二十一話 嫌な予感、的中
今日は午前中までの授業ということもあり、ダンジョンのまわりは生徒たちであふれていた。
いつもの光景だ。生徒たちに変わった様子は見られない。
あたりを見回すが、ヨハネもリリィもいなかった。
「やっぱり、もうダンジョンに入ったのかしら……」
平穏な光景を前にしても、私の胸騒ぎは止まらない。
むしろ、さらに心の中がざわついて仕方がなかった。
(こうしちゃいられないわ。私も一階に降りてみましょ)
せめて無事を確認したい。
その一心で、ダンジョンに降りる階段へと向かうのだが――。
「ひっ、い……!」
「あら?」
ダンジョンの入り口から、這々の体で出てくる生徒たちがいた。
それは見知った顔だった。
先日、リリィをナンパしようとした、ク……なんとか、という田舎貴族の少年だ。
真っ青な顔で、完全に腰が抜けている。
あとから続く取り巻きたちも似たようなものだった。
おかしな集団に、私の警戒心は一気に高まる。
「ちょっと」
「なっ、あ…………!」
行く手を遮るように立ちはだかれば、少年たちの顔がおもしろいくらいに歪む。
まるで起き上がった死人でも見るかのようだ。
先日はたしかに痛い目を見せてしまったが、そこまで怯えられるほどだろうか?
「なによ、その反応は。ダンジョンでなにかあったわけ?」
「うっ、ううう……」
いぶかしむ私を前に、少年はがたがた震えながら首を振る。
「ぼ、僕は悪くない! あいつらが……あいつらが勝手に、いなくなったんだ……!」
「はあ……? いったいどういうことよ。ちゃんと説明しなさい」
「わかった……! わかったから、こ、殺さないでくれ……!」
物騒な命乞いを始める少年。
おかげで周囲の注目が私たちに集まった。
嫌な予感はますます高まっていく。
目をすがめる私に、少年はつっかえながらも言葉をつむいだ。
「だ、ダンジョンの一階に、ゲートがあるだろう……」
「ああ、入ってすぐのところのあれね」
このダンジョンは第百一階層まで存在する。
下に潜るにつれてフロアは広大なものとなり、出没するモンスターも手強くなる。
ゆえに探索には莫大な時間がかかるのだ。
それなのに、生徒に許された探索時間は放課後だけ。
いちいち下層まで降りていくだけで、あっさり時間切れになってしまう。
その救済措置として、このダンジョンには階層ごとに、とある魔法具が置かれている。
それこそがゲートだ。
特別なキーをかざすことで作動し、好きな階層に移動することができる。
キーは、フロアごとのダンジョンボスを倒すことで、学園から支給される。
低レベルの者が誤って下層に降りないように、安全対策もばっちりというわけだ。
かく言う私もゲーム中は散々お世話になった。セーブポイントの噴水同様、なじみ深い場所なのだ。
「そのゲートがどうかしたわけ?」
「……ちょっと、お、脅かすつもり、だったんだ」
少年は青白い顔を両手で覆う。
あきらかにただ事ではない。ごくりと生唾を飲み込む私だが、彼の続けた言葉に耳を疑うことになる。
「あの庶民の女が、ダンジョンに向かったから……い、一階で……背中を、押して……」
「まさか……」
「き、キーを使って、十一階に飛ばしてしまったんだ……!!」
嗚咽混じりの告白によって、私の背筋に戦慄が走る。
気付いた時には少年の胸倉をつかんで強く揺さぶっていた。
「自分がなにをしたかわかってるわけ!? 十一階の推奨レベルは10以上よ!! あの子はまだレベル1なのに……!」
「だって、僕の誘いを蹴ったくせに、男とダンジョンに向かったんだぞ……!? つい、カッとなって……!」
「ヨハネのことね……彼も一緒なの?」
「ああ……あの女を追いかけて飛び込んでいった……」
少年は力なくうなずくだけだ。
続きは夜に更新予定です。なんとなく副題をつけてみました。
ブクマ&評価ありがとうございます。一章はあともうちょっとで終わります。




