三十二話 大図書館でまさかの遭遇
それから私は、第一図書館に向かった。
この学園はさまざまな施設を有しており、図書館もいくつも存在する。
その中で最も大きいのが、この第一図書館だった。
一言で言い表すなら、巨大な神殿らしき建造物。
校舎からはすこし離れた場所に建っており、蔵書の量も半端なものではない。
地下にも書庫があるらしく、そこに迷い込んだが最後、二度と帰っては来られない……なんて噂が伝わっている。
それほどに館内は広かった。
ずらりと並ぶ本棚に、あちこちに置かれた机と椅子。
生徒や教師、はては一般市民も多く訪れて、読書や勉強にいそしんでいる。
ペンや紙が擦れる音だけが響く中。
(……なるほどねえ)
私もその一角に陣取って、一冊の本に目を通していた。
タイトルは――『誰でもわかる魔法入門』。
内容は、この世界の魔法の仕組みについてである。
先日、キマイラを倒したことで、私はレベル3に上がった。
しかし、未だになんの魔法も会得できてはいない。
ゲームではレベルが上がれば、自動的に使える魔法やスキルが増えたのに。
だから魔法について、ちゃんと調べておこうと思ったのだ。
……ラスボスをワンパンできるのに、魔法なんか覚える必要あるのかって?
当然、必要よ。だってせっかくファンタジー世界に生まれたんだから……使ってみたいじゃないの!
(えーっとなになに……この世界の魔法の基本、か)
ひとつ。この世界の魔法は、術者の魔力で奇跡を起こす技術を指す。
ふたつ。魔法は、決められた呪文を唱えることで発動する。
みっつ。呪文は省略することもできるが、それには相応の修練が必要になる。
そして――。
(魔法を会得するには、まず練習が必要……ねえ)
相応の魔力と精神力を得た上で、魔法の練習を重ねる。それでようやく習得できるらしい。
まあ、当然といえば当然の仕組みだ。
そういえば、授業でももうすぐ魔法の練習をすると、アロイス先生が言っていた。
(早めに予習しておいてもいいかもね……えーっと、簡単な魔法は、っと……)
本をパラパラめくると、いくつか目についた。
魔力の灯りを作り出す魔法。
ステータスを明らかにする魔法。
そして、火球を生み出す攻撃魔法。
どうやら、そのあたりが初心者向けらしい。
呪文もちゃーんと載っていたし、ご丁寧にアクセントの付け方も詳しく解説されていた。
よし、この本を読めば、なんとかなりそうだ。
(魔力999999の力……試してみようじゃないの!)
そうと決まれば話は早い。
私は本をぱたんと閉じ、貸し出しカウンターに向かった。
この学園は無駄に広いので、人気のない場所にはいくつも心当たりがある。
魔法を練習して万が一にも超火力をぶちかましても、たぶん被害は出ないはず。
いざとなったら、ダンジョンの最下層――ヴァルのところまで行くのも手だろう。
そんなことを考えつつ、貸し出し手続きも無事に終了。
手続きをしてくれたのは、私より年上の眼鏡の青年だった。
一方的に知っている顔だったのでついまじまじと見てしまい、「なんだ?」と怪訝な反応をされてしまった。
「あはは……なんでもないです。ありがとうございました」
本を抱えて帰ろうとした、そのとき――。
「っ……!」
私は思わずカウンターの陰に隠れてしまう。
なにしろ真正面から、見知った顔が歩いてきたからだ。
眼鏡の彼が、ますます不審者でも見るような目線を送ってくるが、気にしてなどいられなかった。
彼らは私に気付くことなく、すぐそばを通過する。
そっと顔を出して窺えば……その後ろ姿はやっぱりあのふたり。ヨハネとリリィだった。
(え、なんで? ふたりとも、用事があるんじゃなかったっけ……?)
ちょっと気になって、私はふたりの後をそっと追う。
眼鏡の彼は『ひょっとしてストーカー……か?』と眉をひそめて、私のことを見送った。
うう……次に会ったときに言い訳させてもらおう。
ふたりの様子はいつもとあんまり変わらない。
むしろ、どことなく楽しげだ。図書館の中だから会話はないが、足取りの軽さからそう感じられた。
やがてヨハネたちは図書館の奥にたどり着く。
そこは小さな会議室がたくさん並んだ区画だ。手続きを踏めば誰でも自由に使うことができる。
勉強会や、ダンジョン探索の相談会など、その用途は幅広い。
そんな一室に、ふたりは迷いなく入っていった。
思わず私も忍び足で扉の前に立つ。
そっと耳を澄ましてみるが……中から聞こえてくるのは、ふたりの話し声だけ。
これって、まさか、ひょっとして……!
(俗に言う、図書館デートってやつなんじゃ……!)
ここで一日置くのも何なので、続きは今日の夜更新します。
ヨハネ×リリィ要素は皆無です。
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