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最弱の放浪者  作者: かきす
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第三話 「妹”は”最強」

 朝の食堂で学友たちと顔を合わせながらの食事。そこで朝からいきなり龍臥は仲の良い女子二人に問い詰められている。

 交友関係の狭い龍臥と仲の良い女子は篠崎とゆりに限られる。さて、何を問い詰められているのか?

「ほら、キリキリと吐きなさい。でないと、今日のあんたの朝食を隣の野獣に与えるわよ」

 篠崎はそう言いながら、龍臥の食器類を自分側に引き寄せる。ついでに、席の配置は龍臥の正面にゆり、右隣に昌太、右斜め前に篠崎が座っている。

 野次馬根性で事情を聴きだそうとしている篠崎に対し、ゆりは龍臥を心配しての事情聴取をしているようだ。


「だから、ベッドから落ちただけだっての。何度言わせるんだよ」


 龍臥は何度言っても納得してくれない友人(+義妹)に辟易とした。


「ベッドから落ちただけでそこまで真っ赤に腫れ上がるはずがないでしょうが」


 篠崎の言うとおり、龍臥の頬の腫れ方はそこそこ酷い。ベッドから落ちた程度でなるような怪我ではない。あり得るとしたらベッドの下に相当固いものが落ちでもしていなければならないだろう。


「誰かに殴られたみたいな……」


 ピクッ……。


「今、反応したわね?」


「な、何のことやら?」


 ゆりが言ったことはほぼほぼ間違いではない。間違いがあるとすれば、殴られた対象である。


(自分で殴った結果思いのほか腫れたとか言ったら何を言われるんだろうか。怖くて言えねぇ……!)


 ゆりの殴られた発言につい反応してしまった自分の体を恨みつつ、龍臥はどもりながら返す。


「た、たまたまベッドの下に靴があって、その上にダイブしただけだい!」


「キャラ変わってるわよ?」


「わかりやすい奴だな~。というか、隠す気がないんじゃないか?」


 いい具合に昌太が見当違いなことを言ってくれたので、話が逸れそうに……!


「……わざとそういう風にしてたり?」


 ちっくしょーっ!! ゆりちゃん鋭すぎだろ!?


 別に狙っていたわけではないが、希望的観測を叩き潰される龍臥。

 叫びそうになるのを堪えため息を吐く。今日はいつもに増してしつこい事情聴取にどうしてなのだろう、と理由を考える。


「大体あんたは”あっち”の世界でも、どう見たって喧嘩で負ったけがを誤魔化そうとすることが多いんだから。今更、逃げられると思わないでね」


「だよなぁ。しかも、受けるなら制服で隠せる範囲に受けようとするから、ここまで露骨に腫れてるとこを見ると、すごい気になるよな」


「だから、喧嘩をして殴られたわけじゃないって」


 自分で傷つけた頬の引き攣る痛みに耐えながら、苦笑を浮かべる。


「でも、龍臥さんは、その、……色んな人から恨まれてますから」


「否定はしない。否定はしない、けど、妹に言われると結構心にぐっさり来る物があるぜ……」


 おかしい、別に胸を殴った覚えはないのに妙に痛い。チクチク刺さる痛みが……。これが、恋?


「今、相当バカなこと考えたでしょ」


「さぁて、なんのことやら」


 半眼で睨まれたが、さっと顔を背ける。


「……お前ら、朝からテンションが高いな」


 と、顔を背けた先には、呆れた眼差しでこちらを見下ろす竜二の姿があった。

 片手にはすでに食べ終えられた食器を載せたトレーを持っており、もう片方の手には普段学校で使っている体操服入れを持っている。何が詰まっているのか、容量限界まで詰め込まれた袋は大きく膨れ上がっている。


「……どこに出かけるつもりだ?」


「どうだろうな……。あてもなくぶらつくか、面白そうな所に足を運ぶか。どちらにせよ、お前はやることをしてろよ」


「へいへい、……ヘマすんなよ」


「言われなくても」


 肩をくすめて、背を向けて歩き去っていく竜二を見送り、顔を正面に戻して、気づいた。

 三人が呆気にとられたような表情をしていることに。


(しまった……!)


