2章-1 顔の無い英雄像
金髪の少女は家に帰って来ていた。父と母の写真の前に花を添える。これは日課である。母は百合の花が好きであったらしい。父もこうして毎日百合の花を供えていたものであった。
「お父さん、お母さん、おはようございます。」
少女はいつもの挨拶を済ませたあと机に戻った。今日は近くの村に降りて薬を売り、日用品の買い出しを行う日である。昨日の晩に作った薬をバックに詰めながら「それ」の存在を思い出した。昨日薬草を摘みに行った時に死を看取った男性が遺して逝った右腕であった。
「これ、どうしよう…。」
金のメッキが所々剥がれているガントレットを装備した不格好な右腕であった。その劣化具合からかなりの戦場を歩いてきたのだと容易に想像できる。
「あ…れ?」
頬を何かが伝って落ちた。確かに初対面の男性であった。なのに、彼が息を引き取るその瞬間を思い出す度に涙が出てしまう。
「…いけない!」
少女は時計を見るなり家を飛び出した。薬屋さんと約束していた時刻に遅れそうだったためである。その時少女は急いでいたあまり、薬と一緒に「それ」も一緒にバッグに突っ込んでしまったのだった。
これが運命の始まりであった。