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はじめまして②

※やや性的な表現があります。ご注意ください

「秋巳様……」

「う、ぁ、な、何……?」

「はっ、ぁ……」


 僕の言葉に耐え切れない何かが含まれていたかのように身を震わせ、甘い吐息を漏らす。

 その姿に血を吹きそうになりながらも堪えていると、やがておもむろに。

 首筋に両手を絡めて抱きつかれた。


「わっ、あっ、ちょ待――むぐっ!?」

 次いで、そのまま唇を合わせられる。

「んぅ……」


 ふわりと柑橘系の香りが鼻に触れ、柔らかい唇の感触と、それ以上に柔らかい、胸板に潰されるように押し当てられた乳房の感触。

 それら全てが一まとめに脳髄を直撃して暴れ回る。

 それだけで僕の脳は処理能力の限界を迎えていたと言うのに、律儀に止めを挿し込まれた。


「ん……は、ぁ……む……」


 こちらの唇を割って這入ってきた舌が、僕のそれと触れ合う。

 その瞬間に、身体中の力が一気に抜けた。

 そのまま縺れ合って床に倒れ込むが、唇は離れない。


「んっ……ちゅ、ちゅ……ぁ、ふ……」


 味を確かめるように、舌が口の中を這い回る。

 ぴちゃぴちゃと、二人の唾液が絡まりあうくぐもった水音が頭に響く。

 ようやく唇が離れたときには、二人の間に唾液の橋が架かっていた。

 それがぷつりと切れて、唇に落ちてくる。


「ちょっ……姉、さん……っ」

 唇を離しリノがもぞもぞやっている間に、姉さんに助けを求める。


「ん……? あぁ、見られてると落ち着かないか?」

「いや、そういうのじゃなくて……! これは――ふむぐっ!?」

 口を開いたときに何かを捻じ込まれた。柑橘系の香りが鼻を突き抜ける。


「興味は尽きないが仕方がない……。終わった頃に戻ってくるから、ゆっくり楽しめな?」

「むぐぐぐーっ!」


 肩を押さえつけられているせいで腕で取ることも出来ず、唇と舌で押し出そうとしている間に、姉さんは僕のことなど気にせず(いやむしろ気にし過ぎて?)部屋を出て行ってしまう。

 扉がぱたりと閉まると同時、リノが身体を起こして僕の腰の上に跨るように座り直した。

 柔らかい感触が僕の絶妙な場所をふにふにと刺激してくる。

 実を言えばキスの段階で大変なことになっていたので、それを気付かれると思うと物凄く恥ずかしい。


 そんな僕を知ってか知らずか、リノは艶っぽい笑みを浮かべて僕を見下ろしている。

 さっきまでの無表情は何処へ行ったのか。この状況といい、分からないことだらけだ。


「秋巳様……私の、美味しいですか……?」

「むぐ……?」


 一瞬何を言われてるのか分からず首を傾げたが、すぐに僕の口に入っているもののことだと思い当たった。

 でもリノのってどういう意味だろ。

 リノが体勢を変えたことで自由になっていた手で、口の中のものを引っ張り出してみる。


 出てきたものは白と青の縞模様の小さな布だった。


 えーと……これは……、ぱんつ?


「……っ!?」


 何でぱんつが僕の手の中にあって、なおかつ何でそれが僕の口の中に詰め込まれてたんだっ!

「私のぱんつ、美味しかったですか……?」

「美味しいとかの問題じゃなくて! ぱんつに味の感想は求めないからね!?」

「さぁ、秋巳様……。準備も万端のようですし、早速“致し”ましょう」

「聞いて!? 僕の話聞いて!?」


 振っておいて、投げっぱなしで勝手に話を進めないで!

 そして、“致す”の言い方が艶めかしい!


「うふふ……心配しなくても大丈夫ですよ……? 私が全てリードして差し上げます。秋巳様は、天井のシミを数えているだけで終わりますから……」


 待って待って、それ女の子に言われたい台詞じゃないから!

 やーめーてーっ!


◇◆◇◆◇◆


 事が済んで、それから暫く。互いの荒い呼吸音だけが部屋に響いていた。


 ……やってしまった。いや、「やられてしまった」が正しいのだけど。

 男って脆い。


 ようやく呼吸も落ち着いた頃。

 僕の胸に顔を寄せていたリノが起き上がり、お腹を撫でながら微笑む。


「ん……ふふ……こんなにたくさん……、孕んでしまいそうです……」


 呟かれたその言葉に背筋が凍った。

 ……、妊娠? ま、待て待て待て……。そんなこと全く頭になかった。だってロボですよ? ロボが妊娠できるなんて、考え付くほうがおかしいよね?


