十三話 波乱の予兆
「あれは、先日のパーティでお会いした……」
ヨハネもそれに気付いたらしい。
私たちは顔を見合わせ、彼らのそば――植え込みの陰にそっと隠れる。
なんとなく、嫌な予感を覚えたからだ。
私たちにも気付くことなく、彼らは話を続ける。
五人のうちの四人は、妙に体格がいいものの、制服を着崩していて典型的なゴロツキ風だ。
それを従えるのは、くすんだ金髪の少年だった。
そこそこ容姿は整った方だが、底意地の悪さがまざまざと人相に表れていた。
彼はきざったらしく前髪をかき上げる。
「いったい何が不満だっていうんだ。僕はあのクライスト家の三男だぞ。そのガールフレンドになれるなんて、光栄以外のなんでもないだろ」
「で、でも、私、あなたのこと、よく知りませんし……」
リリィはそれに戸惑うばかり。
見るもわかりやすいナンパだ。
しかも、あんまりタチがよろしくないタイプの。
その光景を前にして、私は首をひねる。
(こんなイベント、あったかしら……)
ゲームで起こるイベントは、ランダム発生のものまですべて見たはず。
それなのに、こんな風景にはまるで覚えがなかった。
かわりにあるのは似たような記憶だ。
私ことロザリアが、真っ向から彼女をいびり倒すイベントである。
あれはたしかパーティからそれほど日にちの経たない頃合いだったはずで――そう。タイミング的には、ちょうど今日のこの時間。
しかも場所もぴたりと一致する。
(ひょっとして……私が虐めなくなったから、かわりにこんなイベントが起こっているわけ!?)
私、ロザリアの死因は、そのほとんどがリリィに関係することだ。
彼女にちょっかいを出しまくったせいで自滅する。
ゆえに、私は前世の記憶を取り戻してから、リリィとはなるべく関わらないように気をつけてきた。
見た目は可憐な少女だが、私にとっては死の象徴だからだ。
だから私がリリィを虐めるイベントは起こらない。
その代わりに発生したのが、この不快なナンパイベント……なのかもしれない。
確証はない。
だが、少年に詰め寄られたリリィが浮かべる不安げな面持ちは、あのいびりイベントのスチルで見たものとそっくり同じものだった。
違うのは彼女を追い詰めているのが私ではなく、いけすかないナンパ野郎だという点だけだ。
そうなると、彼女が絡まれているのは私の行動が原因となってきて……。
助けないと、と心から思った。
だが、足は言うことを聞かない。
まるで地面に根を下ろしたかのように、私は植え込みの陰から動けずにいた。
(余計なことに首を突っ込むべきじゃないわ……まして、あのリリィよ!? 私の死因は、ほとんどあの子がらみの事件なんだから……!)
関わってもろくなことはない。
リリィには申し訳ないが、ここは静観あるのみだ。
とはいえ顛末は気にかかる。
じっと見守る先で、例の男子生徒が鼻を鳴らした。
「わかったぞ。金だな?」
「は……?」
「あいにく僕はまだ学生の身の上だから、自由にできる財産は少ない。だがそうだな、このくらいなら……」
革の財布から何枚かの金貨を取り出して、リリィにずいっと突きつける。
しめて五百ギル。
学生が一週間必死になってバイトして、ようやく手が届くくらいの大金だ。
「ひとまず手付金だ。受け取るがいい」
「そ、そんな……私、お金なんていりません!」
「はあ? そんなわけはないだろ」
少年は片目をすがめて、嘲るようにリリィを見やる。
周囲の取り巻きも似たような表情を浮かべて目配せし合った。
心底不快な表情だ。顔をしかめる私だが、続く少年の言葉に耳を疑うことになる。
「この学校にもぐりこんだのは、どうせ男を捕まえるためだろう? それ以外に、庶民がここに来る理由なんて考えられないからな」
「っ……」
リリィは唇を噛みしめ、肩を震わせる。
続きは7/7更新予定です。
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