやかに言ってのける。
声がおどろおどろしいままなのに、語り口調が穏やかなので非常に混乱した。
私が目を白黒させているうちに、アルター=オラクルはうっとりするように語る。
【俺はこのダンジョンで長年魔王をやってましたけど……姐さんにワンパンで倒されて気付かされたんです。俺なんか井の中の蛙にすぎなかったんだな、って】
「はあ……」
私はそれに生返事をするしかない。
ゲームだとふつうの敵キャラだったんだけどな……間違ってもこんな舎弟キャラではなかったと記憶している。
それだけ、私に倒されたのが衝撃的だったのだろうか。
(それにしたって変わりすぎでしょうよ!?)
ツッコミも追いつかない。
フリーズしてしまう私に、彼は小首をかしげてみせる。
【それで、本日はどのようなご用件で?】
「実はな」
私のかわりに、ヴァルが簡単に説明してくれた。
ピンチになる演技がしたいから、私のことを襲って欲しいと。
するとアルター=オラクルは二つ返事でうなずいてみせる。
【だったら俺に任せてほしいっす!】
「えっ……でも、あなたも無事じゃ済まないかも知れないのよ?」
【オラクルとお呼びください、姐さん。大丈夫っすよ】
巨人は明るく言い、どんっと胸を叩く。
【万が一姐さんに殺されても、一週間もあれば復活しますから。遠慮なくぶっ殺してください】
「ピンチになる演技だから、殺しはしないわよ!?」
たしかにヴァルには無理だろうけど、彼――オラクルは適役な仕事だろう。
いやでも、いろいろ問題があるでしょうよ……倫理とか、いろいろ。
「そ、それに、あなたみたいな大きな敵、クリスも倒せないと思うんだけど……」
【それも問題ないっすよ。俺は変身能力も備えてありますから】
「あっ、そういえば……第二形態とか第三形態があるのよね」
ゲームでのラスボス戦を思い出す。
今の真っ白い巨人の姿は第一形態だ。HPを削るごとに見た目が変わって、最後は神々しい青年の姿になった……はず。
引っかかりを覚えて、私は首をひねる。
「この前は、その第一形態でバトルが終わったけど……なんで変身しなかったの?」
【それはその……】
オラクルは申し訳なさそうに頬をかいて、うなだれる。
【姐さんのパワーが凄まじすぎて、変身の余力がなくなったっていうか、なんていうか】
「……ごめんなさい」
私は誠心誠意、頭を下げた。
我ながらオーバーキルにもほどがあるでしょうよ。
【あっ、気にしないでくださいね。倒されるのも含めて俺の宿命みたいなものなんで。そんなわけで、ぜひぜひ協力させてください】
「あ、あはは……ありがと。それじゃ頼りにさせてもらうわ」
私はおずおずとうなずく。
うーん……ラスボスが舎弟か。複雑だけど、好意を無下にするわけにはいかないわよね。
ほかに頼れる人もいないことだし、今は藁にもすがりたいところ。それがラスボスなんだから頼もしいったら、ありゃしない。
「それじゃ、軽く打ち合わせしましょ。ざっと計画は立ててきたんだけど……」
計画はこうだ。
まず、ダンジョンの人気のない場所までクリスだけを誘導する。
そうして仕掛け人は私を襲い、クリスから武器を奪う。
丸腰になった彼は、きっとフェンリルの力を使うことだろう。
かくして仕掛け人は撃退され、彼の自信も高まるはず。
そんな計画を語れば、ヴァルは小馬鹿にするように鼻を鳴らす。
「雑にもほどがあるだろう。そう上手くいくか?」
「そんなこと百も承知よ! でも、試したって損はないはずでしょ!」
私はそれをキッとにらみつけておく。
一方、オラクルはぐっと親指を立ててみせた。
【姐さんなら必ず成功しますよ! それじゃ、どんなモンスターに化けましょうか】
「そうねえ……」
続きは明日更新します。オラクルは二十九話以来の登場になります。
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