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とある日のこと①

「マスター、そろそろ夕食の時間です」

「あー、うん……そうだなぁ……。でも今日、料理する気が不思議なぐらいないから、適当にインスタ――」

「拒否します」


 最後まで言うことも出来ずに却下された。


「……一応。理由聞くけど、何で? リノは食事しなくても問題ないんじゃなかったっけ?」

「それはもちろん、美味しくな……マスターの身体に良くないからです」


 今明らかに本音が転がり出てたけども。

 と言うか、細かい味とかまで分かるんだ……無駄に高性能ですね。


「でも最近のインスタント、割と味とか栄養とか考えて作られてるのもあるよ?」

「つべこべ言ってないで、貴方は大人しく料理をすればいいんです」

「ちょっ……リノ、性格変わってるっ!」


 くそー……単なるエネルギー吸収に過ぎないとか言っておいて、どうして食事内容に拘るんだ。

 そもそもロボに味覚とか……ん?


「あ……」

 そうか、何で気付かなかったんだ。

 ロボ娘はともかく、機械ってものは人の代わりをするために作られるものじゃないか。


「ね、そんなにインスタントが嫌ならリノが料理したら?」

「私が、ですか?」

 リノは少しだけ俯いて考えている様子だったけど、やがて、


「了解しました。では私が作ります」

 と請け負った。

 正直意外だ。てっきり渋るとばかり思っていたけど。


「他と比べジャガイモの備蓄量が多いので、肉じゃがにしたいと思います」

「え? 備蓄量って……そんなこと記憶してるの?」

「はい。必要なことと判断しましたので」


 そうか……案外便利かも? メモ帳いらずだし、買い置きを切らすこともなくなるじゃないか。

 ……世界で一つのロボ娘をメモ帳代わりか。我ながら小さい。


「じゃあさ、そろそろ切れそうなものとかある? 買い置きも含めて」

「いえ、特には。平均的な調味料のストックは、必要量を確保してあります」

「あれは? ティッシュとかトイレットペーパーとか」

「知りません」

「……え? 記憶してるんじゃないの?」

「必要なこと、と言ったはずです。どうして私が使わないような物にまでメモリを割かなくてはならないのですか」


 何、その自己中心ぶり。

 あの親にしてこの子ありって奴かな……。


「ああ、うん……分かった、いいや、もう。料理してください」

「了解しました」

 腕まくりをしてキッチンへ消えるリノ。その背中は、何だか戦場へ向かう兵士のそれに見えた。


◇◆◇◆◇◆


「……」

「……」


「……ねぇ、リノ。聞きたいことがあるんだけど、いい?」

「……何でしょうか」

「これは……一体何?」

 テーブルに乗っている、香ばし過ぎる香りを振りまく黒ずんだ物体を指差す。


「……肉じゃが以外の何物でもありませんが」

 いや、肉じゃがっていうのは黄金色をして、匂いももっと食欲をそそるものだと思うのだけども。

 決して墨のような色や匂いのする食物じゃなかったはずだ。


「……そもそも、戦闘用ロボである私に料理をさせることが間違っているのです」

「開き直るの早いよっ!? って、戦闘用……?」

「……? はい。私、MS-05Aは戦闘用ロボとして宿敵を倒すべく作られました」


 そんな物騒な設定初耳なんですが。


「……宿敵なんているの?」

「メモリによれば連邦の――」

「待て」


 それはガン……、いや、やめておこう。多分言ってはいけないことだ。

 大体MS-05ではどう頑張っても、その白なんたらには勝てないのでは。

 姉さんもそれぐらい分かってるだろう。

 だからきっと違う連邦の人だ。

 ……ロシア連邦?


「ですが私のメモリにはその個体の配置地点が入力されていません」

 まあ、普通そうだろうね……。

「ですから、私は自己判断で敵を求めなくてはなりません」

「いや、そんな物騒なことはしなくていいです」

 現実でそれは、単なる危険人物です。


「……」

 リノが小さく首を傾げて見つめてくる。

 その瞳には何処か葛藤のようなものが見える……ような気がしないでもない。


「……何?」

「マスターは私の敵でしょうか?」

「はぁ? 敵って……リノは僕のことマスターだって認識してるんでしょ?」

「はい、それは間違いありません。ですが……敵でないと確かめたわけでもありません」


 まあ、ねぇ……マスターになったときだって、その場の勢い――むしろ姉さんの強制だったわけだし。


「ですから、一度確かめさせて頂きたいと思います」

「確かめるって……どうやって?」

「武装解除の後、脳内スキャンを行ないます」

 それ凄い今更な感があるんだけども。


「脳内……危険は、ないんだよね?」

 姉さん謹製ロボ娘ということを考えると、何でもないように頭蓋を切開して、とか言いそうで恐ろしい。

 だけど、そんな不安も的中することなく、リノは首を横に振った。


「危険は一切ありませんのでご安心ください」

「なら別にいいけど……あ、武装解除されるようなものは持ってないよ?」

「自己申告は信用しないものですので、ボディチェックを行います」

「まあ、それぐらいなら……」

「では服を脱いでください」


 ……は?


「服を脱いでくださいと言っているのです。下着も全てです」

「……、そっ、そんなこと出来るわけないでしょっ!」

「何故ですか?」

「いや、何故って言われても……当たり前としか。と、とにかく! それはダメっ!」

「……理解不能です。仕方がありません。強制執行に移ります」


 不穏な言葉を吐いて身構えるリノ。その瞳に剣呑な光が宿った。


「ま、待って! 他にも何かやり方が――」

 脳内スキャンが出来るなら服ぐらい問題ないと思うんですが!

「もはや問答は無用です!」

「やめ――っ!」


 と、抵抗したところでロボ娘の力に人が叶うわけもなく。

「……ほら、ね? 何も持ってないでしょ?」

 結局下着一枚にされ、リノに身体をぺたぺたと触られているのだった。


「……、むぅ」

 ちょっと、何でそこで不満気な声を出すんですか。


「……、まだです。まだ下が残っています」

「いや。いやいやいや! そんなところに隠してるわけないでしょ!?」

「武器を隠す場所は意外であればあるほど、効果的というものです」

「どうしてそんなに頑なに脱がせようとするんだ! そんなに僕が敵だと疑ってるの!?」

「マスター、それは逆です。マスターが敵でないと信じているからこそ徹底的に調べているのです」


 ……、それ何か論理的におかしくないですか?


「おかしいことなどありません。心の底から疑っているならばボディチェックなどという生温いことはしていません。殺られる前に殺っています」


 物騒過ぎるっ!?


「と、とりあえず信じてくれてはいるんだよね……?」

 勿論です、と力強く頷いてくれる。それはとても嬉しい。

 ……嬉しいけど。


「脱がされていいってことにはならないよっ!」

「……ふぅ。とんだ困ったちゃんなマスターです……」


 う……意味不明な言葉遣いに突っ込みを入れる余裕もなくなるぐらいの威圧感がっ。

「……では力尽くで失礼します」

「結局それか――っ!」


 一瞬消えたかと思うほどの速度で飛び掛ってきたリノに、あっさりと床に押し倒された。

 ついでとばかりに自由まで奪われる。片手で。

 そのままずりずりと下着を下ろされていく。

 うぅ……どうして女の子(見た目)に押さえつけられて素っ裸にされないといけないんだ。


「……どうして臨戦態勢ではないのですか」

「はい……?」

「ここは、狂暴な股間のマグナムを見せつけて、『やはり武器を隠し持っていましたね!』となるところでしょう」

「何だその理不尽な言い掛かり! こんな状況でそんなことになるような特殊性癖はもってない!」

「ちっ……仕方ありません。マスターは私の敵ではないと認定しましょう」


 舌打ちしたよ、このロボ娘。何なの、そんなに主を敵にしたいの? 下剋上なの?


「……信用してくれて何よりだよ」

「いえ、ロボの私に、何かを信じるという概念はありませんけど」

「ここまでされてそんなオチっ!? なら、これまでのやり取りは何だったの!」


 と、そんな具合に僕の生活は楽になるどころか、むしろ心労が増える一方だった。

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