第8話 魔将エメラダ
玉座の間での死闘から一夜明け、俺たちは王城の客室に来ていた。
「頼む、勇者よ、リリーナを救ってくれ!」
国王様が、俺たちに頭を下げていた。
「はい、国王様、お任せください。なんとしても姫を助けてみせましょう!」
「すまぬ。先の戦いで、我ら人間がどれほど脆弱かを嫌というほど理解させられた、だがわしは諦めんぞ、我らには勇者がおる、あの怪物にも恐れぬ兵もおる。必ずや、我らの手で魔王を倒してみせようぞ」
「「は、仰せのままに」」
「勇者たちよ、其方らにはまだ、わからぬことがたくさんあるじゃろう。よって、こちらで、過去の勇者の伝承を研究しているものを呼んでおいた、是非役に立たててくれ」
「ありがとうございます」
こうして俺たちは、その研究者のもとへ向かうことになった。
―――
「初めまして、私が、勇者の伝承について研究している、リヒト・マークリーです。よろしくお願いします」
メガネをかけ、白いローブを着た青年が件の研究者であるらしい。
「まだ、若いのですね」
ミーナが言った。
「ええ、確かによく言われます。ですが、安心を、きちんと学会での厳格な審査の上で私は選ばれましたから、問題はありませんよ」
「いえ、申し訳ありません、そのようなつもりで言ったわけではないのです」
「質問しても良いかしら?」
勇者が言った。
「ええ、そのためにここにいますから、なんでしょう?」
「あの、魔王の使い魔とやらを名乗った魔人はなんなのかしら?」
「彼女らはおそらく、魔人ではなく伝承の中で魔族と呼ばれる存在だと思われます」
「魔族?」
「はい、伝承によりますと魔族とは魔王とともに現れ、世界を破滅へ導いた者たちの総称であり、その中で、正しき心に目覚め神の陣営に下った者たちが魔人と呼ばれるようになったのです」
「ふーん、つまり、たいして魔人と変わらないってこと?」
「あまり、そういうことは彼らの前では言わないようにして頂けないでしょうか?彼らは我々人間よりも長寿ですので、特にドラゴン族やトレント族などは、その頃のことを憶えている者やその当時を経験したものも少なからずいるのです」
「なんで、そんなはっきり言えるのか気になっていたけれど、あんたはその、長生きした魔人から聞いたってことね」
「はい、リーンハイブの守護者である、トレント族のゲーニック様からお話を伺いました」
リーンハイブというと、リオガル王国最大の森で有り、最大のエルフの住処のことか。そこのトレント族のゲーニックといえば、かなり有名な魔人で、親しみを込めてリーンハイブの守護者と呼ばれているらしい。とても大きな大木で、何千年もの時を生きているなんて噂を聞いたことがあるが、あれは本当だったのか。
「それで、奴らはどこから来ているのかしら?確か勇者が魔王を封じたとかいう、祠はまだ大丈夫なんでしょう?」
「それは、私の方から話しましょう」
リヒト博士の横に立っていた騎士が進み出た。
「失礼、私は貴方達へ我々リオガル王国が入手した情報を伝えるよう言われております、グラトンと申します。それで、その祠というのは、グランバル帝国の東、魔封の祠のことですね、そうです。そこはまだ何も起きてはいません。ですが、リオガル王国の南にある祠はご存知でしょうか?」
「・・・あの、演劇の「魔将エメラダの最後」に出てくる祠でしょうか?」
「よく知っていますね!」
「・・・いえ、・・・演劇は好きですから」
シェイミは演劇が好きなのか。俺は、演劇なんてほとんど見たことないな、そもそもテオリルまで来る吟遊詩人や芸人はいないからなぁ。
「で、その祠がどうかしたの?」
「壊されたようなのです。そこを守護していた、我らリオガル騎士団、ガイリウス栄光騎士団からの連絡は未だ途絶えております」
「つまり?」
「今活動しているのは、魔王本人ではなく魔将エメラダであると考えられます」
「それで、そのエメラダっていうのは、なんなの?」
「そうですね、魔王軍の中でも最も頭の良い、知将と呼ばれる存在であったと伝えられております」
そうなのですよ、とリヒト博士。
「伝承や、先程出てきた演劇などでは、魔王軍の中で最も恐ろしい魔族と描かれており、魔王の次に強いのではないか、とよく議論される魔族ですね。最後は、勇者一行と死闘を繰り広げ、勇者の仲間の一人、戦士と相打ちになる形で封印したと伝わっています。かの知将であれば、封印を自力で解くことができてしまっても何らおかしくないのだろう、というのが我々学会の見解なのです」
そこに、グラトンが前に補足する。
「リオガルで集めた情報によりますと、魔族たちは現在、リオガル南の祠周辺にのみ活発な行動が見られています。そして、それに呼応するかのように魔獣や、一部の魔人が祠周辺へ移動を開始しているとの情報も入っております」
「ということは姫様もそこにいる可能性が高いと?」
俺も気になったことを質問してみる。
「はい、そうなります」
「じゃあ、そこに向かいましょうか」
こうして、俺たちの最初の目的地は決まった