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朱の国  作者: 河野流
プロローグ
2/11

プロローグ 問1

ここは地下牢である。じめじめしていて水が地面に垂れる音だけが聞こえる、そんな場所で何かを叩いたような音が響いた。

「おい、そろそろ隠し場所を吐いたらどうだ!」

銀色の鎧を来たオークが少女の尻を鞭で打ったのだった。少女の水色のドレスは汚れ、紫の長髪も乱れていた。

「おいおい、加減しろよ。エンマ大王の証である書類の場所、それを吐くまで殺すなと言われてるんだ。」

牢の扉を塞ぐように立っていたエルフの男が言った。それを聞いたオークは鼻で笑う。

「何言ってるんだ、こいつらは身体が丈夫なことだけが取り柄だろう。」

オークはまた鞭を振るった。その音と同時に少女の頭の上にあった猫のような耳がピンと立つ。そう、髪の色からも分かる通りこの少女は人間では無かった。

「これだから野蛮なオークは嫌なんだよ。」

「おう、野蛮で結構。しかし、この女…。」

オークは少女の身体を舐め回すように見つめる。そして止まった視線の先には呼吸の度に揺れる大きな胸があった。

「誰も犯すなとは言ってないよなあ!」

オークの手が少女の胸に伸びたその時だった。銃声が聞こえ、放たれた銃弾は今にも少女の胸に触れそうだったオークの右手を弾いた。

「おい、そいつはVIPなんだ。そんな蛮行が許されると思っているのか?」

金髪の青年が階段を降りてきた。左手には煙が出ている小銃を持っている。

「交代の時間だ。」

青年の言葉を聞いたエルフは地下牢から出ていった。青年はそんなエルフを見送ったあと再びオークの方に視線を向ける。

「聞こえなかったか?交代だ。」

オークは文句を言いたそうに口を動かしたが、逃げるように地下牢から退出して行った。青年の眼光は鋭く、値に飢えた猛獣を思わせたためである。

「無駄に丈夫な鎧着やがって。」

青年は少女の近くにあった腐りかけの木製の椅子に座る。軋む音がしたが壊れはしなかった。

「あら意外に紳士なのね、キン。」

少女はキンと呼ばれた青年の方に笑顔を向ける。キンはフンとそっぽを向いた。

「おまえも頑固だな。さっさと吐けば楽になれるというのに。」

「それじゃ何?今からそこの鞭でSMプレイでもする?」

キンは地面に落ちてた鞭を一度手に取ったが、後ろに投げ捨てた。

「女子供にそんなことできるかよ。」

キンは腕を組んで少女の方を見る。目付きは悪いが、まっすぐな視線であった。「そう」と少女は呟いた。

「それじゃ世間話をしましょう。さっきまでずっと鞭で打たれていたものだから喋り足りないの。」

「何の話をするんだ?」

キンも暇を持て余しているからか少女の提案に乗った。少女はキンの方に笑顔を向ける。

「それじゃ、『平和は存在しうるのか』。これにしましょう。」

キンは一瞬戸惑いを見せた。少し考えたあと少女の方を睨む。

「何だ、その話題は?」

「いいから答えてみなさい、貴方の考えを。」

キンの視線を受けてなお少女は涼しげであった。

「…平和はあるよ、無ければならない。」

キンの言葉を聞いて少女は「ふふ」と笑う。

「ここに一つのパンがあります。貴方ともう一人人間が居て、その両者とも空腹です。貴方ならどうする?」

「二つに分ければいいだろう。」

「また一人空腹の子が現れました。貴方はどうする?」

キンは少し沈黙した。少女の言いたいことが分かったからだ。

「三つに分けるよ。」

「そう、貴方ならそうするでしょうね。また同じような子が十人来ました。どうする?」

「…」

キンは答えられなかった。パンをさらに十個分けたところで空腹を満たせるはずが無い。

「繁栄した種族の生物はどんどん増えていくわ。でもね、食料をはじめとする資源には限りがあるの。だからね、一人辺りの量が足りなくなる日が必ず来るのよ。そうしたら、どうするか、どうなるのか。簡単よね。」

キンは黙って聞いていた。何も反論できなかったからだ。

「『他所から持ってくればいい』。これが戦争よ。だからね、人という種族が繁栄し続ける限り平和は訪れない、これが答えよ。」

「…」

キンは立ち上がって扉の前に立った。それから彼は次の番兵と交代するまで喋ることは無かった。

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一章です
勇者19歳
番外編始めました
欲望の国
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