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五十話 乙女ゲームっぽい会話をする

 クリスの怪我がないことを確認して、ダンジョン探索を再開した。

 ふたたびリリィとヨハネが離れて、クリスがこそこそと話しかけてくる。


「すまない……ロザリアくんには、いろいろと気遣ってもらってばかりだな」

「気にしないでちょうだいな。秘密を知った以上は一蓮托生(いちれんたくしよう)よ」


 私はそれにウィンクひとつ返してみせる。

 これも何かの縁だ。ゲームではいろいろお世話になったしね。

 

「ちょっと聞きたいんだけど、ほんとに女の子が苦手ってわけじゃないのよね?」

「と、当然だろう。紳士たるもの、か弱い女性は守るものだ」


 クリスは胸を張ってそう告げる。

 しかしすぐに顔を(おお)って、重いため息をこぼすのだ。


「だが、この呪いのせいで女性には不躾(ぶしつけ)な態度を取らざるを得ないんだ……申し訳ない……」

「いやでも、それがイイって女子もけっこういるわよ」

「そ、そうなのか? 女性の心はわからん……」


 クリスは目を丸くしてみせる。


(まあ、顔がいいものねえ)


 こんな美青年に塩対応されたら、キャーキャー言いたくなる気持ちもすこしはわかる。

 じーっと見つめていると、クリスが不思議そうに首をひねる。


「だが、きみの側にいても、不思議と緊張はしないな……」

「もう秘密がバレちゃってるからじゃないの?」

「……そうかもしれない」


 クリスは口の端を皮肉げに持ち上げてみせる。


 女性と関われないというのは、かなりのハンデだ。

 なにしろこの世界の半分は女である。

 彼がこれまでの人生でどんな苦難を乗り越えてきたのか、ゲームをやっただけの私には、すべてを()(はか)ることは不可能だ。


 それでもクリスは、安心したように笑う。


「でも、こんなに心を許せる相手は家族以外には初めてだ。それはやっぱり、うれしいと思う」

「……そう」


 私はそれに、小さくうなずく。

 やわらかな笑顔と相まって、なかなかパンチが効いた口説き文句だ。


 これで私がふつうの女の子なら、ころっと落ちていただろう。

 しかし……あいにく、今の私は廃人ゲーマーモードだった。


(うん……やっぱりそこそこ好感度が高いわね)


 ゲーム中でも、彼はこんな台詞をリリィに告げていた。

 かなり好感度を高めないと聞けない台詞なので、これが出るということは私に対して信頼を寄せていることの証拠だった。


RTA(リアルタイムアタツク)、ほんとにできちゃうかも……」

「何か言ったか?」

「いいえ、なにもー」


 訝しげなクリスに、私は(さわ)やかな笑顔を返す。

 彼の好感度が高いのなら好都合。彼のルートを攻略し、吹っ切れてもらうためにも――。


(私がピンチを装って、クリスにフェンリルの力を使って助けてもらう! これで決まりでしょ!)


 ガバガバにもほどがあるって?

 自分でもそう思うが、他に道はない。


 彼にそのまま真実を告げるのはあまりに酷だ。

 私にできるのは、彼が吹っ切るきっかけを与えるだけ。


(たしか、ゲームだとリリィがモンスターに襲われてピンチになるのよね……)


 このあたりに出るのはスライムくらいのものだ。

 ラスボスすらワンパンしてしまう私が、スライム相手にピンチを演出できるかどうかは不明だが……そこはあっと驚く名演で切り抜けるしかないだろう。


(よーっし、いつでも来るがいいわ!)


 私は意気込みながら、ダンジョンを進んだ。

 しかし――。


「……全く敵に出くわさないな」

「……ほんとにね」

続きは明日更新します。

ブクマや評価、まことにありがとうございます。

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