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三十話 先生からの助言

(あはは……ヴァルに幻術魔法をかけてもらってよかったあ……)


 本来の私のステータスはこんなものじゃない。


 先日の事件を経て、私はバグに打ち勝った。

 その結果手にしたのが、オール999999という常軌を逸したステータスだ。


 ……幸運はマイナスがつくけどね!


 それがどれほどのステータスかといえば、このゲーム中のラスボスを、ワンパンできるほどである。


 寝不足の原因がこれ。

 この力を試すためにこっそりダンジョンに潜って、百階の魔王を倒してきたのだ。

 いやでも、まさかワンパンとはね……自分で自分に引いてしまう。

 

 ダンジョン内の魔物は、倒してもそのうち復活する仕組みだ。

 だから魔王も何日かすれば、あの場所に戻ってくる。

 私が魔王を倒したことは、たぶん誰にもバレやしない。


 この力があればどんな死亡フラグも怖くないだろう。

 だが、同時に別の問題も浮上していた。


(こんな力がまわりにバレちゃえば……絶対怖がられるに決まってる……!)


 今の英雄扱いから一転、確実に私は化け物扱いだ。

 だが、周囲の反応を見る限り、しばらくは安心してもいいかもしれない。


 これも、私のたゆまぬ努力のたまものだ。

 前はペンなどをバキバキ折りまくっていたものの、今ではすっかり力の調整をマスターしていた。

 まあ、油断するとまたゴリラになってしまうのだけど。


 私が胸中でぼやいていると、アロイス先生が顎を撫でてうなる。


「見れば見るほど凡庸(ぼんよう)なステータスだ……これでキマイラを倒したというのか。にわかには信じられないな」

「あはは……私もそう思います」

「ですが、真実ですよ」


 そこで声がかかった。見ればヨハネとリリィが、にこやかな顔で立っている。


「ロザリア様は颯爽(さつそう)と駆けつけて、僕たちを助けてくれたのです」

「はい! それはもう、見事な戦いっぷりでした! こんな感じで!」


 リリィはこぶしを振り回し、「やあ」だの「とう」だのセリフを入れる。パンチにはまるでキレがなく、まるでオモチャにじゃれつく仔猫のよう。かわいい。


「こんなふうに、パンチだけでキマイラをやっつけちゃったんです!」

「ふむ、そのようなスキルは有していないようだが……」


 アロイス先生はじっくりと私のステータスを見つめる。


「やはり、なんらかの隠しステータスだろうか」

「隠しステータス?」

「ああ」


 アロイス先生は鷹揚(おうよう)にうなずいて、ステータスのウィンドウを示してみせる。


「ステータスの七要素以外の才能や、特殊なスキル、呪いなど……ここに表示されないものも多々存在する」

「じゃあ、ロザリアさんにもそんな隠された才能があるんですか……!」

「確証はないがね」


 興奮気味のリリィに、アロイス先生は軽くうなずく。

 

 隠されたステータスという先生の推理は非常に近い。

 バレやしないかとビクビクしつつも、ふと思い出すことがあった。


(呪いかあ……たしか、そんな攻略対象キャラがいたわね)


 いつぞやの授業中、アロイス先生に奇跡の果実について質問した、金髪の青年。

 そっと教室を見回すが、どうやら帰ってしまった後らしい。彼の姿は見当たらなかった。


「ベルフェドミナ」

「は、はい?」

 

 アロイス先生はすこし面持ちを硬くして、私の肩に手を置く。

 大きくて骨ばった手のひらだが、ほのかなぬくもりが伝わってくる。

 先生は私の目を覗きこんで、ゆっくりと語りかける。

 

「隠しステータスは、当人の意思とは関係なく発揮されることが多い」


 ゆえに、大きな怪我を負ってしまったり、力を暴走させてしまうことがある……らしい。


「だから、なにかおかしなことがあったら、すぐ私に言うように。わかったな」

「は、はい……ありがとうございます」


 おもわずアロイス先生の顔をじーっと見つめてしまう。

 すると先生は眉をひそめてみせるのだ。


「なんだ、その顔は」

「いえ……先生って、優しいんだなあって」

「ふん。見た目に反してか?」

「へあっ!?」


 図星も図星だった。

 おかしな声を上げてしまって、私は誤魔化すようにごにょごにょと言葉を濁す。


「い、いえ、けっしてそんなことは――」

「なに、気にするな。よく言われることだからな」


 アロイス先生は真顔のまま、大仰に肩をすくめてみせる。

 どこかイタズラっぽいその仕草に、私は思わず苦笑してしまう。


 ゲーム中では、アロイス先生は単なるNPCのひとりだった。

 厳格な教師。たったそれだけのパーソナリティ。

 それがまさか、こんなに生徒思いのいい先生だったなんて……。


(本編で判明していたら、間違いなく人気キャラになっていたわね……)


 ファンディスクで専用ルートが追加されたことだろう。二次創作界隈も(にぎ)わいそうだ。


 そんな益体(やくたい)のないことを考えていると、先生は私の肩を解放する。

 そうして、小さくため息をこぼしてみせた。


「きみはどうも猪突猛進タイプのようだからな。心配なんだ」

「うっ……その節はご心配をおかけしました……」


 キマイラを倒して英雄扱いとなった私だが、教師陣――特にアロイス先生からは大目玉をくらっていた。

 新入生がダンジョンに単身で入るなど自殺行為もいいところ。

 なぜ教師や上級生を頼らなかったのか、と。


 先生たちの言うことはもっともだった。

 あのときは頭に血が上って突っ走ってしまったけど……万全を期すなら、もっとほかにやりようはあったはず。


 しょげる私に、先生はくすりと笑う。


「まあ、十分に反省したようだから、小言はこの辺にしておこう。それでは、またな」

「は、はい。ありがとうございました!」


 私が深々と頭を下げれば、先生は満足そうにうなずいて、教室を出て行った。

次は7/17更新予定です。

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