 周りを考えずに竜二と会話をすると、他の人間を置き去りにして話が進んでしまうことが多々ある。いつもなら、無理に聞き出そうとせず見なかったことにしてくれるが、今のこの状況ではまずい。

 元々頬の腫れを問いただしていた状況で、更に疑問が増えるとなれば逃げづらくなる。

 竜二は頬の腫れに気づいてはいたが、どうでもよかったので一切触れなかった。逆にそれが何かわけを知っているのではないかという想像を三人に抱かせる結果となった。


「……さぁて、キリキリ吐いてもらうわよ」


「………………知ってるか? 人って無限ループで心を壊す可能性があるんだぜ?」


「知らんがな」


 容赦のない言葉に、龍臥はがっくりと首を項垂れ、ついに陥落してしまった。





「初日である本日はまず、皆様に魔力を感じ取り、大まかにでもいいので制御する感覚を養ってもらおうと思います」


  三人からの追及に耐え切れずゲロッた龍臥はどこか遠い目をしながら神官の話に耳を傾けていた。


「例えば、火属性の方は手のひらの上で火を起こすなど、簡単なことでよろしくお願いします。皆様はこの世界の常識から大きく外れた方達ですので、あまり本気を出されてはこちらが困ってしまいますから」


 一応、先手でバカなことをしないよういい含めるが、どうせこういった場で悪ふざけをしない学生が存在しないなどあり得ない。神官達はそこら辺をきちんと理解しているようで、いつでも暴走を止められるよう騎士達と顔を見合わせてうなずき合う。

 大体五人一グループに分かれ、一グループに二人の指導官役が付き従い、質問に答える形となっている。

 龍臥達の班のメンバーは当然、龍臥、ゆり、篠崎、昌太の四人。どこの班も仲良しグループで集まっているので、正確に五人グループに分かれる班のほうが珍しいぐらいだ。

 ゆりと篠崎はお世辞抜きで美少女に含まれるため、いいところを見せようと躍起になる男たちが群がるかと思われたが、篠崎がそれを見越して(自分も狙われていた自覚はない)まだ組もうとすら動いていなかった龍臥と昌太が班のメンバーを探そうと動く前に確保し、早々にグループを作って逃げた。

 その結果、何も悪くない龍臥と昌太が他の野郎どもの嫉妬の視線を一身に受けることとなったが、向こうの世界でも日常茶飯事であったし、この二人と行動すればそういう視線が付きまとうのも理解、というか諦めて受け入れている。正直今更気にならない。

 それよりも、龍臥が気になるのは個人的に恨みを持っているだろう不良グループがすぐ近くにいることだ。

 個人的な恨みの内容は龍臥が能動的に生み出したものではなく、勝手に嫉妬して生まれたものだ。ただ、器の小さいそいつらは、自分達がケンカでは龍臥に勝てないことは理解しているので、基本的にちょっかいは出してこなかった。なので、今まで大して気にも留めなかったが……。


(なんか妙に鋭い視線を感じるなぁ……気のせいであってくれ)


 龍臥はそう思いながら視線を感じる方を向いてみる。


 ギラッ!


 ばっちり目が合い、容赦のない視線をぶつけられる。もしかしたら、殺気すら含まれいてるのではないかと勘違いしてしまう。

 実際、殺気を感じたのは勘違いでもなんでもなく、本気で恨みつらみを視線に余すことなく載せている。不良たちは突然飛ばされたこの世界に大して不満が溜り、ストレスも溜まり、その解消方法もなく、その全てを向けられているが故に、かなり鋭さを増しているのだ。


「あいつら……、普段は目を合わせただけでさっと視線を避ける癖に……。普通に不気味だな」


「んぁ? 何か言ったか?」


「うんや、何も」


 誰かに聞かせるつもりはなかったが、龍臥の小さな呟きが微かに昌太に届いてしまったらしい。


「何? 昌太はもう幻聴が聞こえる歳なの?」


「それ、年取ったら聞こえるものでもないだろ」


「あんたなら数十本も頭のねじが外れてそうだから、他の人より老いた時にすごいことになるわよ、絶対」


「何だと!? せめて外れてるねじは数本にしろ!」


「キレるとこそこかよ!?」


 傍観者でいるつもりだった龍臥だったが、頭のねじが数十本か数本抜けている昌太の発言に思わずツッコミを入れる。


「……」


 それを少し離れたところから、困ったような、安心しているような、微妙な表情で眺めるゆり。その表情が晴れないのは、龍臥の呟きをただ一人完全に聞き取れてしまったがためだろう。

