三十四話 ロザリア様ファンクラブって何!?
あまりに予想外の展開すぎて、私はその場で固まるしかない。
ロザリア様ファンクラブって……なに?
そんなの初耳なんですけど!?
私が戦慄いているともつゆ知らず。
謎の会合は幕を開け、つつがなく進行していった。
「さて、『心ゆくまで語る』とは言ったものの……まずはどうしましょうか」
黒板の前でヨハネがうなる。
ひどく悩ましげに眉根を寄せて――。
「ロザリア様の素晴らしさについてなら、僕は何時間でも語れてしまいます……」
「わかります……お夕食の時間にはとても間に合いませんよね」
しみじみうなずくリリィだった。
彼女はしばし悩んでから、ぴんっと人差し指を立ててみせる。
「それじゃあ、お互い制限時間を決めて、交互にロザリアさんを語っていきませんか?」
「なるほど。それなら効率的なディベートができますね。さすがはリリィさんです」
ふたりは真剣そのもの。甘酸っぱい空気は皆無だ。
えっ、ひょっとしてこれ、デートでは、ない……?
遅ればせながらそんなことに気付く私だった。
目の前の展開が意味不明すぎて、脳がうまく回ってくれない。
「それじゃあ、まずはヨハネさんからお願いします。ロザリアさんとは長いお付き合いでしょうし」
「それはもちろん。では、僭越ながら一番手を担わせていただきます」
ヨハネは軽く一礼し、ごほんと咳払いをする。
「僕がお嬢様と出会ったのは、十年ほど前のことになります」
幼少の頃、私と出会ったこと。それ以来ずっと仕えてきたこと。
一人娘で甘やかされて育ったせいで、性格は少々高飛車。そのため敵を作りがちだったこと。
そこまで語ってから、彼は胸に手を当てて、遠い目をする。
「ですがお嬢様は、ある日を境に変わられました。己を律し、清く正しくあろうと努力し始めたのです」
新入生歓迎パーティのあの日。
リリィとの一悶着をきっかけに、私は前世の記憶を取り戻した。
だから性格が変わって当然なんだけど……ヨハネがそんなことを知る由もない。
「僕は以前までのロザリア様のことも、敬愛しておりました。ですが、変わられたロザリア様の方が……ずっとずっと魅力的ですね」
そう言って彼は、気恥ずかしそうにはにかんだ。
おかげで隠れて見ていた私は心臓のあたりを押さえるのだ。
(うわあ……こ、これはなかなか……クるものがあるわね……)
ヨハネはいつもこんな調子だ。
だが、なんだか直接言われるよりも、ずっと胸に刺さるものがあった。
そんなヨハネの言葉に、リリィはうんうんと相槌を打つ。
「たしかに、入学当初のロザリアさんはなんだか怖い感じでしたね」
「ええ。ですが、それが今ではあの通りです」
「はい! とってもお優しい方ですよね。じゃあ、次は私の番です!」
「お願いいたします」
ふたりはニコニコと笑い合う。和やかだ。
えっ、ひょっとして、この褒め殺しはまだ続くってこと?
私のこめかみに冷や汗が浮かぶ。
そんなことには気付くこともなく、リリィは語り始める。
「私、頼れる身内もいないし、もともとこの学校では浮いた存在でした」
陰口を言われたり、後ろ指を指されたり。
真っ向切っての嫌がらせはなかったが、それでも心寂しい思いをしていたらしい。
それでも必死になって、学園になじめるように努力していた。
「それであのとき、ロザリアさんが助けてくれて……本当にうれしかったんです」
リリィは先ほどのヨハネのように、薄くはにかんでみせる。
まあね……我ながらあの乱入っぷりはヒーローだと思うもの。
だが、リリィが続けた言葉は、ちょっと予想外のものだった。
「ロザリアさんはあのとき言ってくださいました。『いい子なのに!』って」
「そういえば、そんなことをおっしゃっていましたね」
「はい。そうなんです」
先生などのわずかな人たち以外に、味方はいないと思っていた。
頑張っても、誰もそれを知らないし、孤独に戦うしかないと思っていた。
「それなのに、ロザリアさんは私のことを知ってくれていて、そのうえで助けてくれたんです。だから、その……それがすっごく、うれしかったんですよね」
リリィはぽっと頬を染め、小声で言う。
その気恥ずかしさは、もちろん私にも伝わった。
(違うのよ……私はただゲームをやって、あなたを知っていただけで……うううっ、でもまずいわ……お、落とされる……!)
さすがは乙女ゲームの主人公といったところだろうか。
気を抜いてしまえば、その場から飛び出して抱きついて、頭を思いっきり撫で回していた。
続きは7/20更新予定です。
評価&ブクマありがとうございます。誤字脱字報告も非常に助かりました。お気づきのことがあれば、些細なことでもお教えください。




