四十八話 RTA、始まります!
かくして時間は無情に過ぎ、放課後がやってきた。
「よし。みんな、準備はいいか?」
「もちろんです!」
「しるべ草の用意も万全です」
私たちはダンジョン前の噴水広場に集結していた。
全員制服姿で、購買で買った初心者用の剣や杖を携えている。
後衛のリリィはそれに加えて、ポーションなどが詰まった肩掛け鞄を提げていた。
三人とも意気揚々としている。
まわりには他にもダンジョンに向かう生徒たちがたむろしているが、そのなかでも三人の気合いはトップクラスに熱いものだった。
だがしかし、私はその例外だ。
「おや、ロザリア様。顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」
「う、うん……平気よ」
私は無理矢理に笑顔を作ってみせる。
とはいえ今にも死にそうなほどの青白い顔をしている自覚はあった。
リリィもそれに気付いたのか、眉を寄せて私の顔をのぞきこむ。
「体調が悪いのでしたら無理をしないでくださいね。今日はロザリアさん抜きでダンジョンに行きますから」
「い、いえ。大丈夫よ」
仮病を使うのも一瞬考えたんだけどね……。
みんながダンジョンに向かうっていうのなら、それを放ってなんかおけない。
また、こないだみたいな事故が起こらないとも限らないし。
「………………」
あと、クリスがこっちをじーっと見つめている。
その縋るような目線に台詞をつけるとするなら『頼むからそばにいてくれ』だろうか。
彼の硬い面持ちにリリィも気づき、慌てて彼からさらに距離を取る。
「あっ、私はクリスくんには近付きませんから。女の子が苦手なんですよね」
「……すまない」
それでもクリスの表情が和らぐことはなかった。
不慮の事態で、リリィがクリスに触れてしまう可能性もゼロではないからだろう。
彼の呪いを知っていて、なおかつフォローできる味方は私だけだ。
(うん。やっぱりついて行くしかないのよね……)
私は覚悟を決める。
「私は大丈夫だから行きましょ。でも、今日の探索範囲は一階だけよ」
「もちろんです。無理は禁物、ですよね」
「一階なら出現するモンスターはスライム程度です。連携の練習にはもってこいでしょう」
ヨハネは教科書を片手に淡々と解説する。
マップを描くのもかって出てくれたし、サポート要員としては文句なしだろう。
そんな彼らを率いて、私はダンジョンへ向かう。
もはやヤケクソだ。それでも長い階段を下りながら、必死になって活路を探す。
(さーて……どうしましょ、何か手はない?)
戦闘で手を抜いたらどうだろう?
いやでも、ラスボスをワンパンするような力だ。
くしゃみした拍子にとんでもない威力を出してしまうことだって、十分考えられる。
じゃあ、意地でも戦わない?
それはそれで大問題だ。あとの三人に危険が及ぶ。
……わりと万策尽きてない?
(い、いや、力加減なら練習したら多分大丈夫だわ! クリスのフォローをしつつ、ってなると厳しいかもしれないけど……!)
そうなると、問題はクリスだ。
彼は自分の呪いが周囲にバレるのを、心の底から恐れている。
私がフォローを入れないとまず間違いなく思わぬところで明るみに出るだろう。
それはやっぱり……可哀想だもんね。
(じゃあ……クリスが自分の呪いについて、吹っ切れたらどう?)
ゲームにおけるクリスのルートを思い出す。
ルート後半、クリスは『フェンリルの呪い』の真実を知ってしまう。
彼は絶望し、あれほど信頼を寄せていたリリィの言葉にも耳を貸さず、殻にこもりがちになる。
だがしかし、ダンジョン探索中にそのリリィがピンチに陥る。
そこでクリスは己の力を受け入れて、フェンリルの力をもってして彼女を救う。
以降、彼は吹っ切れて、その力を彼女のために使うと誓う。
そこまでいけばクリスの精神も安定して、体質のことを周りに打ち明ける余裕が生まれる。
だが問題は……そのイベントの発生条件が『三年生に上がるまでに、ダンジョンの七十階に到達していること』と、そこそこ難易度が高いことだ。
(だから、そこまで一緒に冒険したら確実にバレるわよ!)
そうなると手は一つしかない。
私はぐっと拳を握り、小声で決意をつぶやく。
「高速で……クリスのルートを攻略する!」
RTA、始まります!
続きは明日更新します。
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