 龍臥が、不良グループから厄介者扱いされているのは、義妹の目から見てもわかりきっていた。それでも、ゆりは何も言わずにこうして、静かに複雑な表情で苦笑するぐらいしかしない。


「えっと、そろそろ練習に入りませんか?」


 放っておいたらいつまでも続きそうな友人漫才に、少し疎外感を抱き始めさびしくなってきたゆりは三人に声をかける。


「そうだな。昌太の頭のねじの話をしている場合じゃなかったんだ」


「俺のせいみたいに言うんじゃねえよ龍臥」


「八割近くあんたのせいでしょうが」


 いまだ険悪な雰囲気を漂わす昌太と篠崎を放置し、龍臥はじっと自分の手を眺める。

 本当に自分は魔法を使えるのか。それはいったいどんな力なのか。危険なことばかりではないだろうか。

 そんなことばかりが頭を過ぎるが、怖がり続けているわけにはいかない。これからはこの力で、この世界から自分と友人と、そして血の繋がりのない妹を守らなければいけない。

 半ば責任感じみたものを背負い直し、頭を振る。

 落ち込みそうになる気持ちを入れ替えて、魔法を使う練習に集中する。


「魔力を感じるのは簡単ではありません。その感じ方に大きな個人差があるためです」


 顔をあげ、全員に向けて説明している神官の言葉に耳を傾ける。この場にいる学生の何割が同じことをしているだろうか? おそらく、半数も占めていないだろう。誰もが遊び感覚でグループの仲間とお喋りをしながら、思い思いの方法で試している。


「共通している点もあれば、まったく感じ方が違うという方もいらっしゃるかもしれません。ですが、何度かやっていけばコツがつかめるはずです」


 そんな学生達を一切気にも留めずに説明をし続ける神官は面の皮が厚いというべきなのだろうか。別に自分に酔いしれているわけでもなさそうなので、こういう仕事だと割り切っているのかもしれない。

 こういうところを見習ってはくれないだろうかと、物語の登場人物たちのしていた魔法を再現しようとする富校生を見る龍臥。


「参考程度までに私の感覚でお話しさせていただきます。まず、自分の体に流れる血のめぐりを意識します。同時に、それと似たようなものが流れている感覚を。ここまでは少し意識すればできるので、問題ないと思います」


 言われた通り、メンバー四人そろって黙想し、魔力の流れを意識してみる。そうすると、ぼんやりとだが変な感覚を覚えた……様な気がする。


「……なんだろう、変な気分」


 ゆりは長く垂らした前髪に隠れて少しだけ目を開く。別に悪いことではないのだろうが、少し罪悪感のようなものを感じていた。なんとなく神社などでお参りをした時、自分だけ早く拝み終わってしまい、自分一人だけ顔を上げている時のような気まずさに似ている。……まぁ、果たしてそれが本当に罪悪感に似ているのかは知らないが。

 ゆりがいった変な気分というのは目を開いたことではなく、魔力の流れを意識して気づいた感覚について、だ。

 以前まで、元の世界では気づきもしなかった自分のうちに眠っていた力の大きさに、戸惑いを覚えた。

 曖昧な感覚? ううん、そんなものじゃない。確実に、私の中で眠っている力がある。それが感じられる。

 それは自分の意志でどうにかなるものであって、意志も何もない純粋に力であって、私は……それを持っていて……。


「振り回されていいように使われないようにしないと、まずいよね……」


 龍臥が昔から警戒心が強かった影響なのか、ゆりは自分の存在の大きさと危うさを正確に、とまで言わなくとも、かなり危険な存在になりかねないということを理解できている。

 具体的な振り回されない方法は思いついていないが、それでも何もしらないでいるよりは良いはずだ。

 そう再認識し、強く目を瞑り直す。


「……何かしら、この変な気分は」


 篠崎は自らのうちで存在を主張する力が、全身くまなく流れている感覚に、思わず首をひねりそうになる。

 昔、長続きはしなかったものの少しだけ空手を習っていた時期があった。そのとき、精神集中と称して黙想を行っていたが、その時にはまったく感じられなかった”異物”が流れている感覚があった。

