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最弱の放浪者  作者: かきす
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プロローグ


※この作品はフィクションです※

       (当然の事実)

 我が家には今現在俺と義妹の二人だけで生活している。

 最初、俺の両親が事故で亡くなったのが六歳の時。両親の親友夫婦に引き取られて十年。つい昨年に二人とも病気で亡くなってしまった。

 それから一年。俺と義妹は二人で静かに生活している。

 田舎で一軒家だったこともあり、若い男女ではあるものの、お互いのプライバシーを侵害するようなことは少ない。家はそこそこ広いし、近所の人たちも憐みだけで俺ら兄妹に接してこない。俺に関しては、「今度は家の子になるかい?」という冗談(だと思う)を言われるほどだ。

 そう考えると、悪いことは何もないように思える生活。だが、俺はそうは思えなかった。

 自慢にもならないことだが、俺は今まで彼女がいない。年齢=彼女いない歴伝説は今もなお更新中である。そんな中、女子である妹にどう接すればいいのかわからないのだ。

 両親同士が親友であったが、俺たちは別段一緒に遊んでいたわけではないので、幼馴染といっていいのかわからないほどだ。

 だから、ラノベのように小さい頃からの知り合いとういこともなく、しかも俺は引き取られてから四年間は引きこもっていたせいで、さらに関わりあっていないのだ。俺にどうしろと?

 いや、もちろんわかっている。俺が悪かったのだ。あんな風に塞ぎ込んでいたから兄貴面もできないし、接しにくくなるのだ。

 彼女がどう思っているかわからにが、俺自身はあの子が嫌いというわけではない。もし帰りが遅いのであればそこそこに心配をするし、家族として見れないわけではないのだが……。


「はぁ~……」


「朝から盛大なため息だな、龍臥」


「あぁ、昌太か……。いや、いつものことだよ」


「いつもの? ……あぁ、あの子のことか」


 そう答えながら俺の前に荷物を置いた昌太――山寺昌太、俺の数少ない親友――は教室の入り口を見やる。正確には入り口近くの席に座っている女子生徒だ。

 小柄な体格で、腰上まである艶やかな黒髪の持ち主だ。顔は、目の下まである前髪に隠れていて見えない。校則的に大丈夫なのか心配になる。


「お前、まだ言えていないのか? 俺に宣言してから何日経ってるよ」


 はぁ、とあからさまにため息をつかれるとさすがにムカッとくるものがあったので、言い訳を口にする。


「仕方ないだろ? 基本的に家では部屋の中に引きこもっていることが多いんだから」


「だからって、飯の時ぐらいは部屋を出てくるんだろう? その時に聞けばいいのに」


「それも無理」


 親友の案を即却下する。


「何で?」


「宣言してから今日もだけど、篠崎が居座ってるんだよ」


「あぁ……、あいつ、またなのか」


 二人してもう一度入り口近くの席を見ると、席の主に楽しそうに話しかけている女子生徒が一人。

 篠崎璃々果。妹の親友で、あいつもちょっと面倒な家庭の事情を持っており、よく家に家出をしてくる。学校側も家に泊まりに来ていることを知っている。両親が健在だった時からよく泊まりに来ていた。


「なんとなくあいつの前で切り出しにくいんだよ。すごい馬鹿にされそうで」


「『あんた一々聞かないと行動できないの?』とかな」


「もっとひどいことを言われそうだがな」


 篠崎は今週中は我が家にいるつもりらしいが、期限は明後日だ。準備もあるので、できれば今日の内に聞いておきたい。

 またため息を吐きながら見ていると、チラリとこちらに妹が、少しだけ首を向けた、様な気がした。


「は~い、それじゃあ朝礼始めるから皆座ってね~」


 先生が教室に入ってきて仲良しグループの近くにいたクラスメイト達は自分の席に戻る。俺と昌太はそもそも自分の席なので体の向きを前に向けるだけでいい。

 そうして、今日という一日は始まる。


 授業もすべて終わり、放課後。


「ふぅ、やっと終わりか……」


 今日は体育もあったので肉体的にも怠いが、これから精神的に怠いことをしなければならない。


「いや、怠いというより、気が重いのほうが正しいのか?」


「何がだ?」


 律儀に独り言に反応する昌太。


「帰り道にでも例の質問をしようかと……」


 例の質問。それは朝もその件について昌太と話していた。その質問とは……、


「相変わらずムサイ男二人だこと」


「……そのムサイ男の片方の家に泊まり込んでいるのはどうなんだ?」


「私はあんたの家に泊まり込んでいるんじゃなくて、親友の家でにゃんにゃんしているだけよ」


「にゃんにゃんて……、お前人の家でなにやってんだ?」


 嘆息しながらも、頭の中で二人が部屋でにゃんにゃんしているところを想像してみる。

 ……悪く、ないかもな。

 は! い、いかんいかん。危うく桃色アニメーションを脳内で上映させられるところだった!

 俺たちの美しい友情をむさくるしいという評価を下した篠崎は、俺が想像したことを見抜いたのか、ニヤニヤとこちらを見下している。


「な~にを想像したのかしらぁ……?」


 口に出しやがった。畜生、否定できねぇ。


「大変ね、義理だからっていやらしい目で妹をみてくる兄がいると」


 そういって篠崎がぽんと誰かの方に手を置いた。

 てっきり篠崎だけかと思えば、誰かが近くにいたようだ。

 このままではいらん風評被害を受けてしまいそうなので、どうにか誤解を解こうと……、いや、待て。

 今、義理の妹だとか兄だとか言わなかったか?


