四十六話 呪いの正体
回想終了。
クリスの話を聞いて、リリィは首をかしげてみせる。
「クリスくんとロザリアさんのふたりだけで向かうんですか?」
「ええ、そのつもりよ。ほかに誘える人もいないしね」
私は肩をすくめる。リリィとヨハネ以外に親しいクラスメートなんていないし、まさかヴァルをダンジョンに連れて行くわけにはいかないだろう。
クリスも友達が皆無らしい。
ま、あんな秘密を抱えていたら、まともな人付き合いなんて不可能だもんね……。
「そういうわけだから、ふたりは待ってて――」
「はいっ!」
そこでリリィが元気よく挙手してみせた。
「ダンジョンに向かうのでしたら、私もご一緒したいです!」
「では、僕もお願いいたします」
「えええっ!?」
ヨハネも迷いなく、すっと手を挙げた。
おかげで私は目を丸くするのだ。
「ふたりとも、ダンジョンでこのまえ怖い思いをしたばっかりでしょ!?」
「それはそれですよ。私は全然気にしてません」
リリィはあっけらかんと笑う。
ヨハネもまた諭すように語りかけてくる。
「ロザリア様が僕たちを気遣って、ダンジョンの話を避けていたのは存じております。ですが、いつまでも逃げてばかりでは始まりません」
「そもそも、ロザリアさんだけを危ない目に遭わせるなんて我慢がなりません! 次は私がしっかりサポートしますからね!」
「ヨハネ……リリィ……」
ふたりの言葉に、私はおもわずじーんとしてしまう。
だがしかし、ハッと気づいて慌ててクリスに耳打ちする。
「ど、どうしましょ……断った方がいいわよね……?」
「いや……大丈夫だ」
クリスは気丈にもかぶりを振る。しかし、その顔は真っ青だ。
「……人手が多いのに越したことはない。それに、これでちょうど四人のパーティが組める」
「そういうことじゃなくて……秘密がバレちゃうかもしれないわよ!」
「ううっ……たしかにそれは気がかりだが……彼らの気持ちを無下にするわけにもいかないだろう……!」
「あなた本当に真面目ねえ……」
私は心底呆れてしまう。
ぱっと見俺様キャラなのにとことん人がいいせいで、困っているとやっぱり手を貸してあげたくなる。これを突き放せる人間は鬼だろう。
私がため息をこぼしていると、クリスはふたりに向き直り頭を下げる。
「よろしく頼む。俺は理由があって、早く強くなりたいんだ。仲間が増えるのは心強い」
「私の方こそよろしくお願いしますね。クリスくんはなにか目標があるんですか?」
「そうだな……ダンジョンの七十階にたどり着ける実力をつけること、だろうか」
「七十階! かなりの下層ですねえ」
クリスの曽祖父が、フェンリルと戦ったという階層だ。
そこでフェンリルを倒せば、きっと呪いは解ける。
彼はそう信じているのだが……。
(それで呪いは解けないわ……だってあれは呪いじゃなくて、ただの遺伝なんだもの)
私はじーっと、クリスの頭を見つめる。
クリスの先祖はフェンリルを打ち倒し、その際救った女性と結ばれた。そう伝わっている。だがしかし、それは真実ではない。
その女性こそが、フェンリルなのだ。
長い時間を生きた魔物は、人に化けるすべを会得することがある。
フェンリル討伐を依頼された彼の先祖は、そこで彼女と恋に落ちた。
フェンリルを倒したと嘘をつくことで、彼女を守ったのだ。
クリスの曽祖父はそのことに気付いた。
そして先祖の名誉を守るため、口を閉ざすことに決めたのだ。
フェンリルと戦え、という言葉も『己の中に眠るフェンリルの血と向き合え』という意味なのである。
私はゲームにおける、クリスのルートを思い起こす。
キマイラを倒したものの、彼の呪いは解けなかった。
失意に陥った彼は、ひょんなことからその力は呪いではなく、己の血に宿ったものだと知ってしまう。
世界がひっくり返るような事実を知ってしまったクリスは、一時期自暴自棄になってしまい――という、すったもんだの展開が繰り広げられる。
そんな未来を、今のクリスは思いもよらないだろう。
硬い面持ちを私に向ける。
「きみも改めてよろしく頼む。昨日のあれは、我ながらいささか強引すぎたと反省するのだが……」
苦々しげに顔をしかめてから、深々と頭を下げてみせる。
「このとおり。どうか力を貸して欲しい。俺には君の力が必要なんだ」
「う、うん……」
藁にもすがるような」思いがひしひしと伝わってきて、私はおずおずとうなずいた。
クリスのことは嫌いじゃないし、困っているのはよく理解できる。
協力するのは全然いいんだけどね。
(でも、なにかこう……忘れているような……?)
もやもやした不安が胸の中で育っていく。
その正体に私が気付く前に、クリスは不敵な笑みをうかべてみせて――。
「きみの噂は聞いている。キマイラを倒したというその実力、背中を預けるには十分だ」
「あはは、期待に応えられるよう頑張……」
「うん? どうした」
首をかしげるクリス。
一方、私はだらだらと流れる冷や汗を止められずにいた。
(ダンジョンで一緒に戦ったら……私のぶっ飛んだステータスがバレちゃうんじゃないの!?)
続きは明日更新します。
思ったよりストックができなかったので、明日からは一日一回更新です。すみません。
いつも読んでいただけてありがとうございます。今後もゆるゆるやっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。