 基準がわからない篠崎は、それほどまでに大きな力だとは思わなかった。理由は、自分の体から少し溢れ出している程度の量しか流れていないと感じたからだ。

 それでも、神官の話を信じるなら相当に強い力を持っていることになる。


「……油断しない。そう、私は絶対に油断しない……」


 誰に聞かせるでもない呟きは、己の勇気を奮い立たせるようにも、自己暗示をかけているようにも受け取れる。

 どちらにせよ、急に授けられた力の上に胡坐をかかないことだけを確認したのは変わりない。

 篠崎はそれ以上口を開かず、ただ静かに己の力の脈動を意識する。


「変な気分、がしなくもないな」


 昌太は腕を組んで仁王立ちをしている。昔から、考え事をするときはこういう姿勢をとっている。別段、威圧的な態度を見せいたいわけではない。父親もそうらしいので、遺伝的なものを昌太自身もそこはかとなく感じている。

 昌太の流れはゆりや篠崎のように早くない。もちろん、通常の一般人よりオーバーな量である。

 魔力の流れが遅いと感じるのは、昌太があまり魔力を扱うのにむいていないという証なのだが、そのことを知るのはもう少し後のことである。


「……ま、俺がやることはかわんねぇな」


 ふんー! と荒い鼻息をした後は、思考はすでに魔法で何ができるだろうかと、胸を躍らせていた。

 その心に曇りはなく、子供のような純真さで力を受け入れる才能があった。


「……確実に、おかしい」


 さて、我らが主人公、龍臥は前三人とは違い、初めから違和感に気づいた。

 一番力があるとされいているゆり以上に確信めいたその呟きを吐く龍臥の額には汗がにじんでいた。

 それは、どんな感情故なのだろうか。

 それは……、


「何一つ感じない……!」


 それは紛れもない焦躁感だった。


(あ、あれ~……? おかしいな、三人は何かぶつぶつ呟いているっぽいけど、どれも確かに何か感じたみたいな呟きなんだよなぁ……。え、もしかして俺だけ?)


 もう一度、きつく、ゆり以上にきつく目をつぶり、魔力の流れを意識しようと集中する。

 しかし、結果は変わらない。ドクンドクンと脈動するのは、生命維持機関から真紅の液体が送り出されるものであって、けっして若い少年少女が望むような夢の力のものではない。

 頬の引きつりを自覚しながら、龍臥はゆっくりと目を開いていく。

 ほかの三人はまだ集中しているようで、声をかけられるような雰囲気ではない。

 さらに周りのグループをみやれば、幸い(?)なことに似たように首を傾げている生徒もいる。


「何事にも向き、不向きというものがあります。なかなか最初の一歩を踏み出せずにいらっしゃる方もあせらずに、ゆっくりと、呼吸を意識しながら集中してみてください。みなさんほどの力の持ち主なら何も感じないなど、あり得ません。みなさんはもともと魔力のない世界からきたのですから、余計に違いとなって意識しやすいはずです。とにかくあせらずに集中してみてください」


 その言葉を聞いて、手を組んで祈りながら意識を集中する。もはや、神に祈る体制で何かを感じ取ろうとしている姿など、神のお告げを望んでいるようにしか見えない。

 むろん、龍臥は本気である。大真面目である。どのくらい本気かと言えば、自分の感覚に寄るものであるにもかかわらず、結局心の中で神に祈るぐらい本気である。もはや、自分の力など一切信じていない龍臥。情けない兄の姿がそこにあった。

 そんなことを十分近く続け、ようやくうっすらと事態を察知し始める。

 それはまさかという事態で、絶対にあってほしくない事態で……。


(もしかして俺って、魔力が…………………………………………ない?)


 冗談抜きで何も感じないのだ。神官の言葉に嘘がないのであれば、まったく感じないというのは、相当やばい状態なのではないだろうか?

 これから実技の時間になったらどうなるのだ?

 というか、俺は明日から生かせてもらえるのだろうか?

 いろんな恐怖がぐるぐると頭の中を回る龍臥とは対称に、他の三人は目の色を変えていたり、決意を新たにしていたり、妙にすっきりした顔をしていたりと、不安さなど一ミリも感じない。

 ……現実を直視したくない。こういうときに夢の力はあるのではないだろうか? 現実から抜け出すために必要な力が夢の力なのではないだろうか? それなのにそのためには夢の力が必要とかいったいどういうことなのだろうか?

