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三十一話 青春のひととき

 様子をうかがっっていた他の生徒たちも帰り支度を再開する。

 ざわざわと放課後の騒がしさが戻ってきた。


 ひと息ついていると、リリィがにこやかに話しかけてくる。


「アロイス先生、いい先生ですよね。私もいろいろとお世話になっているんですよ」

「あら、そうなの?」

「はい。奨学金の手続きとか、身の回りのものの手配とか……授業以外にもよくしてくれて……」

「へえ……」


 ゲームではそんな設定はなかったはずだ。

 隠し設定なのか、それとも――。


(ゲームの世界と、この世界……いろいろ違いがあるのかもしれないわね)


 そうなると、私に降りかかる死亡フラグも変化するかも知れない。

 今後は気を引き締めて、情報収集に当たった方がいいかな。

 

(ま、なんとかなるでしょ。なんたってステータス999999だしね!)


 幸運は-999999だけど!

 おかげでなんか、あれから妙にツイてないことが多いけど!


 死にそうな目には幸いにしてあっていないが、目の前でお昼の定食が売り切れたり、鳥の糞が落ちてきたりといった、じみーな不幸には事欠かない。


 死ぬより全然マシだけど、テンションは下がるわよね……。

 ちょっぴりブルーになる私だが、リリィは対照的に笑みを深めてみせる。


「アロイス先生って、先生たちの中でもトップクラスの実力者なんですよ。その先生にあそこまで期待されているなんて……やっぱりロザリアさんはすごいですね!」

「ええ。しかも今では学園中、ロザリア様の噂でもちきりです」

「うーん……あんまり目立ちたくないんだけどなあ」


 私は半笑いでぼやくしかない。


 有名になればなるほど、当然ながら注目を集める。

 そうなれば私のこの、バカみたいなステータスが露見(ろけん)する可能性も高くなって……面倒なことになるのは火を見るより明らかだ。


 しかしヨハネとリリィは、それを謙虚(けんきよ)さと受け止めたらしい。

 ふたりとも顔を見合わせて、ますます顔を明るくする。


「あのような活躍を収めてなお、驕らないとは……このヨハネ、主のお人柄に頭が下がるばかりです」

「さすがはロザリアさんですね! あこがれちゃいます!」

「ああもう! それ以上はやめなさい! 恥ずかしいから!」


 最近、やたらと私を持ち上げてくるのよね、このふたり……。

 命を救われたのだから当然……なのかもしれないが、さすがにちょっぴり背中がざわざわする。


 私がぴしゃっと一喝(いつかつ)すると、ふたりは顔を見合わせてから、渋々うなずいてみせた。


「……ご命令とあらば」

「……わかりました」

「よろしい」


 私はにっこり笑ってみせる。


「さてと、今日はどうしましょうか。また私のお部屋にでも来る?」


 最近はこの三人で行動を共にすることが多くなっていた。


 私とヨハネはもちろんいつも一緒だし、リリィはリリィで、まだほかに親しい友達がいないらしい。


 以前までは、私のまわりには取り巻きの女子が何人かいた。

 だが、前世の記憶を取り戻してからはとんと疎遠(そえん)になっている。


 嫌味な成金ムーブの私を持ち上げて甘い汁を吸おうとしていたのに、目論見(もくろみ)が外れたといったところだろう。


 だから授業も放課後も、このふたりが一緒だ。

 私の部屋でお茶をしたり、空き教室で勉強をしたり。


 十代の少年少女らしい青春を、最近は伸び伸びと謳歌(おうか)していた。

 死亡フラグも気にはなるけど……やっぱりちゃーんと人生を楽しまないとね。


 しかし、今日はふたりの反応が(かんば)しくなかった。

 ヨハネは心苦しそうに眉をひそめて言う。


「すみません、ロザリア様。本日は少々……用がございまして」

「あら珍しい!」


 私はおもわず目を丸くしてしまう。

 ヨハネは最近ますます過保護に磨きがかかっていて、私のお世話に命をかけている節があった。それが私用を言い出すなんて……ちょっと安心したわ。


「いいわよ、行ってらっしゃいな。ひょっとしてリリィも用事?」

「はい。私も、ちょっと行くところがあって……」

「そっか。夕食はご一緒できる?」

「はい! ぜひともお願いします!」


 リリィも特待生ということで私たちと同じ特S寮に住んでいる。

 ご飯の約束を取り付ければ、彼女は花が咲いたように笑う。


「ありがとうございます。ロザリアさんと一緒だと、ご飯がおいしくてついつい食べ過ぎちゃうんです」

「ふふふ、だったらそのうちピーマンもぱくぱく食べられるようになるかもね」

「うっ……そ、それは……頑張ります」


 バツが悪そうにしゅんっとしてから、ぐっとこぶしを作るリリィだった。

 うん、かわいい。


 付き合えば付き合うほど、彼女のいい子っぷりが身にしみる。

 誰にでも優しくて性格は素直。ちょっと天然じみたところがあって、ちょっと付き合うだけで誰でも彼女を好きになるだろう。

 さすが乙女ゲームの主人公だ。

 気を抜けば『私が幸せにしてあげなくちゃ……』という思考に駆られてしまう。ちょっと危ない考えを追い払い、私はにっこりと笑う。


「それじゃまた後でね、ふたりとも」

「はい! お夕食、楽しみにしています!」

「失礼します、ロザリア様」


 そうしてふたりも教室を出て行った。

 あとに残された私は、大きくのびをする。


「さーてと。それじゃ私はなにをしようかしら」


 予定なんて何もない。

 しばしうーんと考え込んで――ぽんと手を打つ。


「よし。勉強しましょ」

続きは7/18更新します。

ブクマや評価など、まことにありがとうございます。

この章から逆ハーっぽくなり始めるので、ジャンルをハイファンタジーから異世界・恋愛に変更いたしました。『こんなの恋愛ジャンルじゃねーよ!!』等々ございましたらツッコミください。作品のテンションはこれからも変わりません。

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