二十五話 ハッピーエンドの大団円
「す、すごいです、ロザリア様! あのモンスターを倒してしまうなんて……!」
「ひょっとして、私たちを助けにきてくれたんですか……?」
「ええ、そうよ……無事でよかったわ」
涙目のリリィに、私はやさしく微笑みかける。
ふたりが無事なら、それでいい。私は心から満足していた。
軽く目をつむって覚悟を決める。
「でも、ごめんなさい。もうお別れみたいだわ」
「えっ……そ、それはどういう意味ですか?」
「見ればわかるでしょ。私はもうすぐ世界からはじき出されるわ」
あれだけバグ技を使って好き勝手したのだ。
私はまもなく、ヴァルが言っていたようなペナルティを受けるはず。
(亜空間を死ぬこともできずにさまよう、かあ……なかなかハードだけど……ま、いいか)
正直言って怖い。
だがそれでも私はすべてに満足し、受け入れるつもりでいた。
だがしかし……ヨハネたちの反応は不思議なものだった。
「『はじき出される』って……なんですか?」
「ひょっとして混乱されていらっしゃいますか、ロザリア様」
ふたりの声には困惑がにじむ。
私のことを心配しているというよりも、わけがわからない、といった様子だ。
おかげで私はうろたえるしかない。
「な、なによその反応は。今の私を見たら、おかしいってわかるでしょ」
「いえ……いつも通りのロザリア様ですが」
「もしかしてどこかお怪我でも……!?」
「いや、無傷だけど……?」
なんだか思っていた反応じゃないわね……。
ひょっとしてふたりには、この光が見えないのだろうか。
そう思って私はこわごわと目を開くのだが――。
「へ……? 光って、ない……」
私の体は光を放っていなかった。
そればかりか、わずかなノイズも浮かんでいない。
あわてて体中を確かめてみるが、何の異常もなかった。
もちろん怪我も皆無。どこもかしこも正常そのものだ。
「な、なんで……あっ」
首からさげた、あの指輪を確認する。
ヴァルからもらった装備品だ。
その指輪には無数のひびが刻まれていた。
私が指先でそっとつまむと、キィンッと澄んだ音を立てて砕けてしまう。
えっ、ひょっとして、指輪が身代わりになってくれたってこと……?
つまり、私は……。
「ここに残れるの!?」
「は……ここに、ですか?」
「正直、長居はしたくないですよ……?」
ヨハネとリリィはあたりを見回し、釈然としないような顔をする。
しかし私はぐっとこぶしを握って、よろこびをかみしめるのだ。
バグも治ったし、この世界にも残れる。
これ以上の幸運があるだろうか。
(なんだかよくわかんないけど……やったわ! たぶんあなたのおかげね! ありがとう! ヴァル!)
ダンジョン奥深くに封じられている邪竜に、私は全身全霊の祈りを捧げる。
そうこうしていると、「ロザリア様」と声がかかった。
気付けばヨハネが硬い面持ちで、私のことを見つめている。
「な、なによ、ヨハネ」
「どうしてあんな無茶をしたのですか。倒せたからよかったものの……あまりにも無謀すぎます」
「……それは私の台詞よ」
いつもの説教モード。
平時と変わらない姿に安堵しつつも、私は眉を寄せてヨハネをねめつける。
「私には黙ってダンジョンに行くなって言っておきながら、自分はいいの? それで危ない目に遭ってりゃ世話ないわよ」
「うっ……しかし、これはロザリア様のためを思って――」
「言い訳しない。ごめんなさいは?」
「も、申し訳ございませんでした……」
「よろしい」
こうべを垂れて、深くうつむくヨハネだった。
言いたいことはほかにもあるが、彼のこと。
自分でちゃんと反省してくれるとわかっていた。
次はリリィの番だ。彼女に向き直り、諭すように言う。
「リリィも無茶しないでちょうだい。心配してくれるのはうれしいけど……あなたたちに何かあったら、私は自分を恨んでいたわ」
「ご、ごめんなさい。ロザリアさん……」
「まったくもう。でもいいわ。あなたたちが無事で、本当によかった」
そう言って笑えば、ふたりはちょっと目を丸くする。
やがてその頬はほんのり朱色に染まっていって、ふたりともほとんど同時に私から目をそらした。
(あら? ふたりとも風邪でも引いたのかしら?)
不思議な反応に、小首をかしげていると。
「おーい! 無事か!」
「あっ、先生たちだわ。こっちでーす!」
遠くの方から、アロイス先生や、ほかの教師たちの声がする。
どうやら救助部隊が到着したらしい。
大声を張り上げれば、彼らの足音が近付いてくる。
おかげでようやく、日常に戻れた気がした。
疲れがどっと肩にのしかかり、抗いがたい眠気が襲う。
(でも、そっか……とりあえずは……死亡フラグ回避、ってことでいいのかしらね……)
ヨハネとリリィは無事で、私もバグ状態を抜け出せた。
つまりはハッピーエンドの大団円。
そう思えば、次第に体から力が抜けていった。
抗いがたい眠気に襲われるまま、私は地面にこてっと横たわる。
「ロザリア様!? ロザリア様! いかがされたのですか!?」
「し、しっかりしてください! 先生! ロザリアさんが大変です……!」
「むにゃむにゃすぴー……」
慌てふためくふたりをよそに。
私はなんの気兼ねもなく、深い眠りに落ちていった。
続きは7/14に更新します。
一章のエピローグなので三回更新予定です。お暇つぶしになれば幸いです。