 とか、色々哲学ともいえないような思考が龍臥の頭を溢れ出し始めた時、後ろからの視線に気づく。

 すぐには振り向かず、ばっと相手の不意をつくように勢いよく振り返る。


 ババッ!


「…………気のせい、か?」


 龍臥が感じた視線の種類は今まで何度も感じてきたものと同じモノだった。

 富高に入ってから幾度となく感じた視線を間違えるはずがない。確かに感じた。

 それなのに、後ろを振り向いても誰もいない。正確には後ろに不良グループがいるが、誰一人としてこちらを向いていない。グループ全員が楽しそうに魔力の感覚を確かめている。


「う~ん……。ま、いっか」


「何がだ?」


「いや、なんでもない。そうそう、俺はどうやら才能がないのか、全然感じられないわ。どれだけ集中しても血が流れてる感覚しかしてこねぇ」


「なんだよ、その冗談? 面白くないぞ」


「いや、冗談じゃねえよ。本当に何も感じないんだよ」


 ヒラヒラと両の手のひらを振るが、昌太は信じない。


「すいませ~ん、こいつ何も感じないとかほざきやがるんですけど」


 昌太は面白半分で監督役の神官を呼び、神官がニコニコと人のいい笑顔で寄ってくる。


「はいはい。魔法には向き不向きがありますから、気にしなくても大丈夫ですよ。まずは自分にちゃんと魔力があることを確認しましょうか」


 そう言って、龍臥に例の水晶玉を手渡す。

 龍臥がぐっと力を込めて握りしめる。

 そうすれば、光り輝く水晶玉が、水晶、玉が……電池切れ近い懐中電灯みたいな光を発している。


「えっ?」


「お、おいおい、隠さなくてもいいだろ龍臥」


「い、いえ、魔力量を隠すことなどできるはずがないので……、これが龍臥さんの魔力量となります」


 ピシッ!


 ……その音は、龍臥が握っている水晶玉から発した音か龍臥の心にひびが入った音か。正解は地面に崩れ落ちる龍臥の姿を見れば一目瞭然だろう。


「お、俺が……何をしたっていうんだ……!!」


「龍臥……」


「龍臥さん……」


「あんたら何やってるの? 主人公ごっこ?」


 篠崎のツッコミ。龍臥に二百のダメージ。龍臥は精神力が尽きた。


「がふっ」


「龍臥ーー!?」


「龍臥さーーーん!?」


「いや、神官さんまで流れに乗って本当に何やってるのよ……」


「どうかしたの、璃々ちゃん?」


 龍臥が精神ダメージから回復したのは、例の男神官セナドリアが話を聞きつけて来てからだった。




「まったく、君は無茶をする」


「すんません……」


 セナドリアが二人で話をしたいということだったので、いつものメンバーと別れ自室に迎え入れた。そして、原因について色々と話し合っていると、この世界にくるときの経緯が問題だったことが判明したと共にそう言われ、龍臥はがっくりと肩を落とす。


「君の世界では魔法がないんだろう? しかも、理論的に証明できないことは超常現象とか言ってなかなか目にしないんだろう? それなのに目の前の歪みに自ら巻き込まれるなんて……」


「いやぁ、ゆりちゃんが危ないって思ったら体が勝手に動いて」


「君という人間の評価を変えるべきか……」


 セナドリアが目頭を揉みこみながらそんなことを呟く。声色には疲労感が拭えないのは、彼が中間管理職の人間として苦労しているということだろう。


「俺の倍ぐらいは年取ってるくせに、人を見る目がないんすね」


 だが、龍臥はそんなことは一切気にせず、むしろ先程心を抉られたお返しをする。


「君のように無鉄砲な人間は初めてでね。私の友人各署はとっっっても知性的な人間しかいないもので」


「ああ、俺もとっっっっっっっても知性的な友人がいますわ。竜二っていう友人が」


「彼を知性的というのは少し邪悪すぎる気がするんだが、その辺り君はどう思っている?」


「あいつは将来詐欺師で大成すると、友人である俺が保証しましょう」


 どういうわけか、気が付いたら竜二の話に移っていた。不思議なもので、今までも竜二の話になると気が合わない人間と出会うことがない。


「さて、話を戻すとして。……これからどうしましょうか」


「……やっぱりトカゲのしっぽはいらないと?」


 トカゲとはゆりのことであり、それに付随していたのが龍臥。

 元々、この世界に呼ばれた要因は、才能を持つ人間を呼ぶことが目的だった。条件の網をかけ、そこに引っかかる一等級の魚を引き揚げたはずが、そこに余分な魚が紛れ込んでいた。

