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二話 無限増殖バグ

 私は頭を絞り、必死になって考える。

 悪役キャラをやめ、真人間として生きてみるのはどうだろう?

 因果応報として死ぬことが多いため、真面目になればそんな運命も変えられるはず。


「い、いえでも、あんまり嫌がらせをしないルートでも、ついでのように死んだパターンもあったわね……」


 じゃあ、ひたすら頑張って強くなる。

 さいわいにして、ここは剣と魔法の世界だ。

 自分の身を守る手段はいくらでも考えられる。


「でも……直近の死亡シーンは一週間後よね? それまでにめちゃくちゃ強くなる方法なんて……ある?」


 ゲームなら裏技を使ったりして、どうとでもできるだろう。

 だがしかし、ここはセーブのできない異世界だ。

 つまりは……完全に詰みである。


「あーーもうやっぱ駄目な気がしてきたーーー!」


 頭を抱えて絶叫する。

 そのついで、キッとにらみつけるのは(くだん)の噴水だ。


「くっそ! 使えない噴水め! ゲーム中は贔屓にしてあげてたのに……なんで今はセーブさせてくれないのよ!」


 坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとはよく言ったものだ。

 私は目の前の噴水に当たり散らし、げしげしと()りつける


 しかし噴水はやはりうんともすんとも言わなかった。

 ただ私の足が痛くなっただけである。ますますもって小憎たらしい。


「ええい、こうなったら……!」


 ネックレスをもたもたと外す。

 大きな真紅の宝石がかざられたそれは、お父様がパーティ用にと送ってくれたものだ。

 

 おそらく時価百万ギル――田舎にそれなりの豪邸(ごうてい)が建つくらいの金額だ――を下らない。


「どりゃああ!」


 それを私は噴水めがけて、思いっきり投げつけた。

 ぽちゃん、と軽い水音が響き、ネックレスは水底へと沈んでいく。


 そのまま架空のコントローラーを握り、セレクトやBボタンやらを連打。

 しばしガチャガチャやってから、最後の仕上げにスタートボタンを押して架空のコントローラーをぽいっと投げる。


 ヨハネか誰かが近くにいれば、気でも触れたかと心配したことだろう。

 だが違う。これは必要な儀式なのだ。


 私はびしっと人差し指を噴水へと突きつける。


「ふんだ! 悔しかったらそれを二つに増やしてみなさいよ! ゲームの噴水ならできたんだからね!」


 いわゆる、無限増殖バグである。


 このゲーム、ダンジョン探索パートなどをけっこうこだわり抜いて作ったせいか、バグがちょいちょい発見されていた。

 そのうちのひとつがこのバグだ。

 

 この噴水にアイテムを投げ込んで決められたコマンドを押すと、貴重なアイテムでも何でも無限に増やすことができる。

 

 ゲームがぬるくなりすぎるので以降は封印していたこの技を、今この世界で試してみたのである。

 だがしかし案の定、噴水はやっぱり何の変化も訪れなかった。


 どこかでカァとカラスが鳴いた。

 それを機に、どっと疲れが出てしまう。

 肩を落として、私は重いため息をこぼす。


「はあ……何やってんのかしらね、私ったら。早く対策を考えないとっ、て?」


 諦めてネックレスを拾おうとした、そのときだ。

 噴水の水面がかすかに揺れる。

 それと同時に、なにかキラキラしたものが水中から飛び出してきて――。


「えっ……?」


 ころんと私の足下に落ちたのは、今しがた投げたネックレスだ。

 しかも……それがふたつ。


 あわててそれを拾い上げ、たしかめてみる。

 どちらもそっくり同じもので、装飾にも、宝石の輝きにも、刻まれている家紋にも寸分の狂いがない。


「ま、まさか……」


 私はもう一度、そのネックレスを噴水に投げ入れた。

 今度は増えた分も合わせて二つだ。

 そうしてまた架空のコントローラーでコマンドを入力する。

 すると――。


 ぱしゃっ。

 軽い水音とともに飛び出してきたのは、計四つのまったく同じネックレスだった。


 ここまでくれば、もう疑いようはない。

 増えたネックレスを手に、私は呆然とつぶやいた。


「無限増殖バグは使えるの……?」


 セーブ機能は使えないのに!?

次は明日更新予定。

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― 新着の感想 ―
[一言] 架空のコントローラーでもOKとかどういう仕組みやねん...
[良い点] ゲームあるあるですよね♪めちゃくちゃ凝ってる分バグも多いのって♪何度(友人に無理やりさせられて)データが飛んだことか...まぁ仕返しにちょっとしたモノをプレゼントしたんですがねw
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