十六話 バグ技チートのその代償
「あ、あの、本当に、ありがとうございました!」
そこで、リリィがまた頭を下げる。
「このまえのパーティではあんな失礼なことをしてしまったのに、助けていただけるなんて……本当に、なんとお礼を言っていいか」
「あれは私も悪かったもの。気にしないでちょうだい」
ヨハネをいびっていたのを注意されて、水をぶっかけそうになるなんて……我ながら幼稚にもほどがある。
だから私はあっけらかんと答えるのだが、リリィは胸の前で指を組んで、きらきらと顔を輝かせる。
「勉強もできて、そのうえお強いなんて……すごいです! ぜひ、今度あらためてお礼をさせてください!」
「えっ」
それに私は言葉を詰まらせる。
彼女はこのゲームの主人公。そして私は、彼女をいびった末に破滅する悪役令嬢。
深く関わってもろくなことにならないのは、火を見るよりも明らかだ。
固まる私を見て、リリィはハッとしたように顔を曇らせて、無理をするように笑う。
「あっ、庶民の私にこんなことを言われてもご迷惑ですよね……今のは忘れて――」
「いいえ! 全力でお礼してもらおうじゃないの!」
私はおもわずその手をにぎってしまう。
馬鹿力で痛くしないよう、あくまでそっと。
すると彼女はぱあっと顔を明るくしてみせた。
「っ……はい! わかりました! ありがとうございます、ベルフェドミナさん!」
「あはは……ロザリアでいいわよ」
「そ、それじゃあ……私のことも気軽にリリィとお呼びください!」
なーんかまずいフラグを立てている気がする……。
いやでも、あれを無下にできるなんて、よっぽどの冷血人間だけでしょ。
半笑いでいると、ヨハネがハンカチをしまいつつ「ふむ」とうなる。
「しかし特訓とは……いったいどれだけお強くなったのですか? 昨日授業で測ったステータスは平均的なものでしたが」
「あー、昨日の夜に上がったんだと思うわ。たぶん」
「では僭越ながら、ステータスを測定させていただきましょう。先日覚えたばかりの《鑑定》が使えるかと」
ヨハネが呪文をつむぎはじめる。
「ロザリアさん、もうレベル2に上がったんですか? 勉強もできて、そのうえお強いなんて……やっぱりロザリアさんはすごいです!」
「あ、あはは……それほどでもないわよ」
目を輝かせるリリィに苦笑を返す。
(ま、昨日食べた奇跡の果実は百くらいだし。ようやく三桁ってところかしら?)
ステータスの上限は999だ。
レベル20くらいで100を超えるのが平均である。
一年生の中ではかなりの優等生に分類されることだろう。
(ふふん、それくらいあれば序盤の死亡フラグなんて楽勝でしょ)
なーんて、気楽に構えていたのだが――。
「《鑑定》」
ヨハネが呪文を唱えると、私の体を淡い光が包む。
次の瞬間、目の前に浮かび上がるのは、あのメッセージウィンドウだ。
そして――。
「あっっ! みんな! あれを見てちょうだい!」
「「「はい?」」」
私が突如上げた大声により、ヨハネやリリィ、そして遠巻きに見守っていた生徒たちがあさっての方を向く。
全員の注意がそれた、その隙に。
「せいっっっっ!!」
私は渾身の正拳突きを、メッセージウィンドウにぶちかました。
ガラスを砕くような感触と音。
ウィンドウは粉々に砕け散り、光の粒子とかして消えてしまう。
よーっし! 間一髪!!
「ロザリア様……? なにもございませんが」
「あれ? ステータスが消えちゃってますね?」
不思議そうに首をかしげるヨハネとリリィ。
そんなふたりに、私は片手を上げて――。
「ごめん! ちょっと気分が悪くなったから早退するわ! それじゃっ!」
「は? ちょっ、ロザリア様!?」
呼び止める声もガン無視で、私はその場から猛スピードで逃げ出した。
だって仕方ない。のっぴきならない、緊急事態なのだ。
(いったいなんなのよ……今のステータスは!?)
先ほど私が砕いたメッセージウィンドウ。
そこにはこう書かれていた。
ロザリア・ベルフェドミナ。
レベル1。
【筋力】――――。
(筋力が999999って……どう考えてもおかしいでしょうよ!?)
おまけにそればかりではない。
ほかのステータス欄が、奇怪な模様で塗りつぶされていたのだ。
さらにはジジッと不穏なノイズもちらついており、あまりに常軌を逸していた。
走りながら頭を抱えようとして――ふと、足を止める。
「は……なに、これ」
ステータス画面に走っていた、細かなノイズ。
それが私の体にも浮かんでいたのだ。
まるでよくできたCGが、処理落ちを起こしてちらつくように。
そこでふと、私の脳裏に前世の記憶がよみがえる。
そうは言っても何の変哲もない、ゲームを遊んでいたときの記憶だ。
なんだかおかしな操作をしてしまい、ゲーム自体がバグってしまった。
メッセージウィンドウは文字化けして、主人公のグラフィックもぐっちゃぐちゃ。
苦労して中ボスを倒したあとだったのに、泣く泣く電源を切ったことがある。
そんな、たわいもない記憶が教えてくれる。
まさか、これは――。
「私自身が……バグったああああああああああああ!?」
続きは7/9に更新します。
ブクマに評価、まことにありがとうございました。
おかげさまで異世界転生&ファンタジージャンルの日刊157位に入ることができました。みなさんのおかげです。今後もお暇つぶしになれば幸いです。