「……まさか」


 俺は篠崎の手が置かれている肩に視線をゆっくりと伝わせると、そこには予想通りの少女が立っていた。そう、前髪で目元を隠している少女が。


「……ご、誤解ですよ? 別に本当に想像してみたら意外とありだななんて思ってませんよ?」


「龍臥、むしろどんどん白状してるぞ。動揺しすぎだろうが」


 そりゃ同様ぐらいする。ただでさえ、うまく会話ができていないというのに、これ以上溝が深まってしまっても困る。

 これ以上ここにいると、さらに篠崎にいじられる可能性がある。ので、


「さて帰ろう! じゃ、じゃあな!」


 俺はさっと妹の手を取ると、教室から脱出する。


「あ……」


 教室を出るとき、チラリと見えた級友二人は苦笑していたり、悔しがっていたりしていた。




 生徒昇降口までノンストップで走りきると、繋いでいた手を離す。

 俺は無駄に体力があるのでこの程度では少しも息が乱れないが、妹の方はインドア派らしく息を乱している。


「ごめん、急に走ったりして」


「はぁ、はぁ、い、いえ……」


 息を整えながら頭を振って微笑む。神に隠れてよく見えなかったが、口元でそう判断できる。


「急なことで少しびっくりしただけですから」


 そう言って微笑む少女の顔は、今だけは楽しげだった。


「手、握ってもらっちゃった……」


「別に握ってほしかったらいつでも握るけど?」


 恥ずかしそうに、それでいてうれしそうに自分の手のひらを見つめる少女の呟きは、ばっちり少年に聞かれていた。

 聞かれた本人は両手を後ろに回して隠す。まさか聞こえるとは思えなかったので、動揺して顔よりも手を隠してしまったのだ。

 ブンブンと前髪を振り乱しながら首を横に振る妹の姿に、兄は首をかしげながら自分の言ったことの意味をあまり理解していない。


「まぁいいや。帰ろうか」


「は、はい……!」


 ただ一緒に帰るだけなのに緊張気味な妹に頭をかきながら、靴を履きかえて昇降口からでようとした、その瞬間。


 キィィィィィィィ………………ン


 高周波の音が微かに耳に聞こえてきた。

 それは聞こえたというよりも、流れてきたという方が正確で、脳に直接響いてくる。その違和感からくる不快感に顔を顰めたのは少年だけではなかった。

 むしろ、少女の反応の方が大きく、びくっ!と何かにおびえるように体を震わせた。

 少年が口を開いて少女に手を伸ばす。


「どう……!?」


 少年は目の前で起こったことに言葉を詰まらせる。

 少年と少女の目の前に空間が揺らいだ。それも、最初は本当に小さな歪みだったそれは、周りを侵食するように面積を広げていく。


(なんだよ、これ!?)


 少年は思わず後ずさりしそうになったが、歪みを挟んだ向こう側で頭を抱えている少女が見えると、足が止まった。

 少女は少年と違い、空間の歪みというよりは空間の穴のようだと感じていた。

 その穴は少し、なんて速度ではなく、瞬く間に広がり、少女だを包み込もうとする。


「させるか…………!!」


 まるで自分と少女を分断させるような穴の向こう側に、微かな恐れを抱きながらも、それでも腕を伸ばした。

 だが、意志でもあるかのように、邪魔される前に穴が一気に広がるスピードを上げる。

 一瞬で少女を包み込もうとする穴。いま、この手を伸ばすことを躊躇えば、一生後悔すると思えた。だから、少年は腕を伸ばし続けた。妹の方へと。妹も、腕を伸ばす。

 だが、あともう少しというところで穴が妹の全身を包み込んでしまう。


「諦めるか……!」


 それでも龍臥は腕を伸ばすことを止めなかった。あともう少しで届いたのだ。ならば伸ばさない道理はない!

 包み込まれた内側はどうなっているか見えないが、まだそこに妹がいる。助けを求めている気がした。


「届け……!」


 空間の歪みを突き抜けて、温かく、柔らかな腕を掴み取る。

 その感覚を確かめると、一気に引き寄せる。少女の名前を呼びながら。


「”ゆり”……!!」


 ギュオウン!


 歪みは龍臥の腕が届いた瞬間、一瞬にして消え失せる。

 まだ夕暮れには早い昇降口には、リノリウムの床に転がるカバンが二つ。それ以外には、影一つない。



 初めましての方は初めまして。

 あ、こいつの名前DFFACで見たけどすげぇ弱かった、という方は忘れてください。

 どうも、自称ドS変態紳士作家、かきすです。


 まず始めにこの作品ですが、他サイトさんに公開しているものをまるっと、もしくは一部変えて投稿している作品です。そのため、更新期間につきましては非常に遅くなるものと思いますのでご了承を。

 この作品の世界観は「表裏の鍛冶師」という現在更新中の小説と同じです。正確には、何百年後の世界になります。そのため、「表裏の鍛冶師」内ではなかったような物が普及していたり、歴史の中で消えていったものもあります。


 「表裏の鍛冶師」はシリアスな作品のつもりで、こちらはギャグ路線ですね。もちろん、シリアスな場面もそこそこ、というかのっけからそういうシーンもあります。が、主軸はラブコメで行きたいと思っています。

 更新ペースが遅いことや、一回の更新で文量が少ないため、キャラの名前や設定を忘れている場面があるかもしれません。そういった場合はさりげなく直していきます。

 ので、さりげなく感想欄を使ってお知らせいただけると二重の意味でおいしいです。主に私が。


 「表裏の鍛冶師」と世界観が同じということで説明が適当なところもあるので、それはご了承ください。


 そんなこんなで新作ですが、次回以降もよろしくお願いします。

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