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一話 とりあえず死にたくない

 この学園は、さまざまな人材が揃う学び舎だ。

 国内外から入学希望者が押し寄せてくるし、その誰もが何百年続く家柄出身だったり、特別な魔法が使えたり、希少な種族であったりする。


 そしてこの学園には、奇妙な特徴があった。

 ここは――モンスターの()まうダンジョンの攻略を、教育に取り入れているのだ。


「や、やっぱりあった……!」


 うららかな春の日差しが降り注ぐ中。

 パーティ会場を飛び出した私が向かったのは、学園中心部にあるダンジョンの入り口だった。


 緑あふれる中庭の中央には、不可思議な文様の描かれた石畳が円形状に敷かれている。

そこには地下へと続く大きな階段があって、その先がモンスターの()まうダンジョンとなっている。


 モンスターとは文字通り。スライムやらゴブリン、果てには凶悪なドラゴンといった生き物だ。

 ダンジョンにはほかにもいくつものトラップだったり、仕掛けだったりが配置されていて、生徒たちは力を合わせて切磋琢磨(せつさたくま)し、ダンジョンに挑む。


 この世界にはいくつものダンジョンが存在している。できた経緯は一切不明。

ただ世界のどこより大気に魔力が満ちており、そこで経験を積むことで人はさまざまな魔法やスキルを覚えることだけがわかっている。


 このダンジョンも、もともとこの地にあったものだ。

 学園の創立者がひとかどの冒険者であり、『若者に必要なのは冒険だ!』と豪語して、様々な反対を押しのけて設立したという。


 …………というのが、『ダンジョン恋物語』の設定だった。

 主人公のリリィはイケメン男子たちと力を合わせてダンジョンに挑む。

 そのダンジョン攻略パートが乙女ゲームらしからぬ歯ごたえのある難易度だったため、広く人気を博したのだ。


 かくいう私もそのひとり。

乙女ゲームパートよりもダンジョン攻略に心血を注ぎ、プレイ時間はトータル数百あまり。

そのほとんどを、地下に潜って延々ソロで竜を狩るという修行僧のような遊びをしていたものだ。


 だが、用があるのはそちらではない。

 ダンジョンの入り口――すぐ正面にある噴水だ。

 ちろちろと流れる水の音は心を安らかにしてくれる。


 ただ、水面に映る私の顔はひどく青白いものだった。

 あちこちをぺたぺた触って、希望の糸口を探る。


「ゲームでは、ここがセーブポイントだったはずだけど……」


 ダンジョン内ではセーブができない。

 だからその手前に、ちゃんとセーブポイントが用意されていた。

 この噴水の真正面に立てば、セーブスロットが表示されたものだが――。


「うう……やっぱり駄目か」


 噴水はうんともすんとも言わなかった。

 目の前にセーブ画面が現れることもなく、私は噴水のへりに身を預け、がっくりとうなだれるしかない。


「セーブ&ロードができたら、死んでもやり直せると思ったのに……ううう……なんでよりにもよってロザリアなのよぉ……」


 パーティが開催されているためか、周囲に人の気配はまるでない。

 だから私の泣き言を聞いてくれるのは物言わぬ噴水だけだった。


 この『ダンジョン恋物語』は、全ルート攻略するほどにやりこんだ。

 そして、そのすべてのルートでロザリアは破滅する。


 あっさり死ぬのはまだいい方。

 死体をゾンビとして利用されたり、無一文で放り出されて路頭に迷うパターンなんかも存在する。


「ロザリアの一番早い死亡シーンって……たしかヨハネのルートだったかしら」


 頭を抱えつつ、記憶を探る。

 前世の記憶は時間が経てば経つほど鮮明になってきた。


 ヨハネのルートは難易度が低く、ほとんどのプレイヤーが一番最初にクリアするルートだ。

 その分、ロザリアが死ぬのも早かったはず。

 あれはたしか、パーティから一週間ほど経ったある日のこと――。


「えっと……パーティ以来、ヨハネといい感じになったリリィに嫉妬して、彼女をダンジョンに閉じ込めようとして……」


 ごくり、と喉を鳴らす。

 蘇った記憶は、残酷だった。


「逆にロザリアが、モンスターに食べられちゃうんだっけ……」


 しかも、助けに来たヨハネはギリギリで間に合わない。

 主を失った彼は失意に陥り、それを気にかけてくれた主人公と、さらに交流を深めていく……そんな展開だったはず。


 つまりこの私、ロザリア。

 いい感じに恋を燃え上がらせる薪として使われます。


「いやああああああ! そんな(みじ)めな死に方、絶対に嫌よ……!! ど、どうすればいい……!? どうすれば死なずに済むの!?」

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