三題囃(担当医、地下、花)
今回のお題は「担当医」「地下」「花」でした。
かかった時間:1時間24分
うーん、制限時間1時間は厳しいか?
もう少し様子を見ます。
「アスファルトに咲く花なんて言って、過酷な環境で花を咲かせることがすばらしいことであるかのように言うけれど、これっておかしいと思わない?」
彼女は言った。
ベッドに体を横たえながら。
「だって、花に過酷な環境を用意したのは誰なのよ? 人間でしょう? 過酷な環境に追い込んでおいてそこで育つ花を賞賛するのって、自分のしたことを棚に上げているじゃない。ブラック企業で何十時間も残業している人を賞賛しているようなものよ。だったら環境をどうにかしなさいよ。強くなくても生きられるようにしなさいよ」
そう思わない?
俺がうなずくと彼女はうっすらと笑った。
「君は私と違って歩けるのだから、アスファルトになんかいる必要はないのよ?」
それだけ言うと彼女は、少し疲れたからもう寝ると言って目を閉じた。それはもう帰ってという合図だった。実際に彼女の顔は疲れているように見えた。だが、その顔は見慣れたものだ。彼女はいつも疲れていた。
「また明日来るよ」俺はつぶやくように言った。彼女からの返事はない。
ベッドで眠る彼女を残して俺は病室を後にした。
出る直前に「もう来ないで」と聞こえた気がした。
改札を通り抜け、階段を下り、俺は地下鉄に乗り込んだ。
地下の世界を走る電車の窓から外を眺めても何も見えない。真っ暗な闇と電灯の明かりがあるだけだ。車窓に映る自分の顔をぼんやりと眺めながら、家からの最寄り駅に着くのを待った。
医者はあてにならない、なんて言ったら怒られるだろうか。医者は神様じゃない。医学が進歩したからって未知なるものが完全に消えるわけじゃない。世界は以前としてわからないことだらけで、人は以前として病気になり続け、死に続けている。
担当医によれば、彼女は原因不明の病だという。
生まれてからかれこれ17年、彼女は入退院を繰り返している。なんとか治す方法はないかと両親はいろんな病院に彼女を連れて行ったらしいがいつまで経っても原因はわからず、結局諦める形でいまの病院にたどり着いた。いまの担当医になってから数年が過ぎたが、その医者も病状を安定させるので精一杯だという。
もう何度目になるのだろう。
彼女が入院をするのは。
最寄り駅に着き扉が開いた。地下鉄を下り改札を抜けて地上へと出る。外はまだ明るく、眩しいくらいだった。
家に帰ると小さな妹が台所の蛇口をひねって何かに水をそそいでいた。
「あっ、おかえり」妹が無邪気に言う。
「ただいま。何をしているの?」
「へへん。見て見て。きれいな花があってね、持って帰って来たの。テーブルに飾るんだあ」
そう言って妹は小さな花瓶に挿した花を誇らしげに俺に見せた。
確かに、きれいな花だった。