十四話 我慢できずに口を出す
周囲の生徒たちはそれを物珍しそうに見守るだけだ。わざわざ助け船を出す者はいなかった。
この学校の生徒は、ほとんどが良家の出だ。
ゆえに、何の後ろ盾もない、庶民上がりのリリィはかなり異質な存在だった。
「だが、それにしたって特待生の椅子を勝ち取るなんてたいしたもんだ。その優秀さは僕も認めるよ。だから、取り引きと行こうじゃないか」
「と、取り引きって……?」
「僕は君に金を渡す。そのかわり、僕とダンジョン探索のパーティを組んでもらいたい」
授業が進めば、ゆくゆくはダンジョンに繰り出すことになる。
その際、優秀な仲間がいれば簡単にレベルアップできることだろう。
だからリリィに目をつけた。
少年はそう語り、リリィを値踏みするような目で見つめる。
「卒業後の身分も保障する。正妻は……さすがに無理だが、妾の座くらいは用意しよう。クライスト家の後ろ盾だ。死ぬまで食うに困らない。悪くない話だと思うけどね?」
「そ、そんなこと、私は望んでいません!」
「おいおい、この条件でもまだ足りないっていうのか? いくら積めばきみを買えるんだ」
「違います……! お金なんて、私は……!」
リリィはますます顔を青くして、その目にうっすら涙の膜が張りはじめ――。
「……ロザリア様。もしお許しいただけるのであれば、僕が……ろ、ロザリア様?」
ヨハネの固い声が、戸惑いに変わる。
私がすたすたと歩き出したからだろう。
すーーっと思いっきり息を吸い込んで――少年たちの背中に叫ぶ。
「ちょっと! そこの性悪ボンボンども!」
「はあ?」
彼らがそろってこちらを振り返る。
怪訝そうに眉をひそめるそのツラに、私はビシッと人差し指を向けるのだ。
「黙って聞いてりゃ、好き勝手に言ってくれちゃって……! その子はねえ……めちゃくちゃ健気ないい子なんだから!」
「へ?」
リリィが目を丸くする。
しかし私はおかまいなしで、台詞を続けた。
「この学校に入るために必死に勉強して……入ってからも努力を惜しまず、図書館で遅くまで勉強したりしてるのよ! 誰からも頼まれていないのに花壇に水をやったり、教室の掃除をしたり……とにかくいい子なんだから!」
ゲームをやりこんだから、リリィの人となりはよくわかる。
彼女は行方不明となった唯一の肉親を探すため、この学校にやってきたのだ。
序盤は味方が誰もいなくて、心細い思いを抱えながらも、必死に努力を続けていた。
私はそれを、プレイヤーという立場から見守り、応援した。
そんな彼女を侮辱するなんて……許せるはずがない。
自分への悪口は流せるが、推しへの侮辱は万死に値する。
オタクの悲しい性である。
しかしリリィは不思議そうに小首をかしげるのだ。
「あ、あの……どうしてご存じなんですか? ベルフェドミナさんとは、あんまりお話ししたこともないのに……」
「……たまたま先生たちが噂しているのを聞いちゃったのよ!!」
苦しい言い訳を吐く私である。
少年は最初こそ面食らったように目を丸くしていたが、すぐに調子を取り戻して嘲るような目で私をにらむ。
「ふん、部外者は口を出さないでもらおうか。これは僕と彼女の問題だ」
「『僕と彼女の問題』……ねえ。ふふふ、面白い冗談だこと」
「……なにがだ」
くすくす笑えば、少年が顔をすこししかめてみせる。
だから、私は澄ました顔で毒を吐く。
「そういう台詞を使いたいのなら、ナンパに家の名前を出さないことね。自分一人の力じゃ、女の子も満足に口説けないなんて程度が知れるわよ」
「なんだと……?」
少年の顔があからさまに歪む。
あーらいい気味、と思ったところで、右手を誰かに腕をつかまれた。
少年の取り巻きAである。
上背が高く、プロレスラーのようにがっしりした体つき。
それが私の腕をつかみ、じろりとにらみを利かせてくる。
「おい、口を慎め。この方はクライスト家のご子息だぞ」
「はあ~? そんな名前に聞き覚えはないわよ。どうせ田舎貴族かなにかでしょ」
「なんだと……?」
「ろ、ロザリア様! 挑発はおやめください!」
ヨハネが慌てる声が、背後で響く。
周囲の生徒もざわざわし始めて、あたりに漂うのは不穏な空気。
たしかに目の前の男子生徒はかなりの迫力だ。
腕をつかむ力も強い。
気をゆるめてしまえば、膝が笑ってしまったことだろう。
だから私は己を鼓舞するようにして、嘲笑を浮かべる。
「ふん。なによ、これくらいで私が怯むと思って?」
男子生徒をにらみつけ、その手を振り払おうとする。
たったそれだけ。
力なんてほとんど込めなかった。
鍛えてもいない女の細腕が、敵うはずもない。
それなのに――。
「汚い手で……この私に触るんじゃないわよ!!」
「ぶっっっ――――!?」
次の瞬間。
男子生徒の体が『く』の字に曲がり、勢いよく吹っ飛んだ。
その光景は、まるでコマ送りの動画のように私の目に焼き付いた。
宙をくるくる舞う巨体。
それはまるでバレーのサーブのようにきれいな放物線を描き、そのまま遠く離れた植え込みに突っ込んだ。
バキバキバキィッッッ!!
気付けば植え込みから両足が生えている。さながら犬神家のあれである。
男子生徒は気を失ったのか、ぴくぴく痙攣するばかりで動く気配はない。
しーーーーーーーーん。
おかげで、あたりは痛いほどの静寂に包まれた。
「…………え?」
キリが悪いので、今日はもう一話更新します。
ブクマに評価、ありがとうございます。お暇つぶしになりましたら幸いです。




