四十四話 似合ってると思うけど絶対に言えない
……うん。
ゲームをやったときも思ったけど、担当ライターさんが思春期にフ○ーツバスケットを読んで、性癖に致命傷を受けたタイプの人なのかしらね。
わかるわかる。
あの漫画、心の深い部分に刺さるものね。
なーんて感じで、私が懐かしさに浸っていると。
「だが、知られてしまった以上は仕方ない……こうなったら……!」
クリスは思いつめた様子で立ち上がり、懐を探る。そうして取り出したのは……。
「この場で潔く、命を絶つしか……!」
「何でそうなるの!?」
私はバシッとそのナイフをはたき落した。
地面にむなしく転がる銀の刃。
それを力なく見下ろして、またも彼は地面に膝をつき、ぐったりうなだれてしまうのだ。
「だって、こんなみっともない秘密を知られてしまったら、もう生きてはいけないじゃないか……!」
「大丈夫だって……私、誰にも言ったりしないから」
「信用できるか! きみの周りはいつも人が多いし、うっかり口を滑らせる可能性はゼロじゃないだろう!」
「うっ、しごく真っ当なご意見だわ……」
うーん……その耳、けっこう似合ってるし、そんなに悪くないと思うんだけど。
彼にとってその言葉はド地雷なので、口が裂けても言えない。
そうこうするうちに、彼は顔を覆って泣き崩れるし。
「秘密がバレないように、俺がどれだけ苦労したと思っているんだ……! そうだというのに、まともに話したこともないきみにバレていたなんて……!」
「だったらずっと帽子をかぶってれば? 耳が隠せるわよ」
「学校野中で帽子をかぶり続けるなんて、マナーに反するだろ!」
「真面目ねえ……」
育ちの良さが裏目に出たとも言える。
そもそも秘密を知られたから私を消そうって考えにならないあたり、根はいい人なのよね。極端ではあるけど。
(でも、懐かしいわね。この感じ。相変わらずの情緒不安枠っていうか)
乙女ゲームには、重い問題を抱えて情緒が不安気味なキャラクターがたまーにいる。
主人公はそんな彼らを励まし、慰め、ときに一喝して、ともに問題を解決していくのだ。
さながら心理カウンセラーのごとく。
普段はしっかり者の彼が、自分だけに見せてくる弱い一面……みたいなギャップを演出しやすいからだろう。
クリスもそんなキャラクターのひとりだ。
表向きは《氷の貴公子》。しかしその実態は『フェンリルの呪いに悩む気弱な青年』なのだ。
おまけに犬属性。ちょっと属性を盛りすぎでは?
ゲーム中は、ひょんなことからリリィと二人きりになり、その際に『呪い』のことがバレてしまう。
だから彼は秘密を知ったリリィを監視すべく、ある条件を突きつけるのだが――。
(あっ、ちょっと待って。そうなると私がリリィのポジションになるのでは……?)
嫌な予感を覚えたそのとき。
彼は顔を覆っていた手を放し、ゆらりと立ち上がる。
うつむき加減に、ぶつぶつ言うことには。
「……俺はこの呪いを解く方法を、ずっと探していた。そうしてわかったのは、この学園のダンジョンに解呪のヒントがあるということだった」
「は、はあ……それで?」
「こうなったら……最後の手段だ!」
顔を上げると同時に、私の肩をがっと掴む。
そうしてクリスは真剣な顔で宣告してみせた。
「秘密を知られてしまったからには、きみと俺とは一連托生! 俺と一緒に……ダンジョンにもぐってもらうぞ!」
「ええー……」
ゲーム通りの展開に、私は弱り果てるしかない。
いや、ダンジョンにもぐること自体は別にいいんだけどね。
(だってこれ、本当は呪いなんかじゃないものね……)
彼の頭でぴくぴく動く犬耳を眺めながら、そんな複雑な思いを抱く私であった。
続きは7/26に更新します。
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