二十七話 悪役令嬢はバグ技チートで最強に!
「さあさあ食べて食べて! 遠慮しなくていいからね!」
「むう……では、ありがたくいただこう」
ヴァルは素手でショートケーキをつかみ、ぱくりと一口。
行儀はあんまりよろしくないが、顔がいいので許される感がある。
おまけに竜のときより表情が読みやすい。
やっぱりショートケーキが一番のお気に入りなのか、見るもわかりやすく顔がほころんだ。
喜んでもらえると買った甲斐がある。
口の周りのクリームをぬぐってやりながら、私はにこにこと言う。
「昨日はあなたのおかげで助かったのよ、本当にありがとうね」
「我のおかげ、とは?」
「決まってるでしょ。あのときくれた、賢者の守護符よ!」
私は昨日の事件のあらましを語る。
ダンジョンで大切な友達たちがピンチに陥ったこと。
それを助けるために、バグ技……邪法に手を染めてしまったこと。
賢者の守護符が守ってくれたおかげで、私はバグ状態から抜け出せたこと。
しかし、ヴァルは首をかしげてみせる。
「あのアイテムに、そのような効果はないぞ」
「へ?」
私はきょとんとするしかない。
「で、でも実際に私のバグ状態は治ったのよ?」
それに、守護符は粉々になってしまった。
あれは私の身代わりになって砕けた……ということではないのだろうか。
そう言うと、ヴァルは口の周りにクリームをつけたまま難しい顔をする。
「ふむ……本当に異常はないのか?」
「もちろんよ!」
その場に立って、くるりと回ってみせる。
ノイズもないし、床や壁にめり込んだりもしない。
いたって正常そのものだ。
「では、ステータスの方はどうだ」
「普通じゃないの? あ、筋力はちょっと上がってるかもね」
バグ状態のものとはいえ、奇跡の果実を食べたのだ。
たぶん1だけ筋力が上がっていることだろう。
そう説明するとヴァルは眉をひそめつつ、ケーキを再びぱくつく。
「まあ、見た方が早いな。《鑑定》」
ぱちんと指を鳴らせば、見慣れたメッセージウィンドウが浮かび上がる。
ロザリア・ベルフェドミナ。
レベル3。
いつの間にか、レベルが1から上がっていた。
たぶん、昨日キマイラを倒したからだろう。
一気にレベル3なんてラッキー……と、よろこぶ余裕はなかった。
「……は?」
「これはまた……凄まじいな」
ヴァルが呆れたようにそう言って、次のチョコケーキに手を伸ばした。
メッセージウィンドウに刻まれていたのは、目を疑うような文字の羅列だ。
ロザリア・ベルフェドミナ
レベル3
【体力】999999
【精神力】999999
【筋力】999999
【耐久力】999999
【魔力】999999
【俊敏】999999
【幸運】−999999
【所持スキル】なし
「幸運がマイナスってどういうことよぉ!?」
「まあ、まずそこが気になるよな」
「言いたいことはもちろん山ほどあるけどね!?」
こんなの、いくらツッコミを入れてもキリがない。
このまえリリィを助けるために少年たちと戦った。
そのときのステータスは、【筋力】だけが999999。
ほかは文字化けして、読むことができなかった。
それなのに、今回はすべてのステータスが常軌を逸している。
なおさら始末が悪いんだけどぉ!?
あわてて地面の小石を拾う。
それをぎゅっと握れば……軽い感触とともに砂になってこぼれ落ちた。
やっぱり、ゴリラじみた怪力が戻っている……!
「なんで……!? バグは治ったんじゃなかったの!?」
「うーむ。我が推測するに、だな」
のんきにチョコケーキをもぐもぐしながら、ヴァルは言う。
「おそらく、そのキマイラを倒したとき。世界はおまえを排除しようとした。おまえはその力に打ち勝ったのだ」
「だ、だったら、このステータスはなに!? 元に戻るんじゃないの!?」
「打ち勝ったついで、邪法の力を取り込んでしてしまったのだろう」
「そんな無茶苦茶な……」
「しかしほかに説明はつかぬ」
ヴァルは事もなげに言ってのける。
つまり私はバグを吸収した……ということになるのだろうか。
「まっさかー。そんなわけ……ない、わよね……?」
笑い飛ばそうとしたが、顔が引きつってうまくいかなかった。
もし本当に、バグの力を己のものにしたのなら――。
(瞬間移動もできちゃったりするわけ……?)
そういえばキマイラと戦ったときも制御できたけど……。
ダメ元で念じてみる。
瞬間移動!
ひゅっ、と風を切る音。
次の瞬間、私は噴水の真上に立っていた。
うっそー……。
「推論を述べた我が言うのも何だが、面妖な術だな」
「私もそう思うわ……よっ」
もう一回、瞬間移動。
狙いをそれることなく、私は元通り、ヴァルの隣に戻ってくる。
続きはまた夜に更新します。
あと一話で一章完結です。ブクマや評価、まことにありがとうございます。




