死を見る医者と記憶が消えた彼女
東京からかなり離れた地域に一つの病院が建っている。
私はそこで働いてる。
総合医療施設病院というとこだ。
「あ、咲夜先生お疲れ様です」
「少し外の空気を吸ってくるよ」
咲夜とは私の名だ。
咲夜透。
「最近よく疲れるなぁ
少し仮眠をとりたい」
寝そうになりながら外を眺めていると院内から一人女性が出てきた。
綺麗な容姿でかなり若い。
女子高生くらいだろうか。
「えっと、君は確か入院してた患者さんだよね?
外に勝手に出ちゃだめだよ」
「誰ですか?」
「あ、えっとこの病院で働いてる咲夜だよ
確か君がここに来た時に会ったはずだよ」
「え?」
彼女は驚いたようだった。
なぜ数日前のことを覚えていないのだろう。
「君がここに来た理由は覚えてるかな?」
「私なんでここにいるの?」
彼女はいつ記憶が消えたのだろうか。
院内に戻り他の人に聞いてみたが誰も覚えていないらしい。
2
「咲夜先生その女の子言うのは…?」
「ああ、えっと...あれ?」
いない...。
さっきまでここにいたのに...。
彼女がいなくなってからまだ1分半あたりのはずだが。
「咲夜先生大丈夫ですか?」
「あ、いやごめん
なんでもないよ」
私は院内を探したがどこにも見つからない。
人間が僅か1分半で消えるだろうか。
屋上に行ってみたがいない。
下にも遺体はなく院内にはどこにもいなかった。
私は諦めて外に出る。
そこには彼女が立っていた。
もちろん外も探したはずだ。
「君はなんでいなかったの?
多分1分半しか経ってなかったと思うけど」
「...」
彼女は何も言わず私を見つめる。
「えっと...」
「私はなんでここにいるの?」
数時間前にも聞いた言葉だ。
「...」
私は答えられなかった。
なぜ彼女はこの病院にいるのか。
なぜ彼女は1分半で消えたのか。
3
とりあえず彼女のレントゲンを見たが特に異常はなかった。
ただ可能性があるのは健忘症または前向性健忘症だ。
気になるのがなぜ他の先生は誰も知らないのか。
彼女のカルテだけが見つからない。
「君は事故にあったことはない?」
「事故ですか?」
「うん
車に轢かれたとか」
「えっと...」
彼女は考え込んでいる。
「他の病院に行ったことは?」
「...多分ある」
「何か言われなかった?」
「季節症?とか言われた気がする」
季節症。
一定の季節しか生きれない余命が短くなる原因不明の病。
「えっともう一度聞くけど轢かれたことは?」
「1度だけ」
「どこか痛んだりは?」
「最近めまいがする...」
なるほど。
おそらく轢かれた時に脳を打ったのだろう。
「1度脳のレントゲンとってもいいかな?」
「うん...」
数分後。
「えっと脳に傷があるからおそらく前向性健忘症だよ」
「前向性健忘症?」
「前向性健忘は記憶障害で車に轢かれたりとかして脳に傷ができることで記憶を失い記憶がリセットされる病気だよ
例えば一週間や一ヶ月で記憶がリセットされていく」
「えっとそれじゃあ私は記憶がリセットされてたってことですか?」
「うん
恐らくね
多分君は自分から思い出したことにより症状が消えたんだと思う」
「季節症は?」
「多分治らないかな
今は春の中間だからあと2ヶ月半ってとこだよ...」
「そうですか...」
彼女は残り時間をどう生きるのか。
医者でも治せない病が存在する。
あと2ヶ月半君と過ごそう。
春は切ない命の終わりを感じる。
私はただ散っていく桜を眺めている。
(完)