三十七話 耐えきれないので乱入します!
(あっ、でも変な空気は消えたわ! やっぱりナイスよ! ヴァル!)
あとでまたケーキをご馳走してあげないと。
ルンルン気分で財布の中身を確認していると、ヴァルはなおも続ける。
なぜか彼は、口の端に薄い笑みを浮かべてみせて――。
「我は長年、食事など瑣末なものと思っていたが……最近はそうでもない」
竜種は本来、食事をとる必要がない。
空気中のマナを取り込むことで、生命活動に必要なエネルギーを、すべて賄えてしまうのだ。
……たしか、ゲームではそういう設定だったはず。
だからヴァルはダンジョンに封じられても、飢えることなく生きながらえた。
「そんな我に、あいつは食事の楽しみを教えてくれた。最近は進んでさまざまな食物を口にするようにしているが……」
そう言って、ヴァルはぱちんと指を鳴らす。
虚空から落ちてくるのは、真っ赤なリンゴだ。
つやつやとした表面にはわずかな傷もなく、一目見るだけで上質なものだとわかる。
それをヴァルは一口かじってみせた。
しゃくっと響く、小気味よい音。
「うむ。それなりに美味ではあるが……」
彼はしばしゆっくりと咀嚼してから、不思議そうに首をひねるのだ。
「やはりあいつが側にいなければ、何を食べても味気ない。これはいったいどういう理由なのだろうな」
「っ、それそれ! そういうのですよ!」
「私たちが聞きたいやつです!」
それに食い付くヨハネとリリィだった。
うん……こういうの見たことあるわ。
オタク同士で集まって、推しについてプレゼンし合う飲み会。
しかも、けっこうお酒が進んで前後不覚になってきたころのテンションだ。
(っていうかヴァル! その台詞、ゲーム中でリリィに言うはずのやつだからね!? 私に使っちゃっていいの!?)
しかも仲間になってから、そこそこ信頼度が高くなったときに発生するイベント台詞だ。
リリィに恋心を抱くものの、はじめて覚える感情が理解できずに戸惑うっていう、激エモなイベント。
それを知り合ってまだ半月の私に使うのか。
そういう大安売りはどうかと思うわよ、邪竜さん!?
複雑な思いを抱える私をよそに、場はますます盛り上がっていく。
「やはりヴァルどのにも、我らの会に入っていただくべきでしょうね」
「賛成です。ぜひともご一緒にロザリアさんを語りましょうよ」
「うむ、悪くはない」
まんざらでもなさそうに首肯するヴァルだった。
おかげで場はますます盛り上がりを見せて――。
そこが我慢の限界だった。
「話は聞かせてもらったわ!!」
ばーーーん、と扉を開けて私、参上。
おかげでヨハネとリリィが驚愕に目を丸くする。
「っ……ロザリア様!」
「ロザリアさん!?」
「なんだ、いたのか」
ヴァルだけが、のほほんと私を出迎えた。
ついでにリンゴをもう一口かじると、今度は満足げにもぐもぐしはじめる。
人間形態になってから、妙にマイペースだ。それともこれが彼の素なのだろうか。
まあ、それはともかくとして。
「ろ、ロザリア様……いったい、いつからそこに」
「悪いと思ったけど、最初から聞いていたわ」
私は黒板をキッとにらみつける。
そこにデカデカと書かれているのは『ロザリア様ファンクラブ』という文字だ。
「あなたたち! 貴重な青春の時間を、こーんな胡乱な会合に費やすんじゃないわよ! もっと有意義に使いなさい!」
「そう、おっしゃられましても……」
「とっても有意義な時間でしたしねえ……」
「目を覚まして!? もっとほかの世界にも目を向けてちょうだい!?」
ヨハネとリリィは釈然としなさそうに顔を見合わせる。
そんなふたりに、私は深いため息をこぼすのだ。
呆れ……ではない。ちょっとした申し訳なさである。
「それに……私はみんなが言うような、素晴らしい人間じゃないわよ」
続きは7/22更新します。
評価にブクマ、ありがとうございます。みなさん暑さにお気をつけて。




