二十二話 決意の出陣
「すぐにゲートを繋げたんだ。なのに、あいつら、十一階ゲートのそばから消えていて……どこにも姿が見えなかった……!」
「……そもそもなんで、新入生のあんたがキーを持ってるのよ」
「上級生が落としたのを、たまたま拾って……」
「呆れた。ほんっと、つくづくゲス野郎ね」
胸ぐらを放してやれば、彼は力なくその場に座り込んでしまう。
その拍子に、手元から黒い鍵がこぼれ落ちた。
これこそがゲートを起動させるキーだ。
ダンジョンの下層を探索する上級生のなかには、上層のキーを持て余す者が多い。
わざわざ低レベルのモンスターを相手にしたところで旨味がないからだ。
ゆえに、不必要となったキーは、学園へ返還する決まりになっている。
だが、中にはキーの返還を忘れ、紛失してしまう者もいて……少年はそうしたキーのひとつを運良く手に入れてしまったのだろう。
周囲の生徒たちも事態が理解できたのかざわつきはじめる。「新入生が十一階に……!?」「今すぐ助けに行かないと……」「しるべ草は持って行かなかったのか……?」外野のざわめきは絶望一色だ。
ダンジョンにもぐる際には、しるべ草と呼ばれる白い花を持っていくのがルールだ。
この花には特別な魔法が施されており、使用者をダンジョンの入り口にまで連れ戻してくれる。
学園の購買所で、いつでも格安で販売されているアイテムだ。
だが、あたりにヨハネたちが現れる気配はない。
そもそもふたりは一階の入り口付近を探索するつもりだった。
そんなアイテムなど必要ないと考えてもおかしくない。
周囲の混乱はますます酷くなる一方だ。
だが、私はいくぶん冷静だった。
(やっぱり……私の死亡フラグと似ているわ)
ゲーム中のロザリアも、この少年と同じような手を使ったのだ。
上級生の落としたキーを使って、リリィを十一階に送る。
少年とロザリアが違う点は、ロザリアはその際に誤って、リリィと一緒にダンジョンに落ちてしまったことだろう。
そして、そこで強力なモンスターに追いかけられて、ふたり揃ってダンジョンの奥に逃げるはめになったのだ。
もしも、今のこの状況がゲームのイベントをなぞらえたものならば。
ヨハネとリリィは、ひどく危険な状況に陥っているはずだ。
(でもこれは……私の死亡フラグじゃない……)
ロザリアはリリィを囮にして、自分だけ助かろうとする。
そこをモンスターに狙われ、殺されてしまう。
それがロザリア最初の死亡フラグ。
だがそれは、リリィも同じことだった。
助けに来たヨハネといっしょに中ボスと戦うが、負ければ即ゲームオーバー。死亡エンドのひとつだ。
これは、私の死亡フラグではない。
ヨハネとリリィの――つまりは、他人の死亡フラグなのだ。
私が首を突っ込んでも、百害あって一利なし。
(だったらここで……指をくわえて見ていろっていうの……!?)
ぎゅっとこぶしをにぎる。
思い起こされるのは、前世で死んだときの記憶だ。
私は電車に轢かれて死亡した。
衝撃はほんの刹那のこと。それでもあの痛みと苦痛は、尋常なものではなかった。
あれをもう一度味わうかもしれないと思えば、足もすくむ……はずだった。
だが、不思議なことに、体は動いた。
恐怖はある。
消しきれない。
ただ単に、決意がそれを上回っただけだった。
「死亡フラグが……なんぼのものよ!!」
ふたりは私のためにダンジョンに向かった。
だったら今度は私が行動を起こす番だった。
先生を呼ぶ暇も、ヴァルに助けを求める暇もない。
私はただ、ふたりを助けたい。
たったそれだけの決意を胸に、私は地面に転がるキーを拾い上げ、ダンジョン目指して駆けだした
背後で上がる制止の声は、もちろんのことガン無視だ。
続きは7/13に更新します。
長くなったので三回更新予定。休日のお暇つぶしになれば幸いです。
ご感想を二つもいただきました!ありがとうございます!励みに今後もがんばります。




