十二話 ランチタイムに不穏の気配
「もうすぐ中庭です。新鮮な空気を吸えば、すこしは気分もよくなるはずでしょう」
「うう、ありがと……ヨハネ。迷惑かけるわね……」
「お気になさらず。これも従者の務めですから」
どこぞの邪竜が子犬なら、彼はドーベルマンなどの忠犬だ。
そんなことを考えていると、やがて校舎の外に出る。
今日も気持ちのいい快晴だ。
爽やかな風が頬を撫でる。
そこは校舎と校舎に挟まれた空間で、一面の緑が広がっている。
足下はすべて芝生で、植え込みはよく手入れがされており、ツタ薔薇のアーチといった洒落たオブジェもあった。
そのあちこちにベンチが置かれていて、生徒たちが思い思いの時間を過ごしている。
木陰のベンチに腰を落とし、私はひと息つく。
「ふう……ちょっと楽になったかも」
「それはよかったです。本日のランチはサンドイッチをご用意しましたが……召し上がりますか?」
そう言ってヨハネがバスケットを開いてみせれば、中には様々なサンドイッチが詰まっていた。
定番の卵サンドに、きゅうりのサンドイッチ、BLTサンド。
それと……ぴかぴか光るイチゴのサンドイッチ。
奇跡の果実を思い出し、ちょっと胃もたれがひどくなる。
「ふ、フルーツサンドは……ちょっと無理かも」
「では、そちらは僕がいただきましょう。夜は消化のいいメニューを用意いたしますので」
「あんまり気にしないでちょうだいね。あなただって学校の用意とかがあるんだし……」
彼もこの学校の学生だ。私と同じように授業を受けて、課題をこなす。
そのうえ私の面倒まで見るとなると……負担は大きいはず。
だが、ヨハネは晴れやかな顔で言う。
「ご心配には及びません。僕は入学前から、あらかじめ勉強を進めておきましたから。魔法だっていくつか扱えますし。ほら、この通り」
「わっ」
ぽんっと軽い音を立てて、ヨハネがかざした手のひらに、小さな火の玉が出現する。
火を操る初級魔法だ。
火の玉はすぐに消えてしまうが、彼はにっこりと笑う。
「まだ初歩の初歩ではありますが……学業を先取りした分、当分はロザリア様のお世話に専念できます」
「その分の時間を勉強とか青春に費やした方が、よっぽど有意義だと思うんだけど……?」
「ロザリア様のお世話をすることが僕の青春です」
ばっさりと重いことを言ってのけるヨハネだった。
その笑顔には一点のくもりもない。
「さて、夜は胃にいいハーブティをお煎れいたしますね。厚手のナイトウェアも用意いたしましょう」
「忠犬っていうより、もはや田舎のおばあちゃんね……」
私は半笑いになりながら、きゅうりのサンドイッチをぱくっと一口。
バターの風味がふんわり香り、きゅうりのシャキッとした食感が楽しい。
おかげでちょっと気分がよくなった。
そんな折――。
「そ、その……困ります!」
「ははは、そう言うなよ」
「む?」
聞き覚えのある少女の声と、覚えのない粗野な声。
それが妙に耳について、声のした方を探す。
すると、すぐに生徒の集団が目についた。
ひとりの女子生徒を、四人の男子生徒が取り囲むようにしている。
五人ともタイの色からして、私と同じ新入生だ。
女の子はすこし青い顔をしているが、少年たちはにやにやと笑っている。
少年たちに見覚えはない。
だが、女子生徒の方は、嫌というほどに知っていた。
(り、リリィ……?)
先日のパーティで私と一悶着あった……このゲーム世界の主人公。
見間違えようのない彼女だった。
続きは7/6に更新します。
ストックが厳しくなってきたので、明日からは一日一回更新です。すみません。
引き続き、お暇つぶしになれば幸いです。




