プロローグ 少年の旅立ち
少年は大きく膨れ上がっていたリュックを背負って門の前に立った。これには弟妹達が作ってくれたおにぎりがぎっしりと詰まっている。少年は空を見た。今日は雲一つ無い快晴であった。旅立ちにはおあつらえ向きの天気である。
「本当に行っちゃうのね?」
黒髪ツインテールの少女がチビ達を掻き分けて出て来た。来ているワンピースはボロボロであったが、破けたところはひとつひとつ丁寧に布を縫い付けてあり、この衣服一つがどれだけ大切なものなのか見て分かる。
「ああ、俺は行くよ。…そういや、あいつは何処に行ったんだ?」
「あいつはね…、一応見送りには誘ったんだけど…。」
少女は少し寂しそうな表情をすると視線を地面に動かす。
「『次会うときは敵同士だ』だって。確かにそうなるかもしれないけど、それってとても悲しいことじゃない?」
少年と少女の間に少し沈黙が続く。だが、小さな子供に空気が読めるはずも無い。後ろの方から泣き声が聞こえて来た。
「こらこら、こんなところで喧嘩しないの!今日はしっかりお兄ちゃんを見送るって約束したでしょう?」
少女は落ち着き無く子供達の中に消えていった。小柄のせいでこうしてチビ達に紛れると全く見えなくなるのであった。
「それじゃ俺はもう行くよ。」
少年はボロい城の前に集合したチビ達に手を振り、右手には杖を持ち出発しようとした。
「何かあったら帰って来なさいよ!!ここはあんたの家なんだから!!」
少女の声が背後から聞こえて来た。腹から出した声なのだろう、少年はその大きさに驚いていた。
「おまえは俺の母さんかっての。」
少年は門から一歩踏み出した。これが少年の旅の始まりであった。