1章閉幕
鎧を着たオークが少女に鞭を振るっていた。少女は手枷で動けないため、こうして「尋問」という名の「ストレスの捌け口」になっていた。先程金髪の青年に圧倒的な力の差を見せつけられたせいか、より激しく鞭を振り回している。牢の入り口に立っていた鎧姿のエルフも呆れていた。
「ほら、おまえら飯の時間だ。」
階段から顔中包帯だらけの執事服の男が粥を乗せた皿を持って降りてきた。その風貌から、この少女からは「ミイラ」と呼ばれているらしい。
「おい、聞こえなかったのか?飯の時間だ。」
「あいつはダメだ、おまえからも何とか言ってやってくれ。」
エルフはミイラに面倒事を投げて食事に行った。ミイラは少女を鞭打つオークを暫く見ていた。エルフの言った通りやり過ぎである。この少女を殺すのが目的ならまだしも隠した物の場所を吐かせるのが目的だ。その前にこの少女が死んでしまったら全く意味を為さないのである。
「おい、何こっちを見てるんだ!?」
ずっと視線を向けていたミイラのことが気に入らなかったらしい。オークはミイラの方に寄って来た。そして、拳を振り上げる。
キーン
大きな金属音が鳴り響いた。直後、オークのヘルムは宙を舞い、ミイラは剥き出しになったオークの頭部に粥用の匙を密着させていた。
「これが銃とか剣ならおまえはもう死んでたな。」
オークは冷や汗を流していた。このオーク達が身に付けている鎧一式は強化の魔法が掛けられており、ほとんどの物理攻撃では破壊できない。だが、このミイラという男は違っていた。その頭装備を破壊するではなく、匙で器用に弾き飛ばし、頭にその匙を突き付けたのであった。
「糞が!!」
オークは逃げるように地下牢を飛び出して行った。それを見届けるとミイラはポケットから新しい匙を取り出した。
「きゃー☆かっこいいわ、ミイラ。犯されそうになってた私を助けてくれるなんて。」
鞭で打たれていた少女は案外元気そうだった。ミイラは匙で粥を掬って少女の口元に持っていく。
「自分で食べられるわ。だからこれ外して?」
少女は手枷をガシャガシャと音立ててみせる。
「断る。」
ミイラは匙をそのまま少女の口に突っ込んだ。
ミイラは最後の匙を少女の口元に運ぶ。少女は不満そうな顔をしながらもそれを食べた。
「野蛮な奴らも暫くは休憩中だ。今のうちに休んどけ。」
ミイラは空になった皿と匙を盆に乗せ牢を去ろうとした。
「待って、ミイラ。そろそろその包帯も替えないといけないでしょう?この手枷外してくれない?」
ミイラは少女の方を見て暫く動きを止めた。そして少女に背を向け牢を去る。
「あんたは自分の心配しとけばいいんだよ。」
「ミイラさん、どこに行ってたんです?」
キッチンに戻るとそこにはメイド姿の少女が立っていた。金髪ショートで前髪がおかっぱなのが特徴的であった。
「自室に籠ってる主人に飯を持っていっただけだよ。」
「そうでしたか。」
少女はミイラの言葉を信じているようだった。その主人は地下で拷問されているというのに。
「御嬢様、御体を悪くされたのですか?」
「何でだ?」
少女の突然の言葉にミイラは首を傾げてみせる。
「いえ、ミイラさんが薬草を買ってこいと言ったものですから。」
ミイラはこの少女に薬草をおつかいさせていた。野蛮な奴らが意地になってあの御嬢様が殺されないように、食事に薬草を混ぜていたのだった。
(このままじゃ、そのうちバレるかもな。)
ミイラは鼻で笑った。
「いや、さっきの薬草は俺用だよ。」
ミイラは少女の前の椅子に座った。
「そこに俺が作った塗り薬と包帯がある。包帯を替えるのを手伝ってくれないか?」




