三十六話 邪竜の評価
最近はヴァルは気軽に地上まで出てきて、私たちと行動をともにすることが多くなっていた。
ヨハネやリリィとも、すっかり顔見知りだ。
とはいえ、ふたりとも最初はちょっぴり戸惑っていたけどね。
『あの方、いったい何年生なんですか? あまり授業を受けている様子が見られないのですが……』
『あー……いろいろあって、ここに長くいるみたいなの』
『さ、さようでございますか』
『だから学園のことにお詳しいんですね……』
それ以降、ふたりは深く追求しようとはしなかった。
どうやら『ダブりまくりの上級生』だと納得してくれたらしい。
ヴァルには悪いが、真実を告げるわけにもいかないので、そのまま勘違いしてもらっている。
とはいえヴァルがやってきたことで、部屋の空気は一変した。
私はこっそり親指を立ててヴァルを讃える。
(よくぞ空気を壊してくれたわ! ヴァル!)
できればそのまま、この謎の空気をなあなあにしてもらいたい。
私が見守っていると、ヴァルは首をかしげてふたりの顔を見比べる。
「あいつが一緒ではないとは珍しい。いったいなにをしているんだ?」
「ええ、ロザリア様についてお話をしておりました」
「そうです! 今はファンクラブの時間なんですよ」
「『ふぁんくらぶ』?」
ますます首をかしげるヴァルだった。
そこにリリィが手短に説明する。
私こと、ロザリアを敬愛する者の集まりであること。
会の目的は、ロザリアについて心ゆくまで語り合うこと。
また、好物や嫌いなものについての情報を共有すること。
それらの目的を告げれば、ヴァルは「ふむ」と鷹揚にうなずいてみせた。
「それならば、我もその『ふぁんくらぶ』とやらに入れてもらおうか」
「えっ」
……あなたまで何を言い出すわけ?
私ばかりか、リリィも目を白黒させる。
「ヴァルさんが、ですか?」
「不服か?」
「い、いえ……でも、ヴァルさんはそういったことには興味がなさそうでしたので」
「ええ。ロザリア様とはただのご友人だとばかり……」
ヨハネも不思議そうに言葉をにごす。
それもそのはず。ヨハネとリリィは私への好き好きオーラが半端ないが、ヴァルはあっさりした距離感を保ったままだった。
ケーキを与えると顔をほころばせて喜ぶが、その程度。
私に対する褒め言葉など『おまえは面白いな』という、長命種族特有の、ちょっぴり上から目線のものばかりだった。
まあ、邪竜が人間に対して下す評価としては、最上級のお言葉だと思うのだけど。
だからこそ、彼がこの謎のファンクラブに入る理由が、まったく分からない。
「もちろん、あいつは我が友だ。だが、それ以上の存在でもある」
ヴァルは平然とそんなことを言い出すし。
えっ、あなた私をなんだと思っているの……?
(友人以上って、それはまさか、そういうこと……!?)
柄にもなくドキッとしてしまう。
いやでも、私は死亡フラグと戦うって使命があるから、色恋沙汰はちょっと……ヴァルのことは嫌いじゃないし、相談もできて頼れる相手だけど……。
ヨハネとリリィも顔を見合わせて、ヴァルに詰め寄る。
「そ、それ以上の存在とは……?」
「いったい、どのようなものでしょう?」
「それはもちろん――」
ヴァルは横柄に言ってのける。
「ケーキなどといった美味なるものを我に献上する、見上げた信徒だな」
「……はあ」
長命種特有の上から目線台詞、来ましたわ~。
うん、そんなところじゃないかと思ったのよね。さっきのトキメキを返して欲しい。
(でもね、ヴァル。そういうことを人間形態で言うと、なんだかロクデナシ感がすさまじいわよ……)
ヨハネやリリィからしてみれば『下級生の女子にタカる、ダブりまくりの上級生』だ。心証がいいはずはない。おかげでふたりは神妙な顔を見合わせる。
続きは今日の夜更新します。
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