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三題囃  作者: 晴間あお
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三題囃(除草、貨幣、戦争)

今回のお題は「除草」「貨幣」「戦争」でした。

……いきなり難しくない?

裏話をすると時間を大幅にオーバーしてしまいました。

初めての試みなので大目に、ということで少しずつ制限時間内に書けるようにします。

「起きろ小僧」

 肩を揺さぶられてぼくは目を覚ました。

「もう朝ですか?」

「ああ。仕事の時間だ。さっさと準備しろ」

 ぼくを起こした男はそう言うと、さっさと部屋から出ていってしまった。隣の部屋にいる人たちを起こしにいったのだろう。

 ぼくは体を起こした。それだけで体中がぎしぎしと音をたてるようだった。全身が痛い。とうぜんだ。昨日あれだけ動き回ったのだから。周囲を見ると同い年の若者数人が同じようにのろのろと体を起こしていた。中にはまぶたがまだ上がらない人もいる。そのまま横になってしまいそうに傾いたがなんとか持ち直して無理矢理立ち上がった。ぼくも気合いで立ち上がる。わかってはいたが足の筋肉も悲鳴を上げた。

「おはよう」ぼくは周囲の人に挨拶をした。

「おはよう」

「よく眠れた?」

「眠れたけど寝たりない」

「だよな」

「これでまだ二日目だとは」

「1週間経つころにはムキムキになっているか、死んで植物の肥やしになっているかって感じだ」

「笑えない冗談だ。せめて農作物の肥やしになりたいね」

 同じ部屋になった同い年の連中と会話をしながら準備をする。服を着て、顔を洗い、みんなが入れる大きな部屋に行く。そこで食事が支給される。パンと、それにやはり野菜が多い。植物には困らないからな。

 食事が終わり後片付けを済ませたころ、リーダーである壮年の男(ぼくたちを起こした男だ)がみなに声をかける。

「それじゃあ行こうか」

 ぼくたちは部屋を出ると、斧を持って外へと歩き出した。

 昨日の続きだ。

 目的の場所、村の端にある森の前へとたどり着くと、ぼくたちはさっそく作業に取りかかった。

 斧を振り下ろし森の木々を切り崩していく。少しずつ少しずつ。

 土地を浸食していく森から村を守るために。

 森。

 その言葉の意味は、200年ほど前に変わってしまったらしい。

 言い伝えによれば、その昔、森の中は歩くことができたとか。その中を歩くと癒されるとかで、森林浴なんていう言葉もあったらしい。いまではそれがどういう事なのか、どんな気分なのか、想像もできない。

 いま、森の中はとうてい歩くことができない。

 森とはすなわち壁だからだ。歩くほどの隙間など存在しない。

 200年ほど前、突如として植物が急成長するようになった。その勢いは止まる事を知らず、あらゆる土地を木々で覆い尽くしていった。多くの街は植物に浸食されて消えたか、植物の作った森の壁によって流通経路を失い、自給自足の知恵がない街は食糧難によって滅びたという話しだ。

 その異変以来、国どころか街や村のレベルで人類は分断された。グローバル経済は消滅、それまでの貨幣は意味を失い、各地で新たな秩序が生まれた。人類はそれぞれの場所で自給自足をして生き延びているという。植物による侵略を食い止めながら。

 というわけでぼくたちの仕事というのは、村へ侵略してくる植物を切り倒す事だった。

 ぼくたちの村では18歳になったら2年間、ひたすら木を切り倒し続ける仕事をする事になっている。

 いったい誰が名付けたのか、その集団は除草部隊などと呼ばれている。部隊って戦争なんかする集団の事だろう、と思うのだが、それを質問した時の長老の答えがこれだ。

「これは植物との戦争だ。あながち間違いでもないだろう。それに聞いているだろう? 森には食人植物が出る」

「それは単に森は危ないから近づくなという脅しでしょう?」ぼくは質問を重ねた。「子どもなら入れる隙間がときどきあるからって」

「それもある。が、食人植物が出るのは事実だ。約150年前に一度、出現しただけだがな」

 その時は、当の食人植物によって除草部隊の約半数が亡くなったという。

 150年前に、一度だけ。

 姿形もおぼろげにしか伝わっていない。

 事実かどうかもよくわからない。

 だが、人類はさまざまな技術を持っていたというのに、世界の森化は止められず、文明は衰退したという。その原因は単に植物の急成長だけだったのか。それとも……。

 ぼくは斧を振り下ろした。毎日数センチずつ村に迫ってくる森の壁を、毎日数センチずつ切り崩さなければ、村はいずれ森につぶされる。今日で二日目。あと1年と364日。ぼくたちは毎日森の壁に向かって斧を振り下ろし続けなければならない。

「まったく、嫌になるな」

 数メートル先で同じように斧を振り下ろしていた仲間が言った。昔からの馴染みの友達だ。

「おいおい、まだ二日目だぞ」作業をしながらぼくは答える。

「安心しろ、初日も同じ事を言った」

「何がどう安心なんだ」

「変わらない安心感」

「お前がこのまま大人になったらと思うとぼくは心配だよ」

「しかし実際嫌にならねえか? これから毎日、斧を上げて、下ろして。下ろして上げて。上げて下ろして下ろして上げて。その繰り返しだぜ?」

「まあなあ。筋肉は鍛えられそうだけど」

「筋肉への刺激だけじゃ脳みそがしぼんじまうよ。おれの知力が刺激を求めている」

「知力があるのならこの作業の中から刺激を見つけ出せよ」

 おれはため息をついた。

 と同時に叫び声が聞こえた。

「なんだ?」

 友達も同時に気がついて同じ方向に振り向くと、そこには刺激的な光景が広がっていた。

「お前の知力の出番みたいだぞ」呆然としたまま、ぼくはつぶやいた。

「いや、ここは筋力の出番だろ」友達も突っ立ったまま答える。

 一本の木が歩き回り、人々を襲っていた。

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