「……? 可愛い赤ちゃんが出来るといいですね?」


 その一言共に、何処かで雷が鳴った気がした。ピシャーンっ! みたいな。

 もはや僕の口は、魚のように開いたり閉じたりしか出来なくなる。

 そんな僕にも構わず、リノは身体を起こして身支度を整え始めた。


 それを見ても固まった僕の思考は止まったまま。

 そうこうしている内、リノが僕の身支度まで完璧に整えてくれたのと、姉さんが扉を開けて入ってくるのは同時だった。


「楽しんだかー、秋巳……? 何だ、あまりの良さに放心状態か?」

「……姉さん。赤ちゃん、可愛い、リノ、欲しい」

「……言ってる意味がよく分からないが……。リノと子供が作りたいって言うなら、残念ながら無理だ。子宮は付いてないからな」


 ……え? 付いてない……?


「え、えぇ!? だって、さっきリノが妊娠しそうだって……!」

 慌ててリノを見るが、当の本人は涼しい顔で首を傾げた。


「……ほんのジョークです。ああいったタイミングでは、後戯としてピロートークを行うもの、とデータにありましたので」

「まあ、それは基本的に男がリードするものだがな」


 良かった……本当に良かった。危うく、人とロボのハイブリットな子供を持つ父親になるところだった。


「ふむ……だが、それも面白そうだな……。よし、近いうちに子宮も作ってみることにするか……。これは中々取り組み甲斐のある研究だ……」

「いやいやいや! いいです、いいですから!」

 これ以上妙な研究をしないでください!


「そんなことより、説明してください。どうしてあんなことを……」

「っと、ああ、そうだな。リノ、認証は無事終わったか? エネルギー変換プロセスは?」

「はい、元マスター。どちらも滞りなく」


 認証? エネルギー変換? 元?

 というか、さっきのリノとまるで口調が違う。どっちが本物なんだ。


「よーし、これで名実共にお前はリノのマスターだ」

「え?」

 さっきの、で……?


「認証には相手のDNAが必要でな。別にDNAが採れれば何でもよかったんだが、折角だからエネルギーも一緒に補給してみたんだよ」

「……僕もリノも別に何も食べてないですけど」

「いや、お前はちゃんと食べさせてやったさ」

「……?」


 意味が分からない。今したことと言えばアレなわけで。

「その通り。正解だ」

 いや、まだ何も言ってないです。


「何を隠そう、このリノには男の“アレ”をエネルギーに変換する、ロマン溢れる機能が付いているのだ」

 そんなえっへんと、胸を張られても……。


「だからこそ、私ではなくお前がマスターになってる方が都合がいいのだよ。食費も掛からなくなるしな」

「まあ、そういうことなら確かにそうですけど……って、え? ということは逆に考えると……」


「うむ、毎夜毎晩まぐわらないと普通に食費が掛かることになる……が、問題ないだろ。若いんだから」


「はぁーっ!? わ、若いから毎日って……!」

「そんな悲愴な顔をするな。リノは良かっただろう?」


 まあ、確かに……って、そういう問題じゃなくてっ!


「はっはっは、当然だな。そのためのプログラムまで組んだんだから」

「プログラムって……あのセンスないネーミングのアレですか……?」

「センスないとは何だ。分かりやすくていいだろう」


 いや逆に分かりにくいけど。現に僕には何が何だか分かってない。

「どうせ今すぐ押し倒せって言っても、ヘタレなお前のことだ。何やかんやと理由を付けてやらなかっただろう?」


 そんなことをいきなり言われて、はい分かりましたって押し倒したら犯罪です。


「と、それを見越して、リノの方から押し倒すようにしたわけだ」

「はぁ、まあ、つまるところ、姉さんの策略に引っ掛かったわけですね、僕は……」

「策略とは人聞きが悪いな。弟を気遣う姉心と呼べ」


 そんな姉心はいらないです。そんな状況でマスターだ何だと言われても……。

 何だか物凄く重要な選択を迫られている気がする。


「だが認証を受けた以上、何を言おうとこの娘のマスターは、秋巳。お前だけだ」


 姉さんが、じっと事の推移を見守っていたリノを僕の前に押し出してきた。

 リノの何の感情も写さない眼が僕を静かに見つめてくる。

 そのひやりとした瞳に吸い取られるように、熱くなっていた僕の頭が冷えていくのを感じた。


 考えてみればそんなに気負うこともないかもしない。だって相手は、ロボだし。

 食事も二人分作れば、多分、問題ない。

 そう、ちょっと不思議な同居人が出来るだけさ。


「……うん、これからよろしく、リノ」

 リノへ手を差し出す。

「……はい。不束者ですが、これからよろしくお願いします、マスター」

 ロボとは思えないほど柔らかな手が僕の手を握り返す。


 そうして僕は、世界に一人しかいないロボ娘の主人となったのだった。

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