三十五話 褒め殺しに殺されかける
「ええ、ロザリア様は本来お優しいお方ですからね」
それに、ヨハネは平然と相槌を打つ。
リリィのかわいさなど、まるで眼中にないようだった。
そのまま遠い目をして語りはじめる。
「僕がついうたた寝をしてしまった時など、毛布をかけてくださったりしますし」
「ああっ、それはうらやましいです!」
リリィが黄色い声を上げて身悶える。
しかしすぐに誇らしげに胸を張って言う。
「でも私はこの前、食べきれなかったピーマンを半分食べていただきました!」
「ええ、存じ上げております。『好き嫌いしちゃダメよ』などとおっしゃりながらも、手伝って差し上げて……」
「はい……あのときのロザリアさんは、女神様に見えました」
「わかります……」
かみしめるようにして、うなずくヨハネだった。
わかるの!?
っていうか、たしかにそんなこともあったけど……!
ふたりともそんなに恍惚と語るほどのことぉ!?
隠れて悪口を言われるよりは、断然いい。
だけど、これは、なんていうか……キツイものがある!
私はツッコミが追いつかないが、ふたりはすっかり意気投合したらしい
お互いに満面の笑みを交わし合う。
「これまでもロザリア様が席を外したときなどに、お話しする機会はございましたが……改めて、こうした場を設けて正解でしたね」
「はい。ロザリアさんに直接言っても、照れくさいからって遮られてしまいますしね」
リリィは残念そうにため息をこぼしてみせる。
(うっ……たしかに、さっきもそんな話をしたけれど……)
授業が終わって、ふたりと別れる前。
やたらと褒めてくれるのが照れくさくて、無理矢理に話を変えてしまった。
そんなことはこれまでに何度もあった。
だからふたりは私に配慮して、こうしてこっそり話をすることに決めたのだろう。
ちょっと大人げなかったのかも……と反省していると、ヨハネが穏やかな笑顔を浮かべたまま、ゆるゆるとかぶりを振る。
「仕方ありません。ロザリア様は謙虚なお方ですから」
「そうですよね。でもそういうところも、いいって言うか……」
「わかります……」
しみじみと、うなずき合うふたりだった。
えっ、ひょっとしてふたりとも、私だったなんでもいいの……?
私がうっすら覚えた直感が正解なのか、なんなのか。
ふたりの顔はますます晴れやかなものとなった。
「でもしばらくは、こうしてふたりで語りましょうね。今後もぜひぜひ、定期的に開催いたしましょう!」
「賛成です!」
そうしてふたりは、どちらからともなく右手を差し伸べ、固い握手を交わした。
「我ら、ロザリア様ファンクラブ会員として……」
「この絆は、永遠に不滅です!」
しまいにはそんな宣言まで飛び出す始末。
そこに色恋の気配はみじんもなく、どちらかといえばスポーツマンシップの方が濃厚だった。
(つまりデートでもなんでもなく……私のことを語るためだけに、こうしてこっそり集まったわけ!?)
なにやってんの、この人たち!?
「ロザリアさんはお強くて優しいお方ですけど、ちょっと天然さんっぽいところも可愛らしいですよねえ」
「わかります。先日など、授業中に居眠りをされていて……」
「あっ、ありましたね! 突然当てられて、あたふたしていらっしゃいました!」
「完璧なお人ではないところが、ロザリア様の魅力のひとつなのかもしれませんね」
「わかりますぅ……」
ええい、やめなさい! こっ恥ずかしい……!
しかもこれ、止めない限り延々とこんな話を続ける気ね……!?
それはさすがに遠慮したい。これ以上の誉め殺しは私のメンタルに致命傷を与えかねないからだ。
いやでも、楽しそうなふたりに水を差すのも悪いし……。
もだもだと意を決しあぐねていた、そのときだ。
「なんの話をしているんだ?」
「っ!?」
突然、部屋の中に風が吹く。
いつの間にやら、締め切っていたはずの窓が開き、そこに誰かが腰掛けていた。
春の日差しに照らされて、錦糸のような銀髪がまばゆく光る。
その誰かとは、もちろん――。
「ヴァルどの……?」
「うむ」
片手を挙げてあいさつするのは、人間形態のヴァルである。
続きは明日更新します。二回更新予定です。
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