十五話 手も出しちゃったけど……たぶん正当防衛よね!
私はぽかんとするしかない。
今のは魔法だろうか……?
でも、だったら誰が?
固まる私をよそに、悲鳴のような怒声がとどろく。
見れば少年が肩を震わせ、私に憎悪の目を向けていた。
「今なにをした……! ケインをよくもやったな!」
「へえ!? 私はなんにも知らないわよ!?」
「とぼけるな! おまえたち! その女を捕まえろ!」
「えええええ!?」
少年の合図を受けて、残る三人がいっせいに私へ飛びかかってくる。
彼らの体格は先ほどの男子生徒と似たり寄ったりだ。
さすがにこれは怖かった。
「ちょっ……来ないでってばあ!」
「「「ごぶっっっ!?」」」
おもわずぶん回したこぶしが、彼らに当たる。
ぺちん。
こぶしに伝わる軽い衝撃。
だが、たったそれだけで、彼らは面白いくらいにぶっ飛んだ。
ある者はぶち当たった樹をへし折り、ある者は壁に叩きつけられて大きなクレーターを刻む。
地面にめり込む者もいた。
あっという間に、あたりは死屍累々の地獄絵図に早変わりだ。
おかげであたりからは小さな悲鳴がいくつも上がった。
ヨハネも駆け寄ろうとしたポーズのまま、目を丸くして固まっている。
「えええ……なにこれぇ……」
戸惑うしかない私だが、ここまでくれば認めるしかない。
彼らをぶっ飛ばしたのは魔法ではなく、間違いなくこの私だ。
そこでハッと気付く。
(ひょっとして、あの奇跡の果実は……!)
ためしに小石を拾ってみる。
軽くにぎれば……石は砂糖菓子のように砕け、細かな砂が手のひらからこぼれ落ちた。
ゴリラか、私は!?
奇跡の果実はどれかのステータスを上昇させる。
つまり昨日、私が食べたのは……筋力を伸ばすものだったのだ。
そこで小さな足音が耳につく。
見れば、例の少年が真っ青な顔で震えていた。
自慢の取り巻きが倒されて、しかも相手は非力なはずの小娘。さぞかし怖いに違いない。
だから私は、そんな彼にニッコリと微笑んで――。
「えーっと……まだやる?」
「ひいいいいい……!?」
裏返った悲鳴を上げて、例の少年は脱兎のごとく逃げ出していった。
あたりに転がる取り巻きたちをたたき起こし、「おぼえてろよ!」という捨て台詞も忘れなかった。
ううむ、お手本のような小悪党だ。
おかげで周囲からは「おおー」という感嘆の声が聞こえてくる。
いや、そんなことよりも……。
「そっかー……筋力が上がったのかー……」
私は己の手のひらを、しみじみと見つめる。
筋力。パワー。ストレングス。マッスル。
うん、わかりやすい強さだ。
これならどんな死亡フラグも怖くないかもしれない。
でも……かっこいい魔法、使いたかったなあ。
「あ、あの!」
「はい?」
ちょっとしたもの悲しさに浸っていると、声をかけられる。
顔を上げれば、目の前にはリリィが立っていた。
彼女は真っ青な顔のまま、勢いよく頭を下げる。
「巻き込んでしまって、すみませんでした……!」
「ああ。いいわよ、あれくらい。勝手にやったことだしね」
私はおもわず相好を崩してしまう。
自分も相当怖かっただろうに、なんと健気な子だろうか。ゲーム同様、やっぱりいい子である。
上機嫌になって、私はにこにこと彼女に尋ねる。
「それよりあなたに怪我はなくって?」
「は、はい。あの、ベルフェドミナさんは……?」
「私もこのとおりピンピンしてるわ。だから――」
「今のは何だったんですか!?」
いい話でまとまりかけていたのに、そこでヨハネが割って入ってくる。
彼は私の肩をがしっとつかみ、がくがくと揺さぶった。
その形相は今にも卒倒しそうなほどに真っ青だ。
「格闘技……ではありませんよね!? いつの間にあんな馬鹿力を得たのですか!?」
「馬鹿力って……ちょっと隠れて特訓してみただけよ」
「い、いつの間に……! このヨハネ、まったく気付きませんでした……従者失格です!」
そりゃ、ただ果物を食べただけだしね。
ヨハネは私を解放して、深々とため息をこぼしてみせる。
恨みがましい目を向けるのも忘れない。
「ですが、危ないことはよしてください。どれだけ僕が心配したか……」
「うっ、ごめんなさい……見てられなかったから、つい……」
「承知しておりますよ。ですから今回ばかりは大目に見ます。いや、しかしまさかあのロザリア様が他人を助けるなんて……」
ヨハネはハンカチを取り出して、目元をぬぐう。
「僕はいたく感激いたしました。人はこんなにも成長し、変わることができるのですね……!」
「大袈裟ねえ……」
続きは明日更新します。
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