十八話 バグを治すために
私は思わず邪竜の足元に駆け寄って、おいおいと泣いてすがる。
「こんなところで死にたくないわよぉ……! なんとかしてよぉ、ヴァルぅ……!」
【う゛ぁ、ヴァルだと……? 急に馴れ馴れしいな、おぬし】
邪竜ヴァルドーラ。
だからヴァル。
ゲーム中では自分からそう呼べと言ってきたのに、彼は見るもわかりやすく戸惑ってしまう。
しかしあだ名自体に異論はないのか、頰をかいて哀れみの目で私を見下ろす。
【まあ、我もせっかくできた話し相手を死なせるのは本意ではない。よってアドバイスを授けよう】
「なになに!? なんでも聞くわ!」
私は悔い気味で先を急かす。
すると彼は事もなげに――。
【その邪法を使うのをやめるがいい】
「へ」
きょとんと目を丸くする私。
ヴァルはぐぐっとこうべを垂れて、私をじーっと見つめてみせる。
【今はまだそこまで深刻な状態ではない。大人しくしておれば、そのケガレは自然と消え去るであろう】
「で、でも、この技を使わないと……」
【死ぬより酷い目に合ってもか?】
「うっ……」
バグ技を使わないと強くなれず、死亡フラグによって死ぬかもしれない。
でもバグ技を使い続ければバグがひどくなって、この世界からつまみ出されるかもしれない。
どちらも全力で遠慮したいところである。
(え、なに。やっぱり詰んだ?)
さーっと顔から血の気が引いていった。
ヴァルはそんな私を見て首をひねる。
【たしかにおぬしには妙な運命がつきまとっているようだな。ならば、いいものがある】
そう言って、彼は背後をごそごそと漁る。
やがて向き直ったその口には、なにかキラリと光るものがぶら下がっていた。
ヴァルはそれを、ぽいっと私に投げ渡す。
【そら】
「わわっ」
あわててキャッチしてみれば、それは銀に輝く指輪だった。銀のチェーンが通されていて、首からさげることができる。
【それをおぬしに授けよう。その名も……】
「まさか……賢者の守護符!?」
【なんだ、知っているのか】
即死呪文を防ぎ、ステータスの運勢値を+100する装備品だ。
けっこうレアな代物で、特定のボスが超低確率でドロップする。
「な、なんでこんなものを……この上の階層にいるボスが持ってるんじゃなかったっけ?」
【ここは最下層であろう。ゆえに、上から様々なものが落ちてくることがある。それらのうち、使えそうなものを取っておいたのだ】
「案外マメなのねえ……」
私はしげしげと指輪を見つめる。
迷った末に、首にかけてみると、ほのかなぬくもりが体を包んだ。
どこか安心できるような、そんな心地がする。
【それがあれば、おぬしの幸薄そうな未来もいくぶんマシになるだろう】
「幸薄そう、は余計だけど……ありがとね、ヴァル」
【気にするな、我が友よ】
にやり、とヴァルは笑ってみせる。
隻眼の邪竜の笑みなんて凶悪以外のなにものでもないはず。それなのに愛嬌たっぷりに思えてしまって、私もつられて笑顔を返した。
【ほかにも、なにか困ったことがあれば我を頼るがいい。できるかぎり力になろう】
「ヴァル……」
そのあたたかな言葉に、私は胸がじーんとしてしまう。
バグ技は封印されて、死亡フラグに対抗するすべはなくなった。
でも、裏ボスたる邪竜が味方してくれるのなら――。
(意外となんとかなるかもね……?)
心が幾分軽くなった。
そんななか、彼は爪を器用に動かし、私の持ってきたケーキの箱をつまみ上げる。
【さて、それではおぬしが持参してくれたケーキとやらを食すとするか】
「いいけど、人間用のサイズだからあなたには小さすぎるかも……あっ、人間形態になっちゃう?」
【なに。こうして魔法でケーキを大きくすれば……ほれ】
簡単な呪文を唱えると、ケーキの箱は一軒家ほどの大きさへと早変わりする。
出してみせるケーキも私が埋まるほどに巨大になっていた。
「うわあ、魔法の無駄使い」
【なに、有効活用と言うがいい】
そのまま上機嫌で巨大ケーキをぱくつく邪竜を、私はにこにこと見守るのであった。
間違えて推敲前のものを上げておりました。
7/10昼に修正いたしました。お騒がせいたしました。




