第2話 狩りをする者達
一旦休憩をする為にキャンプまで戻ってきたテルリウスたち。
「それで、魔法の方はどうだ?順調か?」
リーガルさんが聞いてきたのは、俺が今、村はずれに住んでいる「魔女」に魔法を習っていることについてだ。
「魔女」は魔法の中でも、魔法陣や、スクロール(呪文の書かれた巻物のようなもの)などの文字に魔力を付加し、周囲の魔力を利用して発動する魔法を得意とする魔法使いの女性で、「魔女」というのは彼女が自称していたのを村のみんなが親しみを込めて呼んでいるだけで、別に彼女がイメージにあるような悪い女性だったり、年老いていて胡散臭いわけでもなくむしろ進んで村人の治療や薬草の調合などをしてくれる素晴らしい女性である。
「はい、今は師匠から「魔文紋」を教わっています」
魔文紋とは、文字そのものに、魔力で効果を与える技術の事である。
「ほう、魔文紋とはいえこの歳でもう魔法に触れさせてもらっているのか、すごいな!」
「いえ、そんなすごいことはしていませんよ、一、二文字書くのでやっとですから」
それで起きるのはマッチの火すら大きく見える小さい火ぐらいである。
「そうか?我が隊の魔道士の娘が十歳になったのに心構えやら、親の自慢話ばかりで、魔法の魔の字も教えてもらえないと私に愚痴を言ってきたぞ」
多分それは、俺に前世の記憶があるからです。魔文紋ってなんとなく前世の漢字に似ているんだよね、意味のある文字を組み合わせるところとか。
「つまり、俺の息子は天才ってわけだ」
そこへ、薪へ火をつけていた父さんが帰ってきた。
「全く父さんはそればっかりなんだから」
相変わらず、一言目にはこれだ。
「それで、どうだ魔法を私にも見せてもらえないか?」
えぇー、まだ、まだ全然できないから嫌なんだけれどなぁ。
「お、それは良い! どうだ父さんにも見せてくれよ」
むぅ、父さんまで期待した目でこちらを見てくるもんだから嫌だなんて言えないじゃないか。
「あまりすごいのはできないからね」
一応、一言言い訳をしておいてから、俺は外に出る。これから使うのは火の魔法なので万が一テントに火が付いたら外に出たのだ。
そして、石の上に『火』を意味する魔文紋を一文字書き込む。そして起爆剤のイメージで少し自分の魔力を加えてやると石の上にマッチの火と同じかそれよりも小さいくらいの
火が灯った。
「ほう、確かに木片もないのに火が灯っているな」
「まだ、これが精一杯ですが」
「いや、君の歳を考えればこれでも十分すぎるくらいだよ」
「ありがとうございます」
「なんだよ、そんな便利な物使えるのなら、テルが火をつけてくれれば良かったのに」
と父さんが不満げに言っているが、まだ俺の実力だと薪に火をつけたまま維持し続けるのはかなり体力を使うのだ。(この世界には魔素という物が有り、この魔素が魔法の元となるのだけれど、これを体から放出する際に体力を使うのである。)
―――それから休憩を終え、いざ罠を確認しようとキャンプを出たときだった
――キュオーン
――ブゥゴォォー
魔獣の声が響いた。
「罠の方からだ!」
俺たちは急いで罠の方へ向かうと、そこには一見すると子狐のような魔獣と、人と豚を混ぜたような魔獣、あれは知っているぞ! オークだ!!
多分狐の魔獣が罠に引っ掛ったのだろうが、罠は既に叩き壊されており、狐の魔獣は自由になっていた。
「なんだか、オークが助けたって雰囲気じゃないな」
「むしろ餌を取ろうとして罠を叩き壊したのだろうな」
「できれば逃げたいねぇ――。」
――ブゥオーー
――ブルルルル
「ありゃ、団体さんでございましたか」
「この感じ、四体に囲まれているな」
「逃げることはできそうですか?」
相当やばい状況だぞ、こんなのは狩りを手伝ってから初めての状況だ。
オークといえば、騎士団でも必ず二人で一体を相手にしろと教えられている魔獣だ。
確かに人間に比べれば頭は良くないが、魔獣の中では決して悪いわけではないし、奴らの筋肉は人の二倍はあるのだ。
「!っ伏せろぉ!!」
直後、木の棒が飛んできて、父さんとリーガルさんの隠れていた、人を二人は隠せるほどの大木を深々と傷つけたのだ。
「ちっ、俺が、二体を引き付ける、ベルエットお前もいけるな!」
「当たり前だ!テル、お前は逃げろっ!」
「わっ、わかった」
くそっ、なんて日だ!鳴き声の感じから南と西側から来ているらしい、だから東へ向かって俺は走り出した。
―――――
はぁはぁ、結構走ったのだが、ここはどこだろうか?
足の痛みで思わず立ち止まってしまう。限界だった。
――キュン
「な、なんだ!?」
何かの鳴き声が聞こえたから周囲を見渡すと、あの狐の魔獣がいた。――俺に気づきついてきたらしい。
――クゥーン
突然、狐の魔獣が近づいてきて、その体を光らせた。
「何なんだよ!?」
もう今の俺には避ける気力すらない状態だったから、どうにでもなれ、と思いながら狐の魔獣を見ていると、緑色の光を放つ狐の魔獣はそのまま俺の足を舐めたのだ。――すると、驚くべきことにお足の痛みが引いていくではないか!
「ま、まさか治癒魔法!?」
確かに魔獣の中にも魔法を使える種族はいるらしいとは聞いたことがあるが、それは既存の種が高い魔素を浴びて特別変異した上位種と呼ばれる種しかいないはずである。それか、リオガル王国を含むほとんどの国が、魔人と人が呼び対等に接している、ドラゴンやケンタウロスのような人と同じかより高い知能を持ち人と意思疎通の測れる種の中にも魔法を扱う者はいるのだが、彼らを様々な理由から魔獣と呼ぶ国もあるため、人によっては、魔人も魔法を使える魔獣の中にふくめる場合もある。
俺の足を治療し、疲れもあらかた取り除いてくれた狐の魔獣は、自分はやることをやったと言わんばかりに俺の肩に乗り、助けたのだから足になれと言わんばかりに丸くなってしまった。
「ったく、わかった、お前を助ければいいんだろ」
――クーン
仕方がないので、こいつも連れて少し歩くと、水の音が聞こえた。水の音を辿って行くと、それなりの幅のある川が見えてきた。
この森でこの大きさの川は一つしかないはずだ。ということは、この川を下っていけば、村の皆が水汲みに使っている湖につながっているはずだ。帰れるぞ!
――そして、ある程度見覚えのある辺りまで川を下っていくと、
――ブゥォォォーー
鳴き声が聞こえてきた。