三十三話 ひょっとしてデート……じゃないわね?
だって、それ以外には考えられないもの。
ただの勉強会なら、あのふたりが私をハブるわけがない。
秘密のパーティの相談?
でも、先日レベル3に上がったお祝いをしてもらったばっかりだ。誕生日だって半年先。
だから……デート以外の選択肢は皆無だった。
それにしてもまさか、ふたりがそんな仲だったなんて……いつの間に!?
(そんな……リリィが、ヨハネと付き合っているなんて……!)
私は衝撃のあまりよろめいてしまう。
手のひらで口元を覆い、数歩後ずさる。
リリィがヨハネと付き合っていたなんて……そんな……そんなのって……。
(なんて……見る目がある子なのよ~~~~!)
感動のあまり、おもわず声が出そうになった。
ヨハネはゲームだと支える主人――ロザリアを亡くしたせいで、ちょっぴりメンタルが不安定になったりもした。
だが、この世界で私はまだ死んでいない。彼は心身ともに健康そのものだ。
おまけに成績優秀で家柄も文句なし。裁縫や料理もできる気配り上手。
ちょっと私に対して重めの忠誠心を抱いていることが玉に瑕。
ただ、それも『一途』という美点に数えることもできる。
つまり、恋人にするならかなり狙い目だ。
(ヨハネもヨハネでGJよ! リリィを捕まえるなんてやるじゃないの!)
リリィの人柄も才能も、私はよーく知っている。
さすが乙女ゲームの主人公なだけあって、可愛くて気立てがよくて、非の打ち所がない。
私が男だったら、まず間違いなく狙っていた。
それにあの子と付き合うとこで、ヨハネの私への重い忠誠心が、すこしはマシになるかもしれないし……。
つまり、文句のつけようのない美男美女カップルなのだ。
それにメタいことを言えば、ゲームでもヨハネルートのEDは、王道乙女ゲームを地で行く展開だった。きっとふたりとも幸せになれることだろう。
(もう、ふたりとも水臭いわね。早く言ってよー! 全力でお祝いしちゃうのに!)
ひょっとして、まだ付き合ったばかりで、打ち明けるのは恥ずかしいのかもしれない。
初々しいふたりを想像して私は胸を踊らせる。
ご祝儀はいくら包めばいいのかしら。
気が早い? いやいや、こういうことはきっちりしておかないとね!
そんなことをルンルン気分で考えていて、ふと気付く。
(なんか……これっぽっちも嫉妬とか沸かないわね。自分でもびっくりだわ)
ゲームのロザリアはヨハネにべったりで、リリィを目の敵にしていた。
そんなふたりが付き合うとなれば烈火のごとく怒り散らしたことだろう。
だが、私は全然そんな気が起こらない。
それだけ私が『本来のロザリア』からかけ離れてしまった、という証拠なのかもしれない。
(おっと、ふたりの邪魔をしちゃ悪いわよね。お邪魔虫は退散しなきゃ)
私はそろーっとその場を後にしようとする。
扉に背を向け、忍び足で数歩進んだところで――。
「それでは本日の会合を始めさせていただきます」
「お願いします」
聞こえてきたのは、そんなふたりの会話だった。
(……うん?)
図書館デートとは思えない、形式張ったもの。
それが妙に引っかかって、私はまたそろーっと扉に戻る。
ほんの少しだけ扉を開ければ、中の様子がうかがい知れた。
いくつか並んだ机と椅子。
前の方には黒板があって、大きな窓の外からは揺れる新緑がのぞいている。
まだ日暮れには遠い時間なので、差し込む木漏れ日はあたたかだし、手狭ながらに居心地のよさそうな空間だ。
中にいるのはもちろんふたりだけ。
黒板の前にヨハネが立ち、その正面にリリィが座っている。
まるで授業のような光景だった。
(えっ……なんだかおかしくない……? デートで授業って、なに?)
奇妙な状況に、私は首をかしげてしまう。
そんななか、ヨハネがチョークを手にして黒板に文字を刻んでいった。
「さて、記念すべき第一回目となる、本日のテーマは……」
カカカカッと響く、軽快なチョークの音。
ヨハネは仕上げに黒板をばんっと叩いてみせた。
そこに書かれていたのは――。
『ロザリア様ファンクラブ会合 第一回』
……………………は?
私の戸惑いをよそに、ヨハネはキラキラした顔で宣言する。
「ロザリア様の素晴らしさを、心ゆくまで語ろう……です!」
「ひゅーひゅー! 待っておりました!」
それにリリィが惜しみない拍手を送った。
……………………はい?
続きは7/19更新します。明日は一回更新です。
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