二十八話 死亡フラグとの戦いはまだまだ続く
「いやでも、この幸運値はなんなのよ。マイナスとかありえるの……?」
「うーむ。我の与えたアイテムが変に作用したのかもしれぬな。アレは幸運値に影響を与えるものであったし」
「なんてハチャメチャな理由よ……! それはそれでバグっぽいけど!」
頭を抱える私である。
ヴァルはじーっと私のメッセージウィンドウを見つめて、指についたクリームをぺろりとなめる。
「砕けてしまったのも、おまえのデタラメな幸運値に、聖者の守護符が耐えきれなかっただけだろう。だがまあ、安心するがいい」
彼は目を細めて、にやりと笑う。
「常人なら隕石に打たれるなどして、毎秒惨死するほどの運勢ではあるが……それだけ破天荒な力があれば、どうにか生き延びられるであろうよ」
「ぐうっ……他人事みたいに言って! いやでも、これはマズすぎるわ……!」
今日はこれから、アロイス先生のところに行く予定になっている。
例の少年たちの悪事は、白日の下にさらされた。
彼らはひとまず自室謹慎だが、追って処分が下されるという。
そのためにも、当事者である私たちから詳しい話が聞きたいらしい。
私がキマイラを倒したことも、先生はもう知っている。
ステータスを測ったり、どんなふうに倒したかも聞かせてくれ……なんて言っていた。
こんなステータスが知られてみろ。
どんな騒ぎになるかもわからない……!
そう説明すると、ヴァルは「ふむ」とうなずいてみせる。
「それなら……《幻影》」
メッセージウィンドウに息を吹きかける。
すると常軌を逸していた数値の羅列が、一般的なレベル3のステータスに変化した。
「な、治ったの!?」
「違う。幻術の一種だ」
ヴァルはこともなげに言う。
「仮初めのステータスが表示されるようにしてやった。これで力は隠せるだろう」
「なんだ……」
肩を落とす私である。
「でも……ありがと。ひとまずは安心だわ」
「礼を言うのはこちらの方だ。ケーキとやら、ますます気に入ったぞ」
ヴァルはウィンクしてみせて、フルーツタルトとシュークリームを両手に掴む。
スイーツ大好きの女子でも胸焼けしそうなペースだ。
ちょっぴり彼のお腹が心配になったところで――。
「ロザリア様!」
「ロザリアさーん!」
「あら」
ヨハネとリリィがこちらに向かってくるのが見えた。
ふたりとも満面の笑顔だ。
ヨハネが恭しく頭を下げる。
「先生のところに向かわれるのですよね。だったら僕たちもご一緒します」
「ええ……無理しなくていいわよ。あなたたち、昨日の今日で疲れてるでしょ」
「それはロザリアさんも同じじゃないですか」
リリィが心配そうに眉を寄せる。
「私たちもついていきます。ひとりより、三人の方がお話も早く終ると思いますし」
「もう……わかったわ。それじゃ三人で行きましょ」
「ありがとうございます、ロザリア様」
ヨハネがにこやかに言って、ちらりとヴァルを見やる。
「それより、こちらの方は……?」
「あー……お友達よ」
「うむ。マブダチというやつだ」
ケーキをぱくつきながら、ヴァルはあっさり答えてみせた。
邪竜とマブダチかあ……果てしなくシュールである。
あと、リリィに見向きもしないのはどうしてだろう。
ゲームでは彼女にベタ惚れだったというのに。
不思議に思って首をかしげていると、そのリリィが私の手をそっとにぎってくる。
「ロザリアさん! 昨日のお礼に、クッキーを焼いたんです。あとで召し上がってくれますか?」
「それでは僕が紅茶を煎れましょう。ちょうどいい茶葉が入ったんです」
「クッキー……それはケーキのような甘味か? どうなんだ、ロザリア」
「さ、三人同時にぐいぐい来ないでちょうだいな」
イケメンふたりと美少女に詰め寄られ、私はたじろぐしかない。
(なんで私が乙女ゲームの主人公っぽくなってるわけ……!?)
ただの死にまくりの三流悪役キャラだったはずなのに。
気付けば妙にモテモテだ。
ゲームだったらここで、いい感じのスチルが挿入されたことだろう。
だがここは、私――ロザリアにとっての現実だ。
死亡フラグのひとつは突破したが、それでもまだ大量に残ったまま。
問題は山積み。
むしろ……どんどん増えていっているように思うんだけど?
(でもまあ、これだけむちゃくちゃに強くなれたんだし……死亡フラグなんてきっと楽勝よね!)
私はうんうん勝手に納得して、三人をなだめにかかるのだった。
このときの私はまだ知らなかった。
世の中には、ただ強いだけじゃ克服できない死亡フラグが、多々あるということを――。
これで一章は完結です。
お付き合いいただき、まことにありがとうございました。
明日からは二章を更新予定です。またお暇つぶしになれば幸いです。