 海に戻すか、それともその場で”食べる”か。

 自分に魔力がないという時点で龍臥は一つの覚悟を決めていた。どうなろうと、その結果を受け入れようと。

 だが、龍臥が思っていたような返答ではなかった。


「いえ、君が考えているようなことをするつもりはありません。私が悩んでいるのは、君のことをどうやって隠そうかと考えているんです」


「……はい?」


 龍臥は数秒、言葉の意味が呑み込めず呆けた声を漏らした。

 何故そんなことをするのか龍臥には理解ができなかったのだ。

 すでに部屋はあり、用意するのは生活費程度とはいえ、国の税金からきたものだろう。それを自分のようなごく潰しに無駄遣いする必要が、龍臥には理解できなかった。


「色々こちらにも都合があるのです。それとも君は無一文で外に放り出されたいですか?」


「いや、そういうわけじゃないですけど……」


 龍臥は考えていた。自分を消さない理由を。そこで思い当たったのは自分達に対する対応の丁寧さだった。


「もし、俺を無一文で外に放り出したりして、他の皆が国に不信感を抱かないようにってことか……」


 考えられる理由はそのぐらいしかない。もう一つの可能性は……、


「ええ。そういうことです。無鉄砲さと頭の回転の速さは違うということですか」


「無鉄砲なつもりはないんだけどなぁ……」


 これまでの人生を思い返しても、あの時以上に無茶をしたことはなかった気がする。

 龍臥は自分のことを、頭のまわる臆病者程度にしか考えていない。だから、今回のような無茶をそうそうするとは自分でも思えない。というか、できるならしたくない。


「そうですね……、これからできるだけいつものメンバーで行動するようにしてください。君たちはあまり他と交流を取ろうとしていないみたいですから」


「了解です。じゃあ、そのメンバーには事情を話しても構わないってことですね」


「ええ。むしろ、あらかじめ言っておいて協力してもらったほうがいいでしょう」


 さらに、これからはできるだけ龍臥達は他の人間達とは離れたところで練習などをすることを決めた。ちょうどいいことに、ゆりを名目にして誤魔化すことは簡単だろうという話に落ち着いた。


「それにしても……あそこまで魔力量が少ないというのも珍しいですね」


「そんなに少ないんですか?」


 話もつき、一息つくための茶を龍臥が用意していると、後ろから思い出したようにセナドリアが呟いた。


「ええ。一般人であってももう少し多いでしょう」


「……なんか、嫌な予感がしてきたっていうか、もっとやばいコトが判明しそうな気がしてきたんだけど……」


 龍臥はひどく不安そうな表情でセナドリアに振り返る。と、セナドリアも、


「奇遇ですね。私もそんな気がしてきました」


 何か同じ嫌な予感を抱いたらしい。


「これを持ってみてくれませんか?」


「はぁ……。見た目は魔力量を測る水晶玉と変わりませんけど……」


「…………………まさか」


 聞いても答えないどころか、何も起きない水晶玉をみて大きく見開くセナドリアを見て今すぐ夢の世界に落ちたくなる龍臥。


「まさか、属性まで無属性とは……」


「相当やばい属性なんですか?」


「そうですね……。属性に関する話は近日中に皆さんにお教えしようと思うので、詳しい話はその時に回すとして大雑把に言うと、魔法が使えず、他の属性全てに弱く、他の属性に影響を最も与えにくく、最弱と呼ばれている属性です」


「……」


 その説明を聞いて龍臥は天を仰いだ。そして思った。

 神はなんと無慈悲なことか、と。


「……マジ?」


「大マジです」


 否定してほしかった。それはもう三十歳までDTでも魔法使いになれないという事実と同じぐらいに否定してほしかった。


「じゃ、じゃあ、妹のゆりちゃんは性能的に最強で、これから伸び白次第では史上最強レベルになる可能性が高くて……。兄の俺は実質最弱で、伸び白なんて一切なく史上最弱レベルになりえると?」


「……」


 そんなことはありませんよ。

 その一言が龍臥の頭に何度も反響する。幾度となく反響するその声は、あくまでも脳内再生であり、


「そう、なりますね……」


 現実ではなかった